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4章・恋するチト
約束の日・1
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7月20日。日曜。午前7時の駅前は、日曜の朝ということもあってか、閑散としている。チトはその駅前広場で、大好きな人を待っていた。
今日は思いきりおしゃれをして、この場に臨んでいる。服は以前、お年玉で買ったアウトドアブランドの半そでシャツ。爽やかな水色と、薄い黄緑色のパステルカラーのチェックが夏らしくて気に入って買ったものだ。これは遠出するときにしか着ない、お気に入りのよそゆき服だった。
そのお気に入り服の下は、デニムパンツを合わせてみた。これは、最近流行しているデザインだ。少しぶかぶかしたオーバーサイズの雰囲気は、おしゃれなアパレル店のショーウィンドウでよく見かけるそれによく似ていた。
やっぱりこれ、お買い得だったな……。おじさんちで苗も買うし、母さんたちにお土産も買いたいから安くて助かった。
チトは数日前、園芸作業をした帰りに、いつも作業用の服を購入するワーキングウェアを扱う店に立ち寄った際に、アウトドアファッションコーナーで掘り出し物を見つけた。それがこのデニムパンツだった。元の値段が安いのに、セール品として売られていたそれは、なんとお値引きが入って500円。チトはすぐに試着して合わせ、購入した。
靴はいつものスニーカーだ。リュックには、2泊3日分の荷物がぎゅうっと詰まって入っている。また今日、髪にはふわふわエアリータイプのワックスを少しだけつけてみた。どこが変わったのかは、自分でもよくわからないが、これがチトにとって、精一杯のおしゃれだった。
ただし今、チトの胸は不安感に覆われている。これだけ慣れないおしゃれをしたのは、言わずもがな、モエのためだったが、ここに今日、彼が来てくれるとは限らない。もしかしたら、吉川の誘いを受けて悩み、九州遠征へ行ってしまう可能性だってあったからだ。
――俺は九州に行くつもりはないから。来週の日曜、予定通り行く。駅前で待ってて。
モエはそう言っていたが、本当に来るかどうかはわからない。なぜなら、叔父の家の月下美人を見にいくことは、来年に延期できるからだ。月下美人は生きている限り、来年もまた花は咲く。チャンスは今年の夏に限ったことでではない。
だが、モエが高校生として、九州遠征へ参加できるのは、今年が最後。来年からは、その大会を観に行けても、出場はできない。それを思えば、モエがチトとの約束よりも、剣道部に戻るという選択をするのは、仕方がないことに思えた。
正直なところ、チトの心は今、期待半分、不安半分だった。モエがこの1週間、剣道と園芸に向き合って考えて、園芸を選んでくれるなんて、そんな自信はチトにはなかった。
モエくんが、剣道をまたやりたいって思うなら、僕は応援したい。でも……。
――俺じゃだめ? 一緒に見に行くの。
モエの言葉が、チトは本当に嬉しかった。だから、なるべくならこの夏、「大好きな友だちと月下美人を見る」という夢を叶えたいのだ。このタイミングを逃したら、月下美人の花はもう今年は咲かないだろう。なによりも、来年はチトもモエも高校を卒業して、互いに環境が変わってしまうのだ。
来年まで変わらず、友だちでいてもらえるかどうかもわからないし、今、モエは植物に興味を持ってくれてはいても、それが来年の今頃まで続いているかわからない。大学生か、あるいは専門学生か、就職したりして、心変わりしてしまうかもしれない。
そもそも同じ街にいるかどうかすら、わからない。このままこの関係が続いていくのか、それとも自然と疎遠になってしまうのか。そんな不安定な未来を思うと、チトもまた、吉川の気持ちを理解しながら、モエには自分との約束を選んでほしいと願わずにいられなかった。
だから、チトはじっと待った。じりじりと太陽が照りつけるなか、木陰に入って涼みながら、スマホを手に取る。待ち合わせ時間まではあと5分。しかし、この5分が途方もなく長く感じた。
どうか……、どうか……。モエくんが来てくれますように……!
