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33-1. 偽勇者と本物の勇者 1
突風が吹き、空が暗く澱(よど)む。
三対の黒い翼をはばたかせながら広場に降り立ったのは、立派な角に、尖った耳、端麗な顔立ちをした、魔界の王だった。
「さあ、役者は揃ったな! 二本立て勇者よ、我(われ)の相手をしてもらおうじゃないか! ハーハッハッハッ!」
「え……え……えええええ⁈」
突然の魔王登場に、ユキナは驚愕の表情を浮かべていた。
「オオオオ、オリー、あれが、魔王、なのか⁈」
「そうだ。ああ、懐かしい……」
気の抜けた返事に、ユキナの緊張が少し解(ほぐ)れた。オリーの全く動じていない様子に、不安が霧散してゆく。
しかし「二本立て勇者」とは何のことだろう? ユキナは首を傾げた。
そんなユキナに魔王は微笑を浮かべたのち、手前に視線を落とした。そこには腰を抜かしてへたりこんでいる横柄(よこつか)の姿がある。
「おや、勇者もどきよ、やはり前座はおまえか?」
魔王の視線を受け、横柄にしがみついている美女二人が金切り声を上げる。
「きゃああっ! いやああああっ! ツォーシさま、早く成敗なさって!」
「そうですわ、早く早く! 私たちを守ってくださいませ!」
魔王はフッと微笑むと、美女たちに向かって優雅にお辞儀をした。
「安心するがいい、お嬢さん方。我は勇者以外には一切手出しせぬ」
魔王は優しい声でそう言いながら極上の笑みを浮かべる。横柄の取り巻き美女は、途端に頬を染めてうっとりと溜息をついた。
「さあ、勇者よ、お手合わせ願おうか。ノルシャル神から授かった驚異の身体能力を見せてくれ。血沸き、肉躍るバトルで、我を楽しませるがよい!」
横柄はヨロヨロと立ち上がると、腰に提げていた剣に手をかけた。
「よ、よし……。魔王よ、俺の剣の錆(さび)にしてくれるわ……」
その声も、剣の柄を掴(つか)む手も、震えていた。もちろん、足も。
「フッ……フフフ……勇者もどきよ、剣の錆とは何だ? ククク……アーハハハハハ! 面白い冗談を言うではないか!」
「ほ、ほざけ! ……やあっ!」
剣を振り回しながら突っ込んで行った横柄は、魔王がパチンと指をはじいただけで、その場に転んだ。
「きゃああっ! ツォーシさま!」
「ちょ……。ツ……ツォーシさま……弱すぎない?」
美女の片方は、さすがに呆(あき)れている。
辺りに散らばり遠くから見ていた群衆も、勇者のぶざまな攻撃にブーイングを飛ばす。その群衆の中には衛兵の姿もあり、横柄は舌打ちすると彼らに向かって叫んだ。
「そこの衛兵! 何をしているんだ、こっちに来て一緒に戦え!」
衛兵たちは戸惑いながらも、横柄のそばで槍を構える。
「しかし勇者様、我らの武器は魔王には通じないかと……あっ、どこへ行かれるんですか、勇者様!」
「じゅ、準備だ! 防具を取ってくる! お前ら、時間稼ぎしてろ!」
横柄は逃げ出した。しかしそれを、魔王が許すはずもない。
「往生際が悪いぞ、エセ勇者め」
そう凄んで横柄の前に立ちはだかり、腹に拳を入れた。
「ぐふっ!」
『キャッ! 魔王様、どうかお手柔らかに』
どこからか、艶(つや)やかな女性の声が響く。ユキナは「ん?」と首を傾げた。
(今の、誰だ? どっかで聞いた声……。…………んん?)
