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4章・恋するチト
約束の日・3
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「え……」
「でもさ、これ話したら、もうチトくんと友だちでいられなくなると思ったんだ……。きっと、嫌われちゃうだろうなって……。だから、ずっと話せなかった。けど今日、チトくんとおじさんちに一緒に行くなら、やっぱちゃんと言っておかないと、嘘吐いたままは嫌だったし、チトくんにも納得してもらえないんじゃないかって思って……」
「えっと……」
「でも……、やっぱり言うの怖くてさ……。ぐるぐる考えてたら、家を出る時間、過ぎちゃったんだ……。姉ちゃんに車出してもらえたけど、姉ちゃん、運転慎重だから、すげー遅いし……。ほんと、待たせちゃってごめん……!」
チトの手を握る、モエの手の平が汗ばんでいるのがわかる。モエの頬はトマトのように赤らんで、耳まで紅潮していた。
「ね、ねぇ。モエくん、それ……」
「うん……」
「ごめん……。ちょっと、僕……、全然よくわかんないんだけど……。もしかして、ほんとはそんなに植物のこと好きじゃない、とか……、そういう話?」
チトが訊くと、モエはきょとん、として目をぱちくりさせた。チトはモエと見つめ合ったまま、小首を傾げる。モエがチトにハマっているというのは、つまり。チトと一緒にいると楽しい、ということだろうか。モエからの好意は無論嬉しかったが、それを遅刻するほど考えるというのも、なんだかおかしい。それに、嘘と言うにはずいぶん大げさな話だ。
しばらくそうして、チトはモエと互いに見つめ合っていた。だが、やがて、モエががっくりと肩を落とす。
「あー……、そっか……。ごめん、ごちゃごちゃ言われても、わけわかんないよな……。もっとシンプルに言うわ。――よし、チトくん」
「はい……?」
まるで「仕切り直しだ」とでも言うかのように、モエが姿勢を正してチトを呼ぶ。手もしっかり握り直されて、胸のドキドキがこれまでになく高鳴った。
「俺はね、チトくんが、す、すう……っ」
「すう……?」
「す、好きなんだよ……!」
「え……」
好き――……。
モエの言葉を聞いた途端、脳内がフリーズしたように真っ白になった。だが、その数秒後、ぶわっと一気に頬が火照る。体じゅうがドクドクと脈打ち、期待感で胸がいっぱいになる。モエの言う「チトへの興味」と「好き」が、友だちとしてのそれではないのかもしれない――と気付き、モエがどうして、今朝、ぐるぐる考えてしまって遅刻したのかをも理解した。
「そ、それ……。それ、もしかしたら僕と同じかも……」
「え……! ほんと?」
「うん。あのね、僕も……。僕も、モエくんのことが好きで……」
「ほんと……? ほんとに? それ、俺とおんなじやつ?」
モエが訊き返し、チトは頷いた。チトの想う「好き」と、モエの想ってくれる「好き」は、たぶん同じだ。チトはそう感じている。けれど――。
「お、おんなじだと思う……!」
「ちょっと待って……、それって、あれだよね。えっと、フツウのやつじゃないやつだよね……?」
「うん……! フツウのじゃないやつ!」
緊張と興奮と恥ずかしさあまりに、互いにうまく伝えられなかった。冷静になれば、恋愛感情として、とか、恋心だとちゃんと伝えられそうなものなのに、なんだかややこしくなっていくことに焦ってしまう。きっと、モエも同じだったのだろう。
しかし、この気持ちをどう説明すれば、モエにはっきり伝わるのだろう。どうすれば、友だち以上の想いだと、恋心だと確かめ合えるだろう。そう思った時、チトはふと、気付く。
窓の外に見えたのは、古いビルの上に立つ、大きな看板だった。男女が唇を重ねている、その看板を見て、チトはこれしかないと確信する。そうして、目をぎゅっと瞑り、モエの唇めがけて、自分のそれを重ねた。
「……ッ!」
唇が重なった瞬間、モエの吐息がわずかに漏れた。それはほんの数秒だったはずだが、呼吸を止めたせいだろうか。チトはその瞬間に時間が止まったような、不思議な感覚に包まれていた。一方で、体は丸ごと心臓になってしまったように、バクバクと脈打っている。
ほどなくして唇を離すと、モエと視線が合った。鳩が豆鉄砲を喰らったような、まん丸の瞳がチトを見つめている。今、自分がなにをしたのか。改めてそれを考えると、もう今にも気が動転して、この高速バスを降りたくなる。チトの頬はますます熱くなって、その熱が全身に回っていく。もう今にも発火しそうだ。
や……、やっちゃった――……!
