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Chapter 1.極悪鬼畜研究所で絶体絶命の貞操危機(試し読み)
1-05 「股突き殺しの絶倫卿」から予約が入ったらしい……(絶望)
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その日、飼育係の一人が俺に話しかけてきた。
「おはよう、ドドちゃん。調子はどう?」
彼女は柔らかい垂れ耳を持つ兎人間で、俺をドドちゃんという愛称で呼んでいる。俺には「ドゥドゥ0801」という識別番号が付けられていて、そこからドドになったらしい。どうでもいいが、「ドドちゃん」と呼ばれるたび、俺はオットセイとかトドの類になったような気分になる。はっきり言って、微妙なあだ名だ。……でも、いいんだ。この飼育係は可愛いくて優しいし、丁寧に世話をしてくれるから、特別にドドちゃんって呼ばせてあげてる。他の奴がドドちゃんなんて呼んで来たら、思いっきり嫌な顔をしてやるが。
「ぼんやりしてるね、ドドちゃん、大丈夫? 昨日は体調が悪くて『お披露目』が途中で打ち切りになったんだってね。可哀相に……」
そう言って優しく頭を撫でてくる彼女を、俺はベッドに腰かけたまま見上げた。
俺は彼女を、ホーランちゃんと呼んでいる。垂れ耳ウサギのホーランド・ロップという種類に似てるし、この世界の基本言語による彼女の名前の音も、それに近いから。
俺はホーランちゃんに、通じないとわかっていながら日本語で答えた。
「やあ、ホーランちゃん、おはよう。実を言うと今日も吐きそうなんだ。だからあの凌辱椅子は勘弁してくれ。頼む、絶対嫌だ」
「うんうん。昨日は大変だったね。ドドちゃんは、毎日よく頑張ってるよ。……本当に、可哀相に……」
「そう思うならもう媚薬を飲まそうとしないでくれ。俺をジャンキーにする気か? ここの連中は本当にいかれてやがる。奴隷も合法なんだって? この世界を牛耳ってる魔王とやらはさぞかし変態キモメンなんだろうな。なあ、ホーランちゃん、あんたには人情ってやつがあるんだろ、いつも親切だもんな。だから頼むよ、俺を変な客に売るのはやめてくれ。俺はさ、よく働く真面目な人間なんだ、だから性的奉仕じゃなくて、他の仕事を見つけてくれよぉ……」
「うんうん、ドドちゃんが何を言っているのかはわからないけど、窮状を訴えているのはわかるよ……辛いよね? うん、可哀相に……本当に……可哀相に……」
「わかる? え、わかるの? それならホーランちゃん、頼むよ、俺にさ、普通の仕事を見つけてくれよぉ……」
「ホラ、ドドちゃんの好きなプルプルダダンだよ。このお菓子、好きでしょ、今日は特別にたくさん用意したよ。みんなには内緒ね」
「あっ、やった! 確かにそれ好きだ! 毎日ドックフードみたいなのばっかりで飽き飽きしてたんだ。いいか、人間だってなぁ、毎日同じものばっかだと嫌になるし、甘いお菓子も食べたくなるんだぞ」
すっかりお菓子で懐柔された俺が、そのプリンとクッキーを合わせたような甘いお菓子に舌鼓を打っていると、別の飼育係が部屋に入ってきた。トカゲ男だ。俺はこいつのことを、リザードンと呼んでいる。
リザードンはお菓子を貪っている俺を見て、ホーランちゃんに向かって言った。
「おいおまえ、来客用の高級菓子をちょろまかしただろ。高カロリーだぞ、あれ」
「いいじゃない、少しぐらい……。だって、この子、可哀相なんだもん……」
そう言って声を詰まらせたホーランちゃんが、シクシクと泣き始める。
……えっ……。泣くほど?
泣くほど、俺の身を案じてくれてるの?
俺は戸惑いながら二人をチラチラ見た。
ホーランちゃんの肩に手を置き、リザードンがそっと慰めている。
「泣くなよ……。まあ、おまえの気持ちは分からなくもないが……。こいつに、あの『血まみれ瞬殺王牙』からの予約が入ったんじゃな……」
え……。
ち、ち、血まみれ瞬殺?!
何その、物騒なネーミング……。
予約って、何のことだよ?!
嫌な予感がする……。
「私、ドドちゃんが可哀相で……。王牙卿は、『股突き殺しの絶倫卿』とか、『ニンゲン喰らいの好色卿』とか呼ばれてるじゃない、この子がどんな扱いを受けるか……想像しただけでもう……」
えっ……。今、なんて言った? 聞き間違い? そうだよな、聞き間違い、だよな? マタツキゴロシって……ゼツリンって……ニンゲングライって……お、お、俺が思っている意味と違うよな?
ショックを受けた俺の表情を見たリザードンが、ハッして、ホーランちゃんを部屋の隅に連れて行った。彼らはニンゲンの耳の性能が、自分たちに比べて劣ることを知っているので、距離を取ればもう聞こえないと思っているらしい。3メートルぐらい離れた部屋の隅で、ひそひそ話を続行した。
「このニンゲン、賢いんだろ? まあ賢いって言っても子供程度の知能だろうけど。とにかくあんまりそばで余計なこと言わない方がいいぜ」
リザードン、おまえも詰めが甘いな。そんな距離じゃ、しっかり聞こえるぜ。しかも俺今、耳ダンボだし。聴力に全集中させてる俺をなめんなよ。あと、子供じゃねぇ。中身、25歳の大人だ。
「ごめん。わかってる、わかってるよ、ドドちゃんに心配かけちゃだめだよね。この子、とっても優しいの。私が物を落としたら拾ってくれたり、目が合ったらにっこり笑ったりするんだよ。今まで世話したどんな子より、可愛くて。……だから……余計に……可哀相で……もし私が、お金持ちだったら、私が……私が……連れて帰ってあげられるのに……うっ、うぅ……」
「……まあ、そんなに思いつめるなって。王牙卿に関しては、いい噂もあるんだぜ? なんと言っても、魔王陛下が一目置くほどの猛者だしな。立派な人物だって噂も聞くし、売れ残るよりずっといいじゃないか」
「でも王牙卿の買ったニンゲンは、みんな半年も経たないうちにいなくなるって話じゃない。みんな言ってるよ、王牙卿は変態で、きっとニンゲンを散々弄んだあと、た、た、た、た……たたた食べ……。……うううう、うわ~ん!」
「ばか、泣くな! おまえ、休憩してこい、あとは俺がやっとくから」
泣きながらホーランちゃんが退室してゆくのを、俺は茫然と見守っていた。
ちょっと待て……ホーランちゃん、今なんて言った?
俺を買おうとしている御仁がいて、そいつはニンゲン大好きで、散々弄んだあと、食べ……………………。
食べ………………。
………………。
た、た、食べ……られる……のか、俺?!
い、い、嫌だあーーーーーーーーっ!!!!
誰か……嘘だと言ってくれ!
神様……お願いです、助けてください!!
「おはよう、ドドちゃん。調子はどう?」
彼女は柔らかい垂れ耳を持つ兎人間で、俺をドドちゃんという愛称で呼んでいる。俺には「ドゥドゥ0801」という識別番号が付けられていて、そこからドドになったらしい。どうでもいいが、「ドドちゃん」と呼ばれるたび、俺はオットセイとかトドの類になったような気分になる。はっきり言って、微妙なあだ名だ。……でも、いいんだ。この飼育係は可愛いくて優しいし、丁寧に世話をしてくれるから、特別にドドちゃんって呼ばせてあげてる。他の奴がドドちゃんなんて呼んで来たら、思いっきり嫌な顔をしてやるが。
「ぼんやりしてるね、ドドちゃん、大丈夫? 昨日は体調が悪くて『お披露目』が途中で打ち切りになったんだってね。可哀相に……」
そう言って優しく頭を撫でてくる彼女を、俺はベッドに腰かけたまま見上げた。
俺は彼女を、ホーランちゃんと呼んでいる。垂れ耳ウサギのホーランド・ロップという種類に似てるし、この世界の基本言語による彼女の名前の音も、それに近いから。
俺はホーランちゃんに、通じないとわかっていながら日本語で答えた。
「やあ、ホーランちゃん、おはよう。実を言うと今日も吐きそうなんだ。だからあの凌辱椅子は勘弁してくれ。頼む、絶対嫌だ」
「うんうん。昨日は大変だったね。ドドちゃんは、毎日よく頑張ってるよ。……本当に、可哀相に……」
「そう思うならもう媚薬を飲まそうとしないでくれ。俺をジャンキーにする気か? ここの連中は本当にいかれてやがる。奴隷も合法なんだって? この世界を牛耳ってる魔王とやらはさぞかし変態キモメンなんだろうな。なあ、ホーランちゃん、あんたには人情ってやつがあるんだろ、いつも親切だもんな。だから頼むよ、俺を変な客に売るのはやめてくれ。俺はさ、よく働く真面目な人間なんだ、だから性的奉仕じゃなくて、他の仕事を見つけてくれよぉ……」
「うんうん、ドドちゃんが何を言っているのかはわからないけど、窮状を訴えているのはわかるよ……辛いよね? うん、可哀相に……本当に……可哀相に……」
「わかる? え、わかるの? それならホーランちゃん、頼むよ、俺にさ、普通の仕事を見つけてくれよぉ……」
「ホラ、ドドちゃんの好きなプルプルダダンだよ。このお菓子、好きでしょ、今日は特別にたくさん用意したよ。みんなには内緒ね」
「あっ、やった! 確かにそれ好きだ! 毎日ドックフードみたいなのばっかりで飽き飽きしてたんだ。いいか、人間だってなぁ、毎日同じものばっかだと嫌になるし、甘いお菓子も食べたくなるんだぞ」
すっかりお菓子で懐柔された俺が、そのプリンとクッキーを合わせたような甘いお菓子に舌鼓を打っていると、別の飼育係が部屋に入ってきた。トカゲ男だ。俺はこいつのことを、リザードンと呼んでいる。
リザードンはお菓子を貪っている俺を見て、ホーランちゃんに向かって言った。
「おいおまえ、来客用の高級菓子をちょろまかしただろ。高カロリーだぞ、あれ」
「いいじゃない、少しぐらい……。だって、この子、可哀相なんだもん……」
そう言って声を詰まらせたホーランちゃんが、シクシクと泣き始める。
……えっ……。泣くほど?