『わたくしがいけなかったのです。恥ずかしいことですわ、勘違いしてしまったのです、その者に罪はありません! 魔王様、どうか手加減なさって』
「相変わらず慈悲深いな、ノルよ」
「ああっ!」
ユキナは小さく声を上げた。
「あの声は、女神だ。女神ノルの声だ!」
「女神の声? 俺には聞こえんが」
どうやらオリーにもこの場にいる人たちにも、女神の声は聞こえていないらしい。崇拝する神の声が聞こえれば、この国の民はひれ伏すだろうが、誰もそんな様子は見せていない。
「え……俺だけ? 女神の声、聞こえてるの俺だけ? なんで?」
ユキナはキョロキョロと周囲を見回した。
三対の黒い翼をはばたかせながら広場に降り立ったのは、立派な角に、尖った耳、端麗な顔立ちをした、魔界の王だった。
「さあ、役者は揃ったな! 二本立て勇者よ、我(われ)の相手をしてもらおうじゃないか! ハーハッハッハッ!」
「え……え……えええええ⁈」
突然の魔王登場に、ユキナは驚愕の表情を浮かべていた。
「オオオオ、オリー、あれが、魔王、なのか⁈」
「そうだ。ああ、懐かしい……」
気の抜けた返事に、ユキナの緊張が少し解(ほぐ)れた。オリーの全く動じていない様子に、不安が霧散してゆく。
しかし「二本立て勇者」とは何のことだろう? ユキナは首を傾げた。
そんなユキナに魔王は微笑を浮かべたのち、手前に視線を落とした。そこには腰を抜かしてへたりこんでいる横柄(よこつか)の姿がある。
「おや、勇者もどきよ、やはり前座はおまえか?」
魔王の視線を受け、横柄にしがみついている美女二人が金切り声を上げる。
「きゃああっ! いやああああっ! ツォーシさま、早く成敗なさって!」
「そうですわ、早く早く! 私たちを守ってくださいませ!」
魔王はフッと微笑むと、美女たちに向かって優雅にお辞儀をした。
「安心するがいい、お嬢さん方。我は勇者以外には一切手出しせぬ」
魔王は優しい声でそう言いながら極上の笑みを浮かべる。横柄の取り巻き美女は、途端に頬を染めてうっとりと溜息をついた。
「さあ、勇者よ、お手合わせ願おうか。ノルシャル神から授かった驚異の身体能力を見せてくれ。血沸き、肉躍るバトルで、我を楽しませるがよい!」
横柄はヨロヨロと立ち上がると、腰に提げていた剣に手をかけた。
「よ、よし……。魔王よ、俺の剣の錆(さび)にしてくれるわ……」
その声も、剣の柄を掴(つか)む手も、震えていた。もちろん、足も。
「フッ……フフフ……勇者もどきよ、剣の錆とは何だ? ククク……アーハハハハハ! 面白い冗談を言うではないか!」
「ほ、ほざけ! ……やあっ!」
剣を振り回しながら突っ込んで行った横柄は、魔王がパチンと指をはじいただけで、その場に転んだ。
「きゃああっ! ツォーシさま!」
「ちょ……。ツ……ツォーシさま……弱すぎない?」
美女の片方は、さすがに呆(あき)れている。
辺りに散らばり遠くから見ていた群衆も、勇者のぶざまな攻撃にブーイングを飛ばす。その群衆の中には衛兵の姿もあり、横柄は舌打ちすると彼らに向かって叫んだ。
「そこの衛兵! 何をしているんだ、こっちに来て一緒に戦え!」
衛兵たちは戸惑いながらも、横柄のそばで槍を構える。
「しかし勇者様、我らの武器は魔王には通じないかと……あっ、どこへ行かれるんですか、勇者様!」
「じゅ、準備だ! 防具を取ってくる! お前ら、時間稼ぎしてろ!」
横柄は逃げ出した。しかしそれを、魔王が許すはずもない。
「往生際が悪いぞ、エセ勇者め」
そう凄んで横柄の前に立ちはだかり、腹に拳を入れた。
「ぐふっ!」
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『わたくしがいけなかったのです。恥ずかしいことですわ、勘違いしてしまったのです、その者に罪はありません! 魔王様、どうか手加減なさって』
「相変わらず慈悲深いな、ノルよ」
「ああっ!」
ユキナは小さく声を上げた。
「あの声は、女神だ。女神ノルの声だ!」
「女神の声? 俺には聞こえんが」
どうやらオリーにもこの場にいる人たちにも、女神の声は聞こえていないらしい。崇拝する神の声が聞こえれば、この国の民はひれ伏すだろうが、誰もそんな様子は見せていない。
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