「あ、えっと……。ごめんッ、急に……!」
この熱と恥ずかしさをどう処理したらいいかわからない。自分からキスをしたくせに、このあとどうしたらいいのかわからず、チトはおろおろしながら、頭を掻き、目を逸らす。すると、不意に――。さっきモエの唇を奪ったチトのそれは、モエの唇によって仕返しのようにふさがれた。
「ん……ッ!」
触れるだけの、ほんの一瞬のキス。けれど、すぐに離れていったはずの唇には、彼の熱の余韻が残っている。
「……いいよ。チトくんの好き、俺と一緒みたいだから」
あまりにドキドキして、恥ずかしくて、思考が働かず、頷くこともできない。チトはしばらく、ぽーっとしてモエを見つめていた。すると、ほどなくしてモエが柔らかく微笑み、チトを抱きよせ、ぎゅうっと抱きしめる。これまでのハグで、一番強い力だった。
「はぁ、やば……。俺ら、両想いじゃん……」
「うん……」
「すっげえ嬉しい……!」
チトの耳元で、熱い吐息が囁く。しばらくして、モエはチトの体を離したが、勝浦に到着するまで、手だけはずっと繋いだままだった。
「でもさ、これ話したら、もうチトくんと友だちでいられなくなると思ったんだ……。きっと、嫌われちゃうだろうなって……。だから、ずっと話せなかった。けど今日、チトくんとおじさんちに一緒に行くなら、やっぱちゃんと言っておかないと、嘘吐いたままは嫌だったし、チトくんにも納得してもらえないんじゃないかって思って……」
「えっと……」
「でも……、やっぱり言うの怖くてさ……。ぐるぐる考えてたら、家を出る時間、過ぎちゃったんだ……。姉ちゃんに車出してもらえたけど、姉ちゃん、運転慎重だから、すげー遅いし……。ほんと、待たせちゃってごめん……!」
チトの手を握る、モエの手の平が汗ばんでいるのがわかる。モエの頬はトマトのように赤らんで、耳まで紅潮していた。
「ね、ねぇ。モエくん、それ……」
「うん……」
「ごめん……。ちょっと、僕……、全然よくわかんないんだけど……。もしかして、ほんとはそんなに植物のこと好きじゃない、とか……、そういう話?」
チトが訊くと、モエはきょとん、として目をぱちくりさせた。チトはモエと見つめ合ったまま、小首を傾げる。モエがチトにハマっているというのは、つまり。チトと一緒にいると楽しい、ということだろうか。モエからの好意は無論嬉しかったが、それを遅刻するほど考えるというのも、なんだかおかしい。それに、嘘と言うにはずいぶん大げさな話だ。
しばらくそうして、チトはモエと互いに見つめ合っていた。だが、やがて、モエががっくりと肩を落とす。
「あー……、そっか……。ごめん、ごちゃごちゃ言われても、わけわかんないよな……。もっとシンプルに言うわ。――よし、チトくん」
「はい……?」
まるで「仕切り直しだ」とでも言うかのように、モエが姿勢を正してチトを呼ぶ。手もしっかり握り直されて、胸のドキドキがこれまでになく高鳴った。
「俺はね、チトくんが、す、すう……っ」
「すう……?」
「す、好きなんだよ……!」
「え……」
好き――……。
モエの言葉を聞いた途端、脳内がフリーズしたように真っ白になった。だが、その数秒後、ぶわっと一気に頬が火照る。体じゅうがドクドクと脈打ち、期待感で胸がいっぱいになる。モエの言う「チトへの興味」と「好き」が、友だちとしてのそれではないのかもしれない――と気付き、モエがどうして、今朝、ぐるぐる考えてしまって遅刻したのかをも理解した。
