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2話

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恥ずかしいわ、でも、しっかりと皆さんにお伝えしなくては----私とディルは、自他共に公認のカップルになりました。

最初は周り、特に女の子達のが騒がしかったけど、ディルの数々のエスコートのお陰で、周りは認めざるを得なくなったみたい。

ディルはよく言うの。
『もう、絶対に出会えないって、思ってたんだ。』
最初はなんの事だか、さっぱり分からなかったわ。だって、そうでしょう?話の意図が見えないんだもの。 
『誰に?何に?』
この質問も、もっともでしょう?
だって、主語が無いんだもの。

輝く瞳をこちらに向けて、ディルは言う。 
『公には知られてないけど、僕たち魔術師は運命の人と出会うと分かるんだ。』
最初は運命の人だなんて、大げさだし、また彼が私を喜ばせようと大げさに言ったんだって思ったわ。
訝しむ私に理解してもらえるように、彼は少し前のめりになりながら、説明を続ける。
『出会うまでは、荒ぶる魔力が内側から、こう、殻を破るみたいに飛び出そうとして唸っているのが分かるんだ。それって、とっても辛いんだよ?精神を蝕んでくるのが分かるんだ。自分が壊れていくのが分かるけど、どこまでいっても壊れないんだ。』
そこまで一気に言い切って彼は下を向いた。
『皆が友達と遊んでるときに、僕だって一緒になって遊びたかったんだ、なのに---魔力なんかに僕の自我をくれてやるもんか、くれてやるもんかって、毎日戦ってたんだ。』
『---そしたら、いつの間にか、自分の魔力に勝ってて、操れるようになったんだけど、操ってるだけで僕の心を黒く染めようとしててね、僕は染まりたくなかったんだ、どうしても。世界への愛情が無くなっていく気がして...でね、もう僕一人の手に負えなくなったんだ。誰かに助けてもらう必要があった。手助けしてもらうなんてカッコ悪いなんて自分のプライドが邪魔して、なかなか行動に起こさなかった事を今はバカだったなんて思うよ。その証拠に、今はこんなにも君に心が救われてるし、魔力の循環もスムーズだし、他のみんなは僕よりも早く運命の人を見つけたし!あーぁ、意地張らずにいればもっと早く君に会えてたと思うと、悔しいなぁ。もっと一緒にいれたってことだもの。』
どっかりと足を広げて両手を後ろについた彼は、子供のように唇を尖らせる。
それを可愛いと思う私は恋の末期症状かしら。
『私は、今の、あなたに会えて嬉しいわ。これが良いのよ、これで良いわ、完璧じゃない、私はそう思うわ。』
彼の目が見開かれ、次第にキラキラと輝き、ガバッと抱きついてきた。
咄嗟のことに驚きながらも、何とか大勢を整える。
『あぁ、僕の良く出来た恋人のルビー、大好きだよ。』
額にキスされる。
----きっと今、私の顔は赤い。

『ほら、しゃんとしてディル!もうすぐ貴方の友達とのパーティー会場に着くわよ?目的の通りに着いちゃったわよ。』
再度お互いの装いをチェックする。よし、間違いなく素敵だわ。
そうして、パーティー会場へ合流した。

会場に集まった皆さん、大事なパートナーを連れいているそうだ。少し緊張するのは、理解してほしい。だって、魔法使いなんて滅多に知り合いになれないし。それに、彼の親しい友達ともなれば、……分かるでしょ⁉
靴屋の娘はまずそんなパーティーには出席しないもので、このドレスも、今夜限りでクローゼットの奥に大事に仕舞われるのがオチだと思うの。
それ位、日常には無いイベントなんだから。

そして、パーティー会場では、自分のバートナーを褒めちぎる魔術師と、更に褒め返すその相手、という甘々な空間が出来上がったとさ。 
めでたし、めでたし?
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