51 / 84
Act 2
08. 可愛い愛しい皓一語り
しおりを挟む
久我は困っているようなホッとしているような複雑な表情をして、健斗に答えた。
「地球人に我々の姿を晒すのは、禁じられているんだ。だから薬師寺さん、申し訳ないけどその件には応じることができない」
「どうしても?」
食い下がる健斗に、逆に真也が尋ねた。
「なぜ我々の姿を見たいのだ? 怖いもの見たさ、というやつか?」
「あんた達は地球人のことを把握しているみたいだけど、俺はあんた達のことを何も知らない。何も知らないあんた達を信用してやろうって言ってるんだ、せめて、まやかしじゃなくて本当の姿を見たいって思うのは当然だろう? まあ、他にも色々訊きたいことはあるけど」
「…………そうだな、地球の生き物で我々に似てるものといえば……」
考え込むように、ゆっくりと言葉を紡ぐ真也を、久我が不安気に見ている。その様子から察するに、どうやらこの地球外知的生命体の本来の姿は、地球人から見て美しいとは言えないのだろう、と健斗は思った。だから真也の次の言葉に驚いた。
「クリオネだ。我々はクリオネに似ている」
ええっ?!と、久我が複雑な表情で真也を仰ぎ見る。
クリオネといえば「海の天使」と呼ばれているくらい、可愛らしい生き物だ。意外に思って健斗が「そうなののか?」と久我に問いかけると、久我は眉間に皺を寄せ、眼鏡をクイッと上げながら唸った。
「いや……ううむ……うん、クリオネに似てると言われれば似てるところもある……うん。内臓が透けて見えるところとか、捕食してるところとか……少し似てる……かもしれない」
久我の言葉に、健斗は首をひねって呟いた。
「捕食? クリオネが食べてるところなんか、見たことないな」
「見ない方が、いいと思う……。まあ、薬師寺さんはタフそうだし……大丈夫かもしれないが……」
「ますます見たくなってきた。ていうか、あんた達、クリオネみたいに小さいのか?!」
その質問には、真也が答えた。
「いいや。体長は平均して3メートルほどだ。まあ、ほとんどが、…………なのだが…………」
「何? 最後の方、聞こえなかった」
真也は不本意そうな表情で、言葉を濁した。
「……地球人は見た目にこだわり過ぎる。我々はもうそのような時期は過ぎ、外見にはあまりこだわらなくなった。体温を完璧にコントロールする術を身につけ、衣服などという原始的なものに対する興味も失くしたしな」
そこまで言って、真也は何かを思い出したかのようにパッと表情を明るくし、言葉を続けた。
「まあ、皓一限定で言えば、非常に可愛いと思うし、食べているところも笑うところも寝ているところも起き抜けのふにゃけたところも最高に愛らしいと思うし、あれこれ着せ替えれば映えるし個人的には皓一には一番青が似合うと思うが他の色も試したくて何だかんだ買いすぎて一人でテンパってる自分がまた楽しいとすら思うし、皓一を裸に剥けば面白いところに体毛が生えているところもまた」
「もういいもういいもういい、もういいし!!」
「はいはいはいはい、その辺で!」
健斗と久我が同時に叫び、真也の暴走列車のごとき皓一語りを遮る。真也はムズ痒いような何かを我慢しているかのような表情で立ち上がった。
「いかん。皓一に会いたくなってきた。だめだ、今すぐ会わねば俺は死ぬ! またな、健斗」
そう叫ぶと、真也は久我を置いてさっさと部屋を出て行った。
久我は溜息をつくと、ジャケットの内ポケットからメモとペンを取り出し、何やら書きなぐって健斗に渡した。
「遅くにすまなかったね、薬師寺さん。これ、私の携帯番号。何かあったらいつでもかけてきて。大学でまた会ったら、声をかけてよ。私からも声をかけてもいいかい?」
「ええ、構いません。久我さん」
「うん?」
「皓一さんの身の安全を、よろしくお願いします」
「うん。任せといて。じゃあ、今夜のところはこれで失礼するよ」
二人が去って行くと、健斗は広くなった部屋で呟いた。
「最近皓一さんがオシャレでますます素敵になったのは……あいつのせいだったのか……」
センスは悪くない。くそぉ、チート宇宙人め――と、健斗は歯噛みした。
