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33-2. 偽勇者と本物の勇者 2
ユキナはキョロキョロと周囲を見回した。
魔王の出現で一時閑散としていた広場には、徐々に人が戻り始めている。怖いもの知らずの野次馬が、勇者と魔王のバトルを見に来たようだ。その群衆たちにサービスするように、魔王は派手なジェスチャーで芝居がかったパフォーマンスを始めた。
「ハハハハハッ! これが勇者、だと⁈ 女神がせっかく肉体的な強さを与えてやったというのに、魂の下劣さが邪魔をして、力を発揮できていないではないか。これでは我と戦うことなど到底無理。やはり徳の低い人間は役に立たんな」
『はあ……。まったくその通りです、魔王様。だから僕はいつも、勇者選定には徳の高さを重要視してきました。神からの贈り物を存分に活かすには、相応の気質が必要になりますから。それに、敵前逃亡されては意味がないですからね……。その横柄豪のように』
少年のような声が響き、ユキナはまたもやキョロキョロと周りを見渡した。
(この声は、シャル神? 姿は見えないけど……どこかにいるってことだよな?)
魔王は、腹に手を当て地面にうずくまっている横柄を足で小突き、群衆に向かって言った。
「外見の美しさも、強靭(きょうじん)な肉体も、内面の気高さがあってこそ、輝く。この我のように……な」
「な」と言うタイミングに合わせて、魔王のウィンクが完璧に決まった。女性だけでなく、男も老人も子供も、誰もが恐怖を忘れ、魔王の優雅な仕草と美しさに見とれている。
『はあ……素敵、魔王様ぁ……』
もちろん、女神ノルも。
魔王は群衆に向かって大きく手を広げ、朗々と声を張り上げた。
「おまえたちが勇者だと思っているこの男は、偽物だ。この男の徳の値は、なんと0! そうだ、まさかの0! 見るがいい、この男のステータスを!」
魔王の腕がサッと水平に振り払われると、広場にいる面々の前に横柄のステータス表示が現れた。もちろん、ユキナとオリーの目の前にも。
「わ……ほんとだ、横柄の徳の値、0だ……。魔王様の言い方からすると、0って珍しいものなのか、オリー?」
「そうだな、普通の良識があれば0にはならんな。だが、もちろん0やそれ以下になるケースは存在する。あのエセ勇者の悪辣(あくらつ)な態度を見ていると、マイナスではないのが不思議なぐらいだ」
「えっ、マイナスもあるのか⁈」
「ある。凶悪犯罪などを犯した者は、大抵マイナスになる。俺も、『善なる知恵の実』を食べた直後はマイナスの状態だった。徳の値はその者の行いによって日々増減するため、たとえ神とて手が出せん。もし神が数値を与えても、下劣な行いをすればあっという間に下がるからな」
「はあ……なるほど……」
周囲の人々もまた、横柄の本性を知り、騒ぎ始めた。
「そんな、まさか! 勇者様の徳が、0⁈」
「ゲンメツ! 私、もうツォーシさまのファンやめる! やっぱり男は顔と中身が揃ってなきゃ!」
「俺たち騙されてたってことか⁈ じゃあ、本物の勇者様はどこにいるんだよ⁈」
「勇者がいないなんて、終わりだぁーっ!」
勇者の不在に、人々から絶望の呻(うめ)きが漏れる。
ユキナは王都の人たちを、心底気の毒に思った。
「ああ……そりゃ不安だよなぁ……。どうなってるんだろ。本物の勇者、どこにいるんだ?」
「おまえだ」
オリーがユキナに向かってそう呟く。
「は?」
「本物の勇者は、おまえだ」
「は? そんなはずないだろ」
「まったく鈍いな、ユキナ。神はおまえとツォーシを取り違えたのだ。勇者召喚に巻き込まれたのは、おまえではなくツォーシの方だ」
「………………」
ユキナの脳が、しばらくフリーズした。やがてじわじわと、オリーの言葉の意味が浸透してゆく。
「え、えええええっ⁈ そそそそ、そんな! 俺が、勇者ぁっ⁈」
魔王の出現で一時閑散としていた広場には、徐々に人が戻り始めている。怖いもの知らずの野次馬が、勇者と魔王のバトルを見に来たようだ。その群衆たちにサービスするように、魔王は派手なジェスチャーで芝居がかったパフォーマンスを始めた。
「ハハハハハッ! これが勇者、だと⁈ 女神がせっかく肉体的な強さを与えてやったというのに、魂の下劣さが邪魔をして、力を発揮できていないではないか。これでは我と戦うことなど到底無理。やはり徳の低い人間は役に立たんな」
『はあ……。まったくその通りです、魔王様。だから僕はいつも、勇者選定には徳の高さを重要視してきました。神からの贈り物を存分に活かすには、相応の気質が必要になりますから。それに、敵前逃亡されては意味がないですからね……。その横柄豪のように』
少年のような声が響き、ユキナはまたもやキョロキョロと周りを見渡した。
(この声は、シャル神? 姿は見えないけど……どこかにいるってことだよな?)
