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解放
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「ぐ……。この俺が負けた、だと? なぜだ……俺の力は、お前の術を圧倒していたというのに……」
「簡単なことよ。あなたは、驕り高ぶり、私を倒せるチャンスを見逃していた。それに対し……あなたを…………でここまで来た。この覚悟の差が、今の結末をもたらしたのよ……」
「まだ、まだだ……! 俺はこの世界の全てを……!」
その言葉を吐き出した後、俺の眼は一度光を失い、再び明かりが戻った時には、カミリアと彼女にしがみつく〝オレ〟の姿を、なぜか俺の視界は映し出していた。
どういうことだ!? 俺はまだ生きている! 体だってここに……!
カミリアに手を伸ばそうとするが、あるはずの俺の手が、体がそこにはなく、俺が見ているこの風景も、彼女を真上から見下ろすような位置から、ほとんど変わることはなかった。
……俺は、俺は死んだというのか!? あんな女に、あんな塵みたいな白魔導士どもに負けて……!
俺は、生まれた時から、ずっと負け犬だった。常に蔑まれ、親からも必要とされず、ただただ、どんな感情かも解らない、醜くどす黒い〝なにか〟を心の底に積み上げながら、惨めに生き永らえてきた。
そんな俺の人生に、唯一光を与えてくれたのが、カミリアだった。あいつは、俺のことをちゃんと人として扱ってくれた。俺の異形の姿を気にしないどころか、あいつは、「羊さんみたいでかわいい」とさえ言ってくれた。だから俺は、人生に希望を持とうと思った。だが、
だが白魔導士どもは、俺と彼女を引き離した! そしてまた、俺を罵り傷つける奴らを守るための、地獄のような戦いが始まった!
俺は、再び全てを失った。流れる時間は鎖のごとく、俺の心と体をきつく縛りつけ、灯っていた唯一の光を、穢れた紫色に染め上げた。
そんな日々を繰り返す中で、俺は決心したのだ! 俺を傷つけた連中を、弱者を傷つけ虐げる魔導士どもを、一人残さず抹殺するのだとな!
しかし、それも今日で終わりだな……。カミリアは俺を裏切り、くだらない白魔導士どものために命を懸けた……。もう俺は終わりだ。この人生には、何の価値もありはしなかった。憎しみの焔を胸に抱いたまま、この悪夢が終わるときを待ち望むばかりだ……。
俺の体を抱き締め、カミリアは俺の城の赤い絨毯に座り込む。
「ダレン、今までつらいことがたくさんあったわね。私たちはいつも孤独だった。あなたは他人から認めてもらえないでいて、私はみんなからいつも称賛されていて……。けれど、私をちゃんと見て、私の心を理解してくれたのは、あなただけだったわね……」
彼女は慈しむように、優しい声でそこにある俺の体に囁きかけた。
その言葉を聞いた瞬間、俺の心を縛っていた鎖が打ち破られ、カミリアと過ごした日々の幸せな記憶が、清らかに流れる小川の情景のごとく、俺の脳裏に蘇り始める。
――カミリア、俺たちは幸せになれるのかな?
――なれるわ。私が、この世界を変えてみせる。
――カミリア、俺たちはもう、これで終わりなのかな?