「地球人に我々の姿を晒すのは、禁じられているんだ。だから薬師寺さん、申し訳ないけどその件には応じることができない」
「どうしても?」
食い下がる健斗に、逆に真也が尋ねた。
「なぜ我々の姿を見たいのだ? 怖いもの見たさ、というやつか?」
「あんた達は地球人のことを把握しているみたいだけど、俺はあんた達のことを何も知らない。何も知らないあんた達を信用してやろうって言ってるんだ、せめて、まやかしじゃなくて本当の姿を見たいって思うのは当然だろう? まあ、他にも色々訊きたいことはあるけど」
「…………そうだな、地球の生き物で我々に似てるものといえば……」
考え込むように、ゆっくりと言葉を紡ぐ真也を、久我が不安気に見ている。その様子から察するに、どうやらこの地球外知的生命体の本来の姿は、地球人から見て美しいとは言えないのだろう、と健斗は思った。だから真也の次の言葉に驚いた。
「クリオネだ。我々はクリオネに似ている」
ええっ?!と、久我が複雑な表情で真也を仰ぎ見る。
クリオネといえば「海の天使」と呼ばれているくらい、可愛らしい生き物だ。意外に思って健斗が「そうなののか?」と久我に問いかけると、久我は眉間に皺を寄せ、眼鏡をクイッと上げながら唸った。
「いや……ううむ……うん、クリオネに似てると言われれば似てるところもある……うん。内臓が透けて見えるところとか、捕食してるところとか……少し似てる……かもしれない」
久我の言葉に、健斗は首をひねって呟いた。
「捕食? クリオネが食べてるところなんか、見たことないな」
「見ない方が、いいと思う……。まあ、薬師寺さんはタフそうだし……大丈夫かもしれないが……」
「ますます見たくなってきた。ていうか、あんた達、クリオネみたいに小さいのか?!」
その質問には、真也が答えた。
「いいや。体長は平均して3メートルほどだ。まあ、ほとんどが、…………なのだが…………」
「何? 最後の方、聞こえなかった」
真也は不本意そうな表情で、言葉を濁した。
「……地球人は見た目にこだわり過ぎる。我々はもうそのような時期は過ぎ、外見にはあまりこだわらなくなった。体温を完璧にコントロールする術を身につけ、衣服などという原始的なものに対する興味も失くしたしな」
そこまで言って、真也は何かを思い出したかのようにパッと表情を明るくし、言葉を続けた。
「まあ、皓一限定で言えば、非常に可愛いと思うし、食べているところも笑うところも寝ているところも起き抜けのふにゃけたところも最高に愛らしいと思うし、あれこれ着せ替えれば映えるし個人的には皓一には一番青が似合うと思うが他の色も試したくて何だかんだ買いすぎて一人でテンパってる自分がまた楽しいとすら思うし、皓一を裸に剥けば面白いところに体毛が生えているところもまた」
「もういいもういいもういい、もういいし!!」
「はいはいはいはい、その辺で!」
健斗と久我が同時に叫び、真也の暴走列車のごとき皓一語りを遮る。真也はムズ痒いような何かを我慢しているかのような表情で立ち上がった。
「いかん。皓一に会いたくなってきた。だめだ、今すぐ会わねば俺は死ぬ! またな、健斗」
そう叫ぶと、真也は久我を置いてさっさと部屋を出て行った。
久我は溜息をつくと、ジャケットの内ポケットからメモとペンを取り出し、何やら書きなぐって健斗に渡した。
「遅くにすまなかったね、薬師寺さん。これ、私の携帯番号。何かあったらいつでもかけてきて。大学でまた会ったら、声をかけてよ。私からも声をかけてもいいかい?」
「ええ、構いません。久我さん」
「うん?」
「皓一さんの身の安全を、よろしくお願いします」
「うん。任せといて。じゃあ、今夜のところはこれで失礼するよ」
二人が去って行くと、健斗は広くなった部屋で呟いた。
「最近皓一さんがオシャレでますます素敵になったのは……あいつのせいだったのか……」
センスは悪くない。くそぉ、チート宇宙人め――と、健斗は歯噛みした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
360
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる