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1章 新しい住まい――魔界、王宮
17. フリューイの動向
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「レイ……レイ、起きろ……」
レイは心地よい眠りから無理やり引き離され、不機嫌な顔で目を半開きにした。
昨夜、失神した後の記憶は一切ないが、どうやら魔王は、二人分の体液でべとべとになったレイの体を洗い清めてくれたらしい。人形の世話になったのか、汚れた寝具も交換してある。
レイは清潔なシーツの上で伸びをし、恨めし気に魔王を見つめた。
「うぅ~……。もっと……寝ていたい……起きなきゃ、だめか……?」
昨夜の激しい性交で、体のあちこちがギシギシと痛んだ。
わずかに隙間を開けられたカーテンから、朝の陽ざしが差し込んでいる。
太陽はまだ昇り始めたばかり、眠ったのはせいぜい3~4時間程度と知り、レイは大きなあくびをした。
「レイ、すまない。おまえに、重要なことを伝えなければならぬ。朝食を摂りながら、聞いてくれ」
魔王の真剣な口調に、レイは観念して軋む体を起こした。
人形によって整えられた朝食のテーブルには、何種類もの果物のジュースや、焼き立てのパンの数々、野菜サラダやクリームスープなどが、豪勢に並んでいる。パンも料理も、一目見て、ロワンが作ったものと分かり、その美味しそうな匂いを嗅いで、レイの眠気は吹き飛んだ。
共に食べ始めてしばらく、魔王は無言だったが、やがてレイの食事がほぼ終わりかけているのを見て、おもむろに口を開いた。
「実はな……レイ。落ち着いて、聞いてくれ」
「うん、何だよ、魔王。早く言ってくれ。気になるじゃないか」
「……おまえの兄が、行方不明のおまえを捜して、魔界に通じる<界門>に向かっている」
「!!!!!!」
口の中に入れようとした果物のかけらを、レイは皿の上に落とした。
「えっ……なんで……兄さんが、俺が行方不明って、なんで知ってるんだ?! だってまだ、俺が家に帰る予定の日は、半月以上、先のことで……っっ!! ああっ……どうしよう、俺、すぐ行かないと! 兄さんが、魔界に入ったら大変だ! 家に帰らないと!!」
魔王の予想した通り、レイは取り乱して席を立ち、叫びながらウロウロと室内を彷徨い始めた。
人間の外見をしたレイと違い、腹違いの兄のフリューイは生粋の仙界人だ。魔族と同じように、先端が尖った大きな耳と、額瞳を具え、パッと見たところ両者にさほど違いはないが、醸し出す雰囲気に決定的な違いがある。
魔族は仙界人に対してあまり良い印象を持たないため、もし、単身で魔族の護衛もつけずにフリューイが魔界に入れば、どんな危険な目に合うか分からない。
レイは心配でたまらず、じっとしていられなくなり、自分の荷物を滅茶苦茶にまとめ始めた。
「すぐ、すぐ兄さんのもとに帰らないと!!」
「レイ、落ち着け……フリューイ殿に危険が及ばないよう、各地の<界門>をはじめ、あらゆる方向にすでに手配済みだ」
「えっええ? いつ……?! 魔王、あんた、いつから知ってたんだ?! 兄さんが、俺を捜してるって、いつから!!」
「昨日、<霧の宮>でおまえと別れた後、報告を受け取った」
「なんで……っ! 何でもっと早く、教えてくれなかったんだ!!」
「言えばおまえは、すぐに私の元を離れ、人間界に帰ってしまうと思ったからだ。ようやく……ようやく、おまえと心身ともに結ばれたというのに。一日でも長く、おまえと、共に過ごしたかったのだ」
魔王は寂し気な微笑みを浮かべ、熱のこもった瞳でレイを見つめた。
その切実な想いが、波のようにレイに押し寄せる。
離れたくない、という強い気持ちはレイも同じだったため、魔王を責めることはできなくなり、悄然とうなだれた。
「フリューイ殿のことは案ずるな、レイ。すぐに会えるだろう。こちらに来い。これからの予定を説明する」
魔王はそう言いながら、テーブルの隅に人間界の地図を広げた。