それから、ようやく5分が経った。だが、まだモエの姿はない。スマホを確認してみたが、通知は1件も入っていなかった。胸の内側にたしかにあった期待感が、だんだんと不安感に寝食されながら、少しずつ落胆へ変わっていく。とはいえ、もし九州遠征へ行こうと決めたのなら、モエはきっと事前に連絡をしてくれるはずだ。
そうだよ……。なにも言わないで、モエくんがすっぽかすわけない。きっと、ちょっと遅刻してるだけだ……。
そう思い直し、またスマホを見つめる。だが、そのまま1分。2分。3分が経った。チトはいよいよ不安でたまらなくなる。今日、モエは本当にここに来るのだろうか。
モエくん、やっぱり……、吉川くんたちと一緒に、九州に行っちゃったのかな……。
ところが――。待ち合わせ時間を5分ほど過ぎて、チトがいよいよ心の準備をはじめた頃、不意にスマホが震えた。その途端、モエはビクッと肩を震わせて、慌ててスマホの画面を確認する。
モエくんだ――……。
今日は思いきりおしゃれをして、この場に臨んでいる。服は以前、お年玉で買ったアウトドアブランドの半そでシャツ。爽やかな水色と、薄い黄緑色のパステルカラーのチェックが夏らしくて気に入って買ったものだ。これは遠出するときにしか着ない、お気に入りのよそゆき服だった。
そのお気に入り服の下は、デニムパンツを合わせてみた。これは、最近流行しているデザインだ。少しぶかぶかしたオーバーサイズの雰囲気は、おしゃれなアパレル店のショーウィンドウでよく見かけるそれによく似ていた。
やっぱりこれ、お買い得だったな……。おじさんちで苗も買うし、母さんたちにお土産も買いたいから安くて助かった。
チトは数日前、園芸作業をした帰りに、いつも作業用の服を購入するワーキングウェアを扱う店に立ち寄った際に、アウトドアファッションコーナーで掘り出し物を見つけた。それがこのデニムパンツだった。元の値段が安いのに、セール品として売られていたそれは、なんとお値引きが入って500円。チトはすぐに試着して合わせ、購入した。
靴はいつものスニーカーだ。リュックには、2泊3日分の荷物がぎゅうっと詰まって入っている。また今日、髪にはふわふわエアリータイプのワックスを少しだけつけてみた。どこが変わったのかは、自分でもよくわからないが、これがチトにとって、精一杯のおしゃれだった。
ただし今、チトの胸は不安感に覆われている。これだけ慣れないおしゃれをしたのは、言わずもがな、モエのためだったが、ここに今日、彼が来てくれるとは限らない。もしかしたら、吉川の誘いを受けて悩み、九州遠征へ行ってしまう可能性だってあったからだ。
――俺は九州に行くつもりはないから。来週の日曜、予定通り行く。駅前で待ってて。
モエはそう言っていたが、本当に来るかどうかはわからない。なぜなら、叔父の家の月下美人を見にいくことは、来年に延期できるからだ。月下美人は生きている限り、来年もまた花は咲く。チャンスは今年の夏に限ったことでではない。
だが、モエが高校生として、九州遠征へ参加できるのは、今年が最後。来年からは、その大会を観に行けても、出場はできない。それを思えば、モエがチトとの約束よりも、剣道部に戻るという選択をするのは、仕方がないことに思えた。
正直なところ、チトの心は今、期待半分、不安半分だった。モエがこの1週間、剣道と園芸に向き合って考えて、園芸を選んでくれるなんて、そんな自信はチトにはなかった。
モエくんが、剣道をまたやりたいって思うなら、僕は応援したい。でも……。
――俺じゃだめ? 一緒に見に行くの。
モエの言葉が、チトは本当に嬉しかった。だから、なるべくならこの夏、「大好きな友だちと月下美人を見る」という夢を叶えたいのだ。このタイミングを逃したら、月下美人の花はもう今年は咲かないだろう。なによりも、来年はチトもモエも高校を卒業して、互いに環境が変わってしまうのだ。
来年まで変わらず、友だちでいてもらえるかどうかもわからないし、今、モエは植物に興味を持ってくれてはいても、それが来年の今頃まで続いているかわからない。大学生か、あるいは専門学生か、就職したりして、心変わりしてしまうかもしれない。
そもそも同じ街にいるかどうかすら、わからない。このままこの関係が続いていくのか、それとも自然と疎遠になってしまうのか。そんな不安定な未来を思うと、チトもまた、吉川の気持ちを理解しながら、モエには自分との約束を選んでほしいと願わずにいられなかった。
だから、チトはじっと待った。じりじりと太陽が照りつけるなか、木陰に入って涼みながら、スマホを手に取る。待ち合わせ時間まではあと5分。しかし、この5分が途方もなく長く感じた。
どうか……、どうか……。モエくんが来てくれますように……!
それから、ようやく5分が経った。だが、まだモエの姿はない。スマホを確認してみたが、通知は1件も入っていなかった。胸の内側にたしかにあった期待感が、だんだんと不安感に寝食されながら、少しずつ落胆へ変わっていく。とはいえ、もし九州遠征へ行こうと決めたのなら、モエはきっと事前に連絡をしてくれるはずだ。
そうだよ……。なにも言わないで、モエくんがすっぽかすわけない。きっと、ちょっと遅刻してるだけだ……。
そう思い直し、またスマホを見つめる。だが、そのまま1分。2分。3分が経った。チトはいよいよ不安でたまらなくなる。今日、モエは本当にここに来るのだろうか。
モエくん、やっぱり……、吉川くんたちと一緒に、九州に行っちゃったのかな……。
ところが――。待ち合わせ時間を5分ほど過ぎて、チトがいよいよ心の準備をはじめた頃、不意にスマホが震えた。その途端、モエはビクッと肩を震わせて、慌ててスマホの画面を確認する。
モエくんだ――……。
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