【完結】恋に花咲け、植物男子!

いなば海羽丸

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5章・恋に花咲け、植物男子!

月下美人・4

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「じゃあ、10分だけ」
「え……?」
「僕の気持ちも足して……、10分ね」

 腕の中で、照れくさそうに頬を赤らめながら、チトがそう言った。イルミネーションに照らされ、黒縁眼鏡の奥の瞳がガラス玉のようにキラキラと輝いている。その表情がたまらなく愛らしくて、胸の奥が苦しくなる。そこをぎゅうっとつかまれたような感覚が、モエの呼吸を少し浅くさせ、トクトクトク……と、心臓の鼓動が速くなっていった。

 チトは恥ずかしさにえられなくなったのか、ほどなくすると、モエの体から離れ――だが、モエの手を引き、テラスの端に置かれているベンチに座った。モエも彼にうながされるまま、その隣に座る。

「きれいだなぁ。ナイトクイーンって異名があるのも納得するよ」
「そうなんだ」

 モエは月下美人を見つめるチトの横顔を見つめながら、彼の指に自分の指をからめるようにして、握り直した。その頬は気のせいか――。さっきよりも赤く染まっている気がする。

「チトくん……」

 モエが呼ぶと、チトが振り向く。そうして彼と視線が合う前に、モエはチトの唇に自分のそれを重ねた。その瞬間から、あたたかなチトの体温が重なった部分からじんわりと伝わってくる。その熱と柔らかな唇の感触に胸の苦しさを感じながらも、モエは途方もない多幸感に包まれていた。

 ほどなくして唇が離れたあと、モエは言う。

「チトくん、俺……、友だちになれなくてごめんね」
「え……、いや……」
「でも、大好き。俺に植物のこと教えてくれて、ありがとう」

 モエがそう言ったあと、チトは頬から耳のふちまで、その肌を紅潮させる。そうして「もう参った」と言わんばかりにモエの胸元にもたれかかり、ひたいをぐりぐりと押しつけ、低くうなった。モエはそんな彼をぎゅうっと抱きしめる。チトのそういう反応まで、なにもかもが可愛くて、愛おしくてたまらない。

「僕も、モエくんが大好きだよ……。僕のことも、植物のことも……、好きになってくれてありがとう……。あのとき、中庭でモエくんに会えて……、よかった……」

 チトの言葉と、彼の少しかすれた声に、また胸の奥が締めつけられる。思えば不思議なもので、モエがふた月前、チトと出会ったのは、モエがアキレス腱のケガで無気力になっていたからだった。そうでなければ、モエは中庭で、吉川と結城に会っても、茂みに隠れる必要もなく、チトが大切にしていた植物を踏み荒らしてしまうこともなかった。きっとチトとは顔を合わせても、恋人はおろか、友だち、知り合いにすらならなかったかもしれない。

 なんだか運命的だ。そう思ったモエはまた、チトをめいっぱい抱きしめると、耳元でささやいた。

「ね、俺らってさ。……めっちゃ運命かもよ」

 すると、チトは「すごい……! 僕もそう思ってた!」と返し、嬉しそうに笑った。耳元をチトの吐息にくすぐられ、モエは込み上げてくる想いごと、もう一度、彼をぎゅうっときつく抱きしめる。夜風が吹いても、チトの体は温かくて、譲次の家のシャンプーの匂いと、甘い月下美人の香りがした。
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