泣くほど、俺の身を案じてくれてるの?
俺は戸惑いながら二人をチラチラ見た。
ホーランちゃんの肩に手を置き、リザードンがそっと慰めている。
「泣くなよ……。まあ、おまえの気持ちは分からなくもないが……。こいつに、あの『血まみれ瞬殺王牙』からの予約が入ったんじゃな……」
え……。
ち、ち、血まみれ瞬殺?!
何その、物騒なネーミング……。
予約って、何のことだよ?!
嫌な予感がする……。
「私、ドドちゃんが可哀相で……。王牙卿は、『股突き殺しの絶倫卿』とか、『ニンゲン喰らいの好色卿』とか呼ばれてるじゃない、この子がどんな扱いを受けるか……想像しただけでもう……」
えっ……。今、なんて言った? 聞き間違い? そうだよな、聞き間違い、だよな? マタツキゴロシって……ゼツリンって……ニンゲングライって……お、お、俺が思っている意味と違うよな?
ショックを受けた俺の表情を見たリザードンが、ハッして、ホーランちゃんを部屋の隅に連れて行った。彼らはニンゲンの耳の性能が、自分たちに比べて劣ることを知っているので、距離を取ればもう聞こえないと思っているらしい。3メートルぐらい離れた部屋の隅で、ひそひそ話を続行した。
「このニンゲン、賢いんだろ? まあ賢いって言っても子供程度の知能だろうけど。とにかくあんまりそばで余計なこと言わない方がいいぜ」
リザードン、おまえも詰めが甘いな。そんな距離じゃ、しっかり聞こえるぜ。しかも俺今、耳ダンボだし。聴力に全集中させてる俺をなめんなよ。あと、子供じゃねぇ。中身、25歳の大人だ。
「ごめん。わかってる、わかってるよ、ドドちゃんに心配かけちゃだめだよね。この子、とっても優しいの。私が物を落としたら拾ってくれたり、目が合ったらにっこり笑ったりするんだよ。今まで世話したどんな子より、可愛くて。……だから……余計に……可哀相で……もし私が、お金持ちだったら、私が……私が……連れて帰ってあげられるのに……うっ、うぅ……」
「……まあ、そんなに思いつめるなって。王牙卿に関しては、いい噂もあるんだぜ? なんと言っても、魔王陛下が一目置くほどの猛者だしな。立派な人物だって噂も聞くし、売れ残るよりずっといいじゃないか」
「でも王牙卿の買ったニンゲンは、みんな半年も経たないうちにいなくなるって話じゃない。みんな言ってるよ、王牙卿は変態で、きっとニンゲンを散々弄んだあと、た、た、た、た……たたた食べ……。……うううう、うわ~ん!」
「ばか、泣くな! おまえ、休憩してこい、あとは俺がやっとくから」
泣きながらホーランちゃんが退室してゆくのを、俺は茫然と見守っていた。
ちょっと待て……ホーランちゃん、今なんて言った?
俺を買おうとしている御仁がいて、そいつはニンゲン大好きで、散々弄んだあと、食べ……………………。
食べ………………。
………………。
た、た、食べ……られる……のか、俺?!
い、い、嫌だあーーーーーーーーっ!!!!
誰か……嘘だと言ってくれ!
神様……お願いです、助けてください!!
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