――そんなこと、絶対にないわ。たとえ離れていても、私の心はあなたと共にある。だからお願い、私が戻ってくる時を、どうか待っていて。私が絶対、この世界を変えてみせる。
ああ、そうか。
カミリアは、ずっと俺のために戦ってくれていたんだ。それなのに俺は、ずっと自分のことばかりで、ちゃんと君のことを見ていなかった……。君は、俺だけでなく、この世界の全てを、救おうとしていたんだね……。
それからしばらくして、カミリアは、最後の力を振り絞るように、小さな声で言葉を紡いだ。
「ごめんね、私が守り切れていれば……。ダレン、みんな……ごめん、ごめんね……」
お願いだ、どうかそんなことを言わないでくれ……。俺が悪かったんだ。俺が、君を信じ切れなかったのがいけなかったんだ。すまなかった。俺が、俺のせいで…………。
何を言おうとも、もう彼女に届くことはない。悔やんでも、嘆いても、全ては後の祭りなのだ。これが、過ちを犯した俺に対する、罰なのだろう。
カミリア、これが俺の罪の果てだというのなら、全てを受け入れるよ。たとえ、この苦しみが永遠に続くのだとしても、俺は耐えてみせる。君が抱えていた苦しみは、きっと、もっとずっと深かったはずだから…………。
視界は閉ざされ、暗闇だけが俺を包む。俺はこれから、何もないこの闇という牢獄の中で、永遠に、罪を償い続けなければならないのだろう。大勢の人を殺め、他者を道具のように操り続け、果てには、愛する人をも裏切ってしまった。そんな俺には、この程度の責め苦、当然の報いだ。
沈んでゆく。どこまでも、どこまでも。時間の感覚も、俺自身の存在も、何もかもが無に近づいていく。生まれた時から何も持っていなかった俺には、ふさわしい末路と言えるだろう。
――さらばだ、カミリア。
心を、完全に闇へ投げ打とうとしたとき、優しい声が、俺の中に伝わってきた。
「戻ってきたよ、ダレン」
カミリア、なのか……!?
「そうだよ」
カミリア、どうして君がこんなところに……!?
「だって、約束したでしょ? どんな時でも、一緒にいるって」
確かに、俺たちは何度も約束をした。だけど俺は、カミリアのことを何度も傷つけてしまった……。そんな俺に、彼女のそばにいる資格なんてあるはずがない…………。
そうだ、俺はカミリアに対して、決して許されないことをしてしまったのだ。彼女を信じず、多くの命を奪ってしまった俺が、一体どんな顔で、彼女に向き合えるというのだろうか……?
「ダレン、よく聞いて。あなたは何も悪くないわ。全ては運命の道しるべだったのよ。むしろあなたは、この世界を救うために、やるべきことをよくやったわ」
俺が、よくやった……? カミリア、なぜそんなことを言えるのだ?
「私たちはね、運命に導かれてこの世界に辿り着いた、神の子だったのよ。私たちは、光と闇、秩序と混沌をつかさどり、世界をあるべき姿に導くために、神によって遣わされた存在だったの」
そ、そう、なのか……?
「ごめんなさい。こんなことを突然言われても、信じられるわけ、ないわよね……」
彼女の声は、申し訳ないと伝えるように落ち込んでいて、最後の方になるほどに、小さくなっていた。
「いや、俺は信じるよ。カミリアが言うことなら、俺は信じる」
ただ心の中で呟くのではなく、彼女に対してはっきりと伝えるために、言葉を紡ぐ。
「ダレン!」
彼女の声が明るく華やいだ。
「だけど……たとえ全てが運命だったのだとしても、俺は自分自身を許せない。お前を裏切ってしまったという事実
は、決して変わらないんだ…………」
自分の中で何度も反芻していた言葉を、彼女に伝える。この事実がある限り、俺の罪は許されない。許すことができない。
「ダレン、それは私も同じことよ。私もあなたを、最後まで信じ切ることができなかったわ……。たとえあなたが、人々を殺めてしまっていても、私は、あなたの味方でいるべきだった……」
彼女の声は、罪を告白しているかのように、苦しげだった。
「だから、お願い。あなたの罪を許して……。私も、私の罪を許すから……」
「カミリア…………」
彼女の気持ちを聞いて、俺はようやく気が付いた。重要なのは、罪を悔いることではなかったのだ。
「わかったよ、カミリア。俺は、俺の罪を許す。だからカミリアも、自分自身のことを許してあげてくれ」
「ダレン……」
「そして、また取り戻そう。二人で笑いあった、あの幸せな日常を……」
「ダレン……ありがとう、ありがとう……」
涙を流している時のように、掠れた声が聞こえてくる。
「そんなに泣くなよ、カミリア。もう、つらいことは終わったんだ。これからは、笑顔でいよう」
「うん……! うん……!」
彼女の声は、子供のように無邪気になっていた。
「ねえダレン。私いま、とってもしあわせ…………」
「ああ、俺もだ…………」
声からだけでなく、彼女の心からも、幸せな気持ちが、俺の心にまで伝わってくる。
「共に行こう、カミリア」
「うん。これからはずっといっしょだよ、ダレン」
幸せに満たされた俺たちの魂は、柔らかな光に包まれ、どこか、新しい世界へと導かれていった。
「簡単なことよ。あなたは、驕り高ぶり、私を倒せるチャンスを見逃していた。それに対し……あなたを…………でここまで来た。この覚悟の差が、今の結末をもたらしたのよ……」
「まだ、まだだ……! 俺はこの世界の全てを……!」
その言葉を吐き出した後、俺の眼は一度光を失い、再び明かりが戻った時には、カミリアと彼女にしがみつく〝オレ〟の姿を、なぜか俺の視界は映し出していた。
どういうことだ!? 俺はまだ生きている! 体だってここに……!
カミリアに手を伸ばそうとするが、あるはずの俺の手が、体がそこにはなく、俺が見ているこの風景も、彼女を真上から見下ろすような位置から、ほとんど変わることはなかった。
……俺は、俺は死んだというのか!? あんな女に、あんな塵みたいな白魔導士どもに負けて……!
俺は、生まれた時から、ずっと負け犬だった。常に蔑まれ、親からも必要とされず、ただただ、どんな感情かも解らない、醜くどす黒い〝なにか〟を心の底に積み上げながら、惨めに生き永らえてきた。
そんな俺の人生に、唯一光を与えてくれたのが、カミリアだった。あいつは、俺のことをちゃんと人として扱ってくれた。俺の異形の姿を気にしないどころか、あいつは、「羊さんみたいでかわいい」とさえ言ってくれた。だから俺は、人生に希望を持とうと思った。だが、
だが白魔導士どもは、俺と彼女を引き離した! そしてまた、俺を罵り傷つける奴らを守るための、地獄のような戦いが始まった!
俺は、再び全てを失った。流れる時間は鎖のごとく、俺の心と体をきつく縛りつけ、灯っていた唯一の光を、穢れた紫色に染め上げた。
そんな日々を繰り返す中で、俺は決心したのだ! 俺を傷つけた連中を、弱者を傷つけ虐げる魔導士どもを、一人残さず抹殺するのだとな!
しかし、それも今日で終わりだな……。カミリアは俺を裏切り、くだらない白魔導士どものために命を懸けた……。もう俺は終わりだ。この人生には、何の価値もありはしなかった。憎しみの焔を胸に抱いたまま、この悪夢が終わるときを待ち望むばかりだ……。
俺の体を抱き締め、カミリアは俺の城の赤い絨毯に座り込む。
「ダレン、今までつらいことがたくさんあったわね。私たちはいつも孤独だった。あなたは他人から認めてもらえないでいて、私はみんなからいつも称賛されていて……。けれど、私をちゃんと見て、私の心を理解してくれたのは、あなただけだったわね……」
彼女は慈しむように、優しい声でそこにある俺の体に囁きかけた。
その言葉を聞いた瞬間、俺の心を縛っていた鎖が打ち破られ、カミリアと過ごした日々の幸せな記憶が、清らかに流れる小川の情景のごとく、俺の脳裏に蘇り始める。
――カミリア、俺たちは幸せになれるのかな?
――なれるわ。私が、この世界を変えてみせる。
――カミリア、俺たちはもう、これで終わりなのかな?
