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34-1. あきんどシェフ勇者、爆誕 1
「そそそそ、そんな! じゃあ俺、今から魔王と戦うのか⁈ 魔王城に向かう道すがら作戦練ろうと思ってたから、まだ何の準備もできてない!」
そこに、シャル神と思われる声がひそかにユキナに話しかけてきた。
『継末雪成、本物の勇者よ。準備ならできている。その露店用のワゴンの上に、君の料理を並べるといい。販売用に大量にコピーしていた料理を』
「え、料理を⁈ なな、なんでですか⁈ 料理並べて何をするんですか⁈」
『魔王様をもてなしてくれ。彼は空腹だ。この世界ではうまく力をチャージできず、イライラしている。でも君の作った料理なら、きっとすぐ回復する。さあ早く、料理を並べて』
「わ、わかりました……いや、よくわかんないけど、とにかく料理を並べればいいんですね」
ユキナはシャル神の言う通り、今日の営業を終えて片付けていた露店ワゴンの上に、再び料理を並べ始めた。
その時、魔王により投げ飛ばされた横柄が、ユキナのすぐそばに落ちてきた。
「ぐふぅっ!」
「うわぁっ! よ、横柄! だだだ、大丈夫か⁈」
地面に背中を強打したらしく、横柄は苦痛に顔を歪(ゆが)めてユキナの足元に転がっている。助け起こそうとユキナがしゃがみこむと、魔王がゆったりとした足取りで近付いてきた。
「まったく、卑怯な男だ。背中から攻撃すれば我に一太刀浴びせられるとでも思ったか?」
音もなく一瞬で間合いを詰めてきた魔王は、横柄に冷たい視線を注いだ。
「我は、おまえのような奴は好かん。多くを与えられながら、その上にあぐらをかき、何一つ務めを果たさず、他者の手柄を横取りする。ハハッ……隠しても無駄だ――我には見えているぞ、おまえのこれまでの、卑劣な生き様が」
まるで絶対零度を声として表現したかのようだった。地獄の底の冷気かと思われるような、不穏な気配が横柄を包み、ギリギリと締め上げている。
「ヒッ、ヒイッ……! た、助けてくれぇ……!」
横柄の涙まじりの掠(かす)れ声が、か細く漏れ出る。
ユキナはとっさに、横柄の前に出て彼をかばった。
「ままま、待ってください、魔王様! あっ、オリー!」
ユキナの視界が、オリーの背中に遮(さえぎ)られる。
拳をかため仁王立ちするオリーを見て、魔王の片眉がピクリと上がった。
「おや……? 何のつもりだ、オークよ。魔物であるおまえが、なぜ我の邪魔をする?」
「俺はユキナの――本物の勇者の護衛です。彼を守るのが、俺の使命です」
「ほう……」
魔王は探るようにオリーをねめつける。その表情にはどことなく、面白がっているような雰囲気が漂っていた。
「おお……なんと珍しい。徳高いオークとは。ああ……『善なる知恵の実』か。神々の園に、迷い込んだのだな?」
魔王には何もかもお見通しらしい。
「フッ……、我の邪魔をするとはいい度胸だ。褒めてやろう。相手をしてやってもよいが、我は今、非常に苛立っていてな……手加減はできぬぞ」
「たとえ魔王様といえど、ユキナに指一本触れさせるわけには参りません。命を懸けて、守り抜きます」
「ハハハハハ! なんと殊勝な! 気に入ったぞ! ではおまえに合わせて、素手でやりあおうか!」
魔王の大笑いが辺りを揺るがす。
「いや、やめろ、オリー、やめてくれ!」
ユキナは青ざめた。いくらオリーが強くても、魔界の王とやり合って無事でいられるとは思えない。
(まずい、しまった、俺のバカ! なんて俺はバカなんだ!)