「そ、それ……。それ、もしかしたら僕と同じかも……」
「え……! ほんと?」
「うん。あのね、僕も……。僕も、モエくんのことが好きで……」
「ほんと……? ほんとに? それ、俺とおんなじやつ?」
モエが訊き返し、チトは頷いた。チトの想う「好き」と、モエの想ってくれる「好き」は、たぶん同じだ。チトはそう感じている。けれど――。
「お、おんなじだと思う……!」
「ちょっと待って……、それって、あれだよね。えっと、フツウのやつじゃないやつだよね……?」
「うん……! フツウのじゃないやつ!」
緊張と興奮と恥ずかしさあまりに、互いにうまく伝えられなかった。冷静になれば、恋愛感情として、とか、恋心だとちゃんと伝えられそうなものなのに、なんだかややこしくなっていくことに焦ってしまう。きっと、モエも同じだったのだろう。
しかし、この気持ちをどう説明すれば、モエにはっきり伝わるのだろう。どうすれば、友だち以上の想いだと、恋心だと確かめ合えるだろう。そう思った時、チトはふと、気付く。
窓の外に見えたのは、古いビルの上に立つ、大きな看板だった。男女が唇を重ねている、その看板を見て、チトはこれしかないと確信する。そうして、目をぎゅっと瞑り、モエの唇めがけて、自分のそれを重ねた。
「……ッ!」
唇が重なった瞬間、モエの吐息がわずかに漏れた。それはほんの数秒だったはずだが、呼吸を止めたせいだろうか。チトはその瞬間に時間が止まったような、不思議な感覚に包まれていた。一方で、体は丸ごと心臓になってしまったように、バクバクと脈打っている。
ほどなくして唇を離すと、モエと視線が合った。鳩が豆鉄砲を喰らったような、まん丸の瞳がチトを見つめている。今、自分がなにをしたのか。改めてそれを考えると、もう今にも気が動転して、この高速バスを降りたくなる。チトの頬はますます熱くなって、その熱が全身に回っていく。もう今にも発火しそうだ。
や……、やっちゃった――……!
「あ、えっと……。ごめんッ、急に……!」
この熱と恥ずかしさをどう処理したらいいかわからない。自分からキスをしたくせに、このあとどうしたらいいのかわからず、チトはおろおろしながら、頭を掻き、目を逸らす。すると、不意に――。さっきモエの唇を奪ったチトのそれは、モエの唇によって仕返しのようにふさがれた。
「ん……ッ!」
触れるだけの、ほんの一瞬のキス。けれど、すぐに離れていったはずの唇には、彼の熱の余韻が残っている。
「……いいよ。チトくんの好き、俺と一緒みたいだから」
あまりにドキドキして、恥ずかしくて、思考が働かず、頷くこともできない。チトはしばらく、ぽーっとしてモエを見つめていた。すると、ほどなくしてモエが柔らかく微笑み、チトを抱きよせ、ぎゅうっと抱きしめる。これまでのハグで、一番強い力だった。
「はぁ、やば……。俺ら、両想いじゃん……」
「うん……」
「すっげえ嬉しい……!」
チトの耳元で、熱い吐息が囁く。しばらくして、モエはチトの体を離したが、勝浦に到着するまで、手だけはずっと繋いだままだった。
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