【完結】恋に花咲け、植物男子!

いなば海羽丸

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4章・恋するチト

約束の日・2

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「はぁ……」

 なんだか、あまり期待できる連絡ではなさそうだ――と、チトはネガティブになりながら、一度、深呼吸をして、通話ボタンを押す。そうして、覚悟した。モエが謝って、剣道部に戻るという報告を受けることを。

「はい……、モエくん?」

 だが、スマホを耳に当てて、モエの名を呼んだ瞬間。聞こえてきたその声に、漠然ばくぜんとした期待がまたふくらみ始めた。

「チトくん、ごめーん……! ちょっと、これには深いワケがあって!」
「え……?」
「す、すぐ着くから待ってて!」
「うん……。あ、あの……」

 通話が切れてしまった。チトはあいかわらず不安感をぬぐえないまま、ふわふわした期待感をも覚えて、その場に立ち、きょろきょろと周囲を見回す。すると、しばらくして。

「ん……?」

 あれは――……。

 スパースロー映像か、あるいは選挙カーのお出ましかと思うほど、ゆっくりとしたスピードで駅前のロータリーに入ってきた1台の車に目が留まった。ワゴンタイプの、赤い軽自動車だ。運転席に座っているのは見覚えのある女性だったが、しかし。まるで絶叫マシンにでも乗っているかのようなひどい形相で、思い当たる人物なのかどうか、自信が持てなかった。やがて、唖然あぜんとするチトのすぐ目の前まで車はやってきて、後部座席の窓が開いた。

「チトくん、ほんとにごめん!」

 窓から顔を出したのは、モエだった。その顔と声に、チトの胸の鼓動は一気に高鳴りはじめる。

「モエくん……! あっ、えっと……」
「姉ちゃんの車、おっそくてさ……!」

 モエはそう言うと、「ねえちゃん! ありがと、もう停めていいよ!」と運転席に向かって言ってから、慌てたように後部座席から降りてくる。やはり。運転しているのは、モエの姉、茗子のようだったが、それにしても、あのスピードでモエの家から走ってきたのだろうか。

「あ、あの、モエくん――」

 モエはリュックを右肩に掛けて、チトのそばへ駆けてくると、その勢いのまま、チトの肩をがしっとつかんだ。チトは思わず身構える。

「チトくん、ほんっとにごめんな! すげえ遅れちゃった!」
「あ、うん……。僕は大丈夫だけど……」
「遅刻した理由は、電車の中で話すよ。とりあえず、行こ」
「う、うん……」

 そう返事をしたあと、チトはわけがわからないまま、モエに手を引かれて駅の改札へ向かう。チトは彼の背中を見つめて、頬をゆるませた。遅刻した理由がなんだっていい。姉の茗子の車のせいなのか、寝坊なのか。なんだってよかった。ただ今、モエが目の前にいてくれるということは、それが彼の選んだ答えだということ。モエはチトとの約束を選んでくれたのだ。チトはそれだけで、とても嬉しかった。


 ***


 ところが、それからモエは電車の中で、ほとんどチトと言葉を交わそうとしなかった。大好きなモエとのはじめての旅に心浮かれるチトは、叔父夫婦がどれほど素敵な山野草店を営んでいるかを話し、そもそも山野草とはどんなものがあるのか、叔父の店にはどんな植物があるのか、月下美人の今の状態なども話したが、モエはなにやら表情が硬い。それを見れば、また不安になった。やはりモエは、九州遠征へ行きたかったのではないか――と。

 再び不安を抱えながら、チトはモエといくつか電車を乗り継ぎ、蘇我そが駅で高速バスに乗り込んだ。平日のせいか、まだ発車時間まで時間があるせいか。バスの中はこのシーズンにしては意外にもがらんとしていた。

いてて、よかったね。このバス、すごく混むこともあるから……」
「そうだね」
  
 チトとモエは、バスの一番後ろの、はじの席に座る。いているのはいいのだが、こう会話が続かないうえに周囲まで静かだと、とてつもなく気まずい。

 次はなにを話そうか――とチトは頭を巡らせた。だが、そうするうち、モエは溜まりに溜まっていたものをみんな吐き出すような、重いため息をいたあと、静かに話し出した。

「なぁ、チトくん……。俺さ」
「うん?」
「チトくんにいっこだけ、嘘いてることがあるんだよね」
「うそ……?」

 モエがチトに嘘をいている。それを聞いて、チトはたちまち不安になる。モエの言う嘘がどんなものかは思い当たらないが、モエの声色こわいろや口調から、それが小さな嘘ではないことは明確で、きっとそれが今日、遅刻した理由なのだろうと察したのだ。

「嘘って、なに……?」

 それの見当もつかないまま、おそるおそるたずねた。すると、モエは突然にチトの手を取り、ぎゅうっと握る。少し汗ばんだ彼の手の平の熱が伝わってきて、心臓がまた、うるさくなる。

「チトくんは剣道と園芸、本当にやりたいのはどっちなのか、ちゃんと考えろって言ってくれたけどさ。俺にとって、一番大事なのはどっちでもないんだよ」
「どっちでもない……。って、どういうこと……?」
「なにから説明していいのかわかんないけど……、俺はね、植物よりもチトくんに興味があるの。だから、植物のこと知りたいって思ったのも、園芸部に入りたいって思ったのも、みんなチトくん目当てっていうか……。チトくんと一緒にいたいから……、なんだよ」
「植物よりも、僕に……」

 一生懸命に話してくれているのに、チトには彼の言葉の意味がよくわからなかった。つまりモエは実は、植物にはそんなに興味がなかった、ということなのだろうか。しかし、そうとも思えず、チトの脳内には疑問符が浮かぶ。モエは続けた。

「そう。俺は今ね……、剣道でも植物でもなくて、チトくんに一番ハマってんだよ」
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