魔王は、腹に手を当て地面にうずくまっている横柄を足で小突き、群衆に向かって言った。
「外見の美しさも、強靭(きょうじん)な肉体も、内面の気高さがあってこそ、輝く。この我のように……な」
「な」と言うタイミングに合わせて、魔王のウィンクが完璧に決まった。女性だけでなく、男も老人も子供も、誰もが恐怖を忘れ、魔王の優雅な仕草と美しさに見とれている。
『はあ……素敵、魔王様ぁ……』
もちろん、女神ノルも。
魔王は群衆に向かって大きく手を広げ、朗々と声を張り上げた。
「おまえたちが勇者だと思っているこの男は、偽物だ。この男の徳の値は、なんと0! そうだ、まさかの0! 見るがいい、この男のステータスを!」
魔王の腕がサッと水平に振り払われると、広場にいる面々の前に横柄のステータス表示が現れた。もちろん、ユキナとオリーの目の前にも。
「わ……ほんとだ、横柄の徳の値、0だ……。魔王様の言い方からすると、0って珍しいものなのか、オリー?」
「そうだな、普通の良識があれば0にはならんな。だが、もちろん0やそれ以下になるケースは存在する。あのエセ勇者の悪辣(あくらつ)な態度を見ていると、マイナスではないのが不思議なぐらいだ」
「えっ、マイナスもあるのか⁈」
「ある。凶悪犯罪などを犯した者は、大抵マイナスになる。俺も、『善なる知恵の実』を食べた直後はマイナスの状態だった。徳の値はその者の行いによって日々増減するため、たとえ神とて手が出せん。もし神が数値を与えても、下劣な行いをすればあっという間に下がるからな」
「はあ……なるほど……」
周囲の人々もまた、横柄の本性を知り、騒ぎ始めた。
「そんな、まさか! 勇者様の徳が、0⁈」
「ゲンメツ! 私、もうツォーシさまのファンやめる! やっぱり男は顔と中身が揃ってなきゃ!」
「俺たち騙されてたってことか⁈ じゃあ、本物の勇者様はどこにいるんだよ⁈」
「勇者がいないなんて、終わりだぁーっ!」
勇者の不在に、人々から絶望の呻(うめ)きが漏れる。
ユキナは王都の人たちを、心底気の毒に思った。
「ああ……そりゃ不安だよなぁ……。どうなってるんだろ。本物の勇者、どこにいるんだ?」
「おまえだ」
オリーがユキナに向かってそう呟く。
「は?」
「本物の勇者は、おまえだ」
「は? そんなはずないだろ」
「まったく鈍いな、ユキナ。神はおまえとツォーシを取り違えたのだ。勇者召喚に巻き込まれたのは、おまえではなくツォーシの方だ」
「………………」
ユキナの脳が、しばらくフリーズした。やがてじわじわと、オリーの言葉の意味が浸透してゆく。
「え、えええええっ⁈ そそそそ、そんな! 俺が、勇者ぁっ⁈」
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