「フリューイ殿は一昨日、人間界のクエンサール国の東端、<岬の遺跡>で、ホーソン博士と会っている。おそらく、何かのきっかけでおまえの消息が不明になっていることを知り、ホーソン博士から事情を聞き出すために彼の居所を訪ねたのだろう」
本来なら、レイは今、ホーソン博士の依頼で彼の護衛をしながら遺跡巡りをしているはずだった。それが旅の途中で魔王に拉致されたため、人間界では現在、ラギを除いてレイの消息を知る者はいない。
ラギはレイの代役として魔王が連れてきた魔族の男で、現在もレイの代わりにホーソン博士の護衛兼助手として研究の旅に付き従っている。
魔王は状況説明を続けた。
「ホーソン博士には暗示がかかっているため、フリューイ殿に何を尋ねられても、『レイは急用ができて旅を続けられなくなり、代役として友人のラギを連れて来てくれた』としか答えられない。そこでフリューイ殿の矛先は、ラギに向けられた。フリューイ殿の剣幕は凄まじかったそうだ。ラギは腕の立つ男だが、おまえの兄を傷つけるわけにはいかず、おまえが無事であることと、魔界にいることを打ち明ける他なかった。もちろん、詳細は伏せて」
レイにはその光景が想像できた。
いつもは、風のない日にさざ波ひとつ立たない湖面のような静けさを漂わせているフリューイだが、ひとたび弟の身に危険が及ぶと知ると、猛り狂う猪のように、激情の炎をまとって突進していく。
レイは子供のころを思い出した。
小さな石につまずいて転び、膝に擦り傷を負ったレイを見て、フリューイは魔導術でその石を粉みじんに砕いてしまったのだ。――凄まじい、怒りの形相で。
レイはごくりとつばを飲み込んだ。
「ラギは……あんたの、臣下だろう? 無事か……?」
「うまく逃げおおせたそうだ。心配ない。博士と旅を続けている」
レイはホッとして息を吐き出した。
「それで……兄さんは、今、どこに?」
魔王は地図上を指し示し、「この辺りだ」と答えた。
「フリューイ殿は早馬を乗り継いで、全速力でクエンサール国の西端、魔界に通じる<界門>に向かっている。<界門>到着予定は最速で3日後と予測しているが、界門を通る前に、寄り道をするはずだ」
「寄り道? どこに?」
「おまえが以前、案内してくれた山中の隠れ家だ」
レイは心地よい眠りから無理やり引き離され、不機嫌な顔で目を半開きにした。
昨夜、失神した後の記憶は一切ないが、どうやら魔王は、二人分の体液でべとべとになったレイの体を洗い清めてくれたらしい。人形の世話になったのか、汚れた寝具も交換してある。
レイは清潔なシーツの上で伸びをし、恨めし気に魔王を見つめた。
「うぅ~……。もっと……寝ていたい……起きなきゃ、だめか……?」
昨夜の激しい性交で、体のあちこちがギシギシと痛んだ。
わずかに隙間を開けられたカーテンから、朝の陽ざしが差し込んでいる。
太陽はまだ昇り始めたばかり、眠ったのはせいぜい3~4時間程度と知り、レイは大きなあくびをした。
「レイ、すまない。おまえに、重要なことを伝えなければならぬ。朝食を摂りながら、聞いてくれ」
魔王の真剣な口調に、レイは観念して軋む体を起こした。
人形によって整えられた朝食のテーブルには、何種類もの果物のジュースや、焼き立てのパンの数々、野菜サラダやクリームスープなどが、豪勢に並んでいる。パンも料理も、一目見て、ロワンが作ったものと分かり、その美味しそうな匂いを嗅いで、レイの眠気は吹き飛んだ。
共に食べ始めてしばらく、魔王は無言だったが、やがてレイの食事がほぼ終わりかけているのを見て、おもむろに口を開いた。
「実はな……レイ。落ち着いて、聞いてくれ」
「うん、何だよ、魔王。早く言ってくれ。気になるじゃないか」
「……おまえの兄が、行方不明のおまえを捜して、魔界に通じる<界門>に向かっている」
「!!!!!!」
口の中に入れようとした果物のかけらを、レイは皿の上に落とした。
「えっ……なんで……兄さんが、俺が行方不明って、なんで知ってるんだ?! だってまだ、俺が家に帰る予定の日は、半月以上、先のことで……っっ!! ああっ……どうしよう、俺、すぐ行かないと! 兄さんが、魔界に入ったら大変だ! 家に帰らないと!!」