自分が無策で横柄をかばったせいで、オリーを魔王と敵対させてしまったこの事態に、ユキナは焦りまくった。
そこに、シャル神が囁いた。
『今だ! 勇者ユキナよ、魔王様に食事を勧めて!』
まさに天の声。ユキナは大声で叫んだ。
「いらっしゃいませ魔王様! ぜひ俺の料理をお召し上がりください! ただいま魔王様限定・特別待遇・大盤振る舞いサービス実施中です!」
とっさに口から出たのは「ここはスーパーかよ」というような呼び込みセリフだった。しかし無事に魔王の興味を引いたと見え、ファイティングポーズを取っていた魔王は拳を下ろした。
「ほほう……? 我にサービスを?」
「そうです! 魔王様、お腹がすいてるんじゃありませんか⁈ ぜひここらで晩餐(ばんさん)タイムといきましょう! さあさあさあ、腹が減っては戦はできません! ぜひぜひぜひぜひ! なにごとも腹ごなししてから、ですよ、はいはいはい、どうぞどうぞどうぞ!」
そこに、シャル神と思われる声がひそかにユキナに話しかけてきた。
『継末雪成、本物の勇者よ。準備ならできている。その露店用のワゴンの上に、君の料理を並べるといい。販売用に大量にコピーしていた料理を』
「え、料理を⁈ なな、なんでですか⁈ 料理並べて何をするんですか⁈」
『魔王様をもてなしてくれ。彼は空腹だ。この世界ではうまく力をチャージできず、イライラしている。でも君の作った料理なら、きっとすぐ回復する。さあ早く、料理を並べて』
「わ、わかりました……いや、よくわかんないけど、とにかく料理を並べればいいんですね」
ユキナはシャル神の言う通り、今日の営業を終えて片付けていた露店ワゴンの上に、再び料理を並べ始めた。
その時、魔王により投げ飛ばされた横柄が、ユキナのすぐそばに落ちてきた。
「ぐふぅっ!」
「うわぁっ! よ、横柄! だだだ、大丈夫か⁈」
地面に背中を強打したらしく、横柄は苦痛に顔を歪(ゆが)めてユキナの足元に転がっている。助け起こそうとユキナがしゃがみこむと、魔王がゆったりとした足取りで近付いてきた。
「まったく、卑怯な男だ。背中から攻撃すれば我に一太刀浴びせられるとでも思ったか?」
音もなく一瞬で間合いを詰めてきた魔王は、横柄に冷たい視線を注いだ。
「我は、おまえのような奴は好かん。多くを与えられながら、その上にあぐらをかき、何一つ務めを果たさず、他者の手柄を横取りする。ハハッ……隠しても無駄だ――我には見えているぞ、おまえのこれまでの、卑劣な生き様が」
まるで絶対零度を声として表現したかのようだった。地獄の底の冷気かと思われるような、不穏な気配が横柄を包み、ギリギリと締め上げている。
「ヒッ、ヒイッ……! た、助けてくれぇ……!」
横柄の涙まじりの掠(かす)れ声が、か細く漏れ出る。
ユキナはとっさに、横柄の前に出て彼をかばった。
「ままま、待ってください、魔王様! あっ、オリー!」
ユキナの視界が、オリーの背中に遮(さえぎ)られる。
拳をかため仁王立ちするオリーを見て、魔王の片眉がピクリと上がった。
「おや……? 何のつもりだ、オークよ。魔物であるおまえが、なぜ我の邪魔をする?」
「俺はユキナの――本物の勇者の護衛です。彼を守るのが、俺の使命です」
「ほう……」
魔王は探るようにオリーをねめつける。その表情にはどことなく、面白がっているような雰囲気が漂っていた。
「おお……なんと珍しい。徳高いオークとは。ああ……『善なる知恵の実』か。神々の園に、迷い込んだのだな?」
魔王には何もかもお見通しらしい。
「フッ……、我の邪魔をするとはいい度胸だ。褒めてやろう。相手をしてやってもよいが、我は今、非常に苛立っていてな……手加減はできぬぞ」
「たとえ魔王様といえど、ユキナに指一本触れさせるわけには参りません。命を懸けて、守り抜きます」
「ハハハハハ! なんと殊勝な! 気に入ったぞ! ではおまえに合わせて、素手でやりあおうか!」
魔王の大笑いが辺りを揺るがす。
「いや、やめろ、オリー、やめてくれ!」
ユキナは青ざめた。いくらオリーが強くても、魔界の王とやり合って無事でいられるとは思えない。
(まずい、しまった、俺のバカ! なんて俺はバカなんだ!)
自分が無策で横柄をかばったせいで、オリーを魔王と敵対させてしまったこの事態に、ユキナは焦りまくった。
そこに、シャル神が囁いた。
『今だ! 勇者ユキナよ、魔王様に食事を勧めて!』
まさに天の声。ユキナは大声で叫んだ。
「いらっしゃいませ魔王様! ぜひ俺の料理をお召し上がりください! ただいま魔王様限定・特別待遇・大盤振る舞いサービス実施中です!」
とっさに口から出たのは「ここはスーパーかよ」というような呼び込みセリフだった。しかし無事に魔王の興味を引いたと見え、ファイティングポーズを取っていた魔王は拳を下ろした。
「ほほう……? 我にサービスを?」
「そうです! 魔王様、お腹がすいてるんじゃありませんか⁈ ぜひここらで晩餐(ばんさん)タイムといきましょう! さあさあさあ、腹が減っては戦はできません! ぜひぜひぜひぜひ! なにごとも腹ごなししてから、ですよ、はいはいはい、どうぞどうぞどうぞ!」
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