――そんなこと、絶対にないわ。たとえ離れていても、私の心はあなたと共にある。だからお願い、私が戻ってくる時を、どうか待っていて。私が絶対、この世界を変えてみせる。
ああ、そうか。
カミリアは、ずっと俺のために戦ってくれていたんだ。それなのに俺は、ずっと自分のことばかりで、ちゃんと君のことを見ていなかった……。君は、俺だけでなく、この世界の全てを、救おうとしていたんだね……。
それからしばらくして、カミリアは、最後の力を振り絞るように、小さな声で言葉を紡いだ。
「ごめんね、私が守り切れていれば……。ダレン、みんな……ごめん、ごめんね……」
お願いだ、どうかそんなことを言わないでくれ……。俺が悪かったんだ。俺が、君を信じ切れなかったのがいけなかったんだ。すまなかった。俺が、俺のせいで…………。
何を言おうとも、もう彼女に届くことはない。悔やんでも、嘆いても、全ては後の祭りなのだ。これが、過ちを犯した俺に対する、罰なのだろう。
カミリア、これが俺の罪の果てだというのなら、全てを受け入れるよ。たとえ、この苦しみが永遠に続くのだとしても、俺は耐えてみせる。君が抱えていた苦しみは、きっと、もっとずっと深かったはずだから…………。
視界は閉ざされ、暗闇だけが俺を包む。俺はこれから、何もないこの闇という牢獄の中で、永遠に、罪を償い続けなければならないのだろう。大勢の人を殺め、他者を道具のように操り続け、果てには、愛する人をも裏切ってしまった。そんな俺には、この程度の責め苦、当然の報いだ。
沈んでゆく。どこまでも、どこまでも。時間の感覚も、俺自身の存在も、何もかもが無に近づいていく。生まれた時から何も持っていなかった俺には、ふさわしい末路と言えるだろう。
――さらばだ、カミリア。
心を、完全に闇へ投げ打とうとしたとき、優しい声が、俺の中に伝わってきた。
「戻ってきたよ、ダレン」
カミリア、なのか……!?
「そうだよ」
カミリア、どうして君がこんなところに……!?
「だって、約束したでしょ? どんな時でも、一緒にいるって」
確かに、俺たちは何度も約束をした。だけど俺は、カミリアのことを何度も傷つけてしまった……。そんな俺に、彼女のそばにいる資格なんてあるはずがない…………。
そうだ、俺はカミリアに対して、決して許されないことをしてしまったのだ。彼女を信じず、多くの命を奪ってしまった俺が、一体どんな顔で、彼女に向き合えるというのだろうか……?
「ダレン、よく聞いて。あなたは何も悪くないわ。全ては運命の道しるべだったのよ。むしろあなたは、この世界を救うために、やるべきことをよくやったわ」
俺が、よくやった……? カミリア、なぜそんなことを言えるのだ?
「私たちはね、運命に導かれてこの世界に辿り着いた、神の子だったのよ。私たちは、光と闇、秩序と混沌をつかさどり、世界をあるべき姿に導くために、神によって遣わされた存在だったの」
そ、そう、なのか……?
「ごめんなさい。こんなことを突然言われても、信じられるわけ、ないわよね……」
彼女の声は、申し訳ないと伝えるように落ち込んでいて、最後の方になるほどに、小さくなっていた。
「いや、俺は信じるよ。カミリアが言うことなら、俺は信じる」
ただ心の中で呟くのではなく、彼女に対してはっきりと伝えるために、言葉を紡ぐ。
「ダレン!」
彼女の声が明るく華やいだ。
「だけど……たとえ全てが運命だったのだとしても、俺は自分自身を許せない。お前を裏切ってしまったという事実
は、決して変わらないんだ…………」
自分の中で何度も反芻していた言葉を、彼女に伝える。この事実がある限り、俺の罪は許されない。許すことができない。
「ダレン、それは私も同じことよ。私もあなたを、最後まで信じ切ることができなかったわ……。たとえあなたが、人々を殺めてしまっていても、私は、あなたの味方でいるべきだった……」
彼女の声は、罪を告白しているかのように、苦しげだった。
「だから、お願い。あなたの罪を許して……。私も、私の罪を許すから……」
「カミリア…………」
彼女の気持ちを聞いて、俺はようやく気が付いた。重要なのは、罪を悔いることではなかったのだ。
「わかったよ、カミリア。俺は、俺の罪を許す。だからカミリアも、自分自身のことを許してあげてくれ」
「ダレン……」
「そして、また取り戻そう。二人で笑いあった、あの幸せな日常を……」
「ダレン……ありがとう、ありがとう……」
涙を流している時のように、掠れた声が聞こえてくる。
「そんなに泣くなよ、カミリア。もう、つらいことは終わったんだ。これからは、笑顔でいよう」
「うん……! うん……!」
彼女の声は、子供のように無邪気になっていた。
「ねえダレン。私いま、とってもしあわせ…………」
「ああ、俺もだ…………」
声からだけでなく、彼女の心からも、幸せな気持ちが、俺の心にまで伝わってくる。
「共に行こう、カミリア」
「うん。これからはずっといっしょだよ、ダレン」
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