魔王の予想した通り、レイは取り乱して席を立ち、叫びながらウロウロと室内を彷徨い始めた。
人間の外見をしたレイと違い、腹違いの兄のフリューイは生粋の仙界人だ。魔族と同じように、先端が尖った大きな耳と、額瞳を具え、パッと見たところ両者にさほど違いはないが、醸し出す雰囲気に決定的な違いがある。
魔族は仙界人に対してあまり良い印象を持たないため、もし、単身で魔族の護衛もつけずにフリューイが魔界に入れば、どんな危険な目に合うか分からない。
レイは心配でたまらず、じっとしていられなくなり、自分の荷物を滅茶苦茶にまとめ始めた。
「すぐ、すぐ兄さんのもとに帰らないと!!」
「レイ、落ち着け……フリューイ殿に危険が及ばないよう、各地の<界門>をはじめ、あらゆる方向にすでに手配済みだ」
「えっええ? いつ……?! 魔王、あんた、いつから知ってたんだ?! 兄さんが、俺を捜してるって、いつから!!」
「昨日、<霧の宮>でおまえと別れた後、報告を受け取った」
「なんで……っ! 何でもっと早く、教えてくれなかったんだ!!」
「言えばおまえは、すぐに私の元を離れ、人間界に帰ってしまうと思ったからだ。ようやく……ようやく、おまえと心身ともに結ばれたというのに。一日でも長く、おまえと、共に過ごしたかったのだ」
魔王は寂し気な微笑みを浮かべ、熱のこもった瞳でレイを見つめた。
その切実な想いが、波のようにレイに押し寄せる。
離れたくない、という強い気持ちはレイも同じだったため、魔王を責めることはできなくなり、悄然とうなだれた。
「フリューイ殿のことは案ずるな、レイ。すぐに会えるだろう。こちらに来い。これからの予定を説明する」
魔王はそう言いながら、テーブルの隅に人間界の地図を広げた。
「フリューイ殿は一昨日、人間界のクエンサール国の東端、<岬の遺跡>で、ホーソン博士と会っている。おそらく、何かのきっかけでおまえの消息が不明になっていることを知り、ホーソン博士から事情を聞き出すために彼の居所を訪ねたのだろう」
本来なら、レイは今、ホーソン博士の依頼で彼の護衛をしながら遺跡巡りをしているはずだった。それが旅の途中で魔王に拉致されたため、人間界では現在、ラギを除いてレイの消息を知る者はいない。
ラギはレイの代役として魔王が連れてきた魔族の男で、現在もレイの代わりにホーソン博士の護衛兼助手として研究の旅に付き従っている。
魔王は状況説明を続けた。
「ホーソン博士には暗示がかかっているため、フリューイ殿に何を尋ねられても、『レイは急用ができて旅を続けられなくなり、代役として友人のラギを連れて来てくれた』としか答えられない。そこでフリューイ殿の矛先は、ラギに向けられた。フリューイ殿の剣幕は凄まじかったそうだ。ラギは腕の立つ男だが、おまえの兄を傷つけるわけにはいかず、おまえが無事であることと、魔界にいることを打ち明ける他なかった。もちろん、詳細は伏せて」
レイにはその光景が想像できた。
いつもは、風のない日にさざ波ひとつ立たない湖面のような静けさを漂わせているフリューイだが、ひとたび弟の身に危険が及ぶと知ると、猛り狂う猪のように、激情の炎をまとって突進していく。
レイは子供のころを思い出した。
小さな石につまずいて転び、膝に擦り傷を負ったレイを見て、フリューイは魔導術でその石を粉みじんに砕いてしまったのだ。――凄まじい、怒りの形相で。
レイはごくりとつばを飲み込んだ。
「ラギは……あんたの、臣下だろう? 無事か……?」
「うまく逃げおおせたそうだ。心配ない。博士と旅を続けている」
レイはホッとして息を吐き出した。
「それで……兄さんは、今、どこに?」
魔王は地図上を指し示し、「この辺りだ」と答えた。
「フリューイ殿は早馬を乗り継いで、全速力でクエンサール国の西端、魔界に通じる<界門>に向かっている。<界門>到着予定は最速で3日後と予測しているが、界門を通る前に、寄り道をするはずだ」
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