ネームドの成り方

特撮

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プロローグ

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 若葉の森。
スライムやホーンラビット、そしてゴブリンが多く生息する中規模の森。
湧き水もあり薬草の群生地も点在する。
冒険者ギルドが駆け出しの冒険者に勧める最初のエリア。

 だから、周りに倒れているC級冒険者も、殺気を向けてくる巨大な熊も、冒険者ギルドからレンタルしたナマクラの短剣を持って対峙しているのも、何かの間違いなのだろう。



―――数時間前

「悪いなエリク…」
そう申し訳なさそうに言うのはオレの兄であるドニ
最近、貧しいながら親から土地を相続し、奥さんとの間に子供が出来た。
一緒に暮らしていたが、奥さんと生まれてくる子供を養うので精一杯であり、俺の持ち分の土地を売って兄に渡したところだ。

「気にするなよ兄貴。俺にも生まれてくる子供の役に立たせてくれ」
少ない手荷物を持ち、旅人の様な恰好をする若い男。
俺、エリクは農民の家に生まれた普通の15歳のヒューマン

「それに、冒険者って仕事は男の子なら誰もが夢に見る職業だぜ?挑戦する良い機会だ」
農民として一生を終えるつもりでいたが、自身から出た言葉もまた本音だと思う。

「じゃあな兄貴、奥さんと子供を大切にしろよ」
いつまでも手を振る兄、頭を下げ続ける奥さん
優しい兄に恩を返せて冒険者になるのも悪くない。



 一番近い街、ランド
大きくはないが比較的治安も良く、教会や錬金術協会もあり、そして冒険者ギルドもある。
大柄、獣人、魔法職…強者たちが行き来する建物に戸惑ってしまう。
一般人で資金もない俺が入るには、少しハードルが高い気もしてしまうのだ。
カラン、コロコロ…

「何かを転がした様な音…?」
周りを見渡しても何も落ちていないし、音の原因を知る事は出来なかった。
だが、気が紛れたのか緊張は消えて自然と冒険者ギルドに入る事が出来た。

建物の中は思ったよりも静かだが、独特の雰囲気が漂っている。
入ってきた俺を観察する者、依頼ボード前で睨み合っている者、様々である。
そして、受付と書かれたプレート前は列ができている。

「思ったよりも混んでるな…今日中に登録して依頼を受けられると良いんだけどなぁ」
今の手持ちはあまりにも心もとない…早く依頼を受けて資金を作らないと装備どころか宿すらままならない。
カラン、コロコロ…
またあの音が聞こえた。
周りを見渡しても気にしている者はおらず、原因も分からなかった。
だが、視線を戻せば一つだけ誰も並んでいない受付がある事に気付いた。
幸い人は座っていて受付事態はしてくれるのだろう。

「冒険者登録をお願いしたいんですが…ッ!」
人のいない受付に話しかけると、なるほど並ばない理由が分かった。
虎の獣人が不機嫌そうに受付窓からこちらを睨んでいる。
数秒の沈黙、品定めの視線に冷汗が出てしまうが、動けない。
威圧のスキルを使っているのだろう、周りの冒険者たちも息を飲む。


「…これに記入しろ」
数分…いや、数秒の出来事だったはずだが、緊張のせいで酷く長く感じた。
愛想笑いを浮かべて、虎の獣人が睨む中急いで記入していく。
その後、威圧混じりの言葉で説明を受け…やっと仮登録が完了した。
仮冒険者証を貰い、Fランクの依頼を数回達成すればやっとこの仮冒険者証が底辺冒険者証になる。
信頼が命の冒険者ギルドである以上、簡単過ぎる登録は出来ないらしい。

「好きに選べ」
提示された依頼は三つ。
『若葉の森に群生する薬草を20束納品』
『若葉の森に生息するゴブリンを5体討伐』
『街の下水清掃を3時間』

「なるほど…ポーションの原料ならどの等級でも必要だし、数が増えるとまずいゴブリンの間引き、それと奉仕活動か」
街や冒険者に分かり易く貢献できる依頼で、依頼者はギルドや街自体で無期限依頼だから失敗しても痛くないのだろう。
怖い虎の獣人の受付が丁寧に説明してくれたおかげで、依頼者の意図が少しは分かった気がする。
しかし、武器も装備もない俺では採集や討伐は難しい。
でも、下水清掃などしたら宿に泊めてもらえなくなる可能性もある。
これは中々難問だと考えていると

「ギルドから採集道具とレンタルの武器と盾がある」
こちらの考えが分かったのか、とても良い情報を得られた。
レンタル費用も高くはない。これなら報酬で1日の宿代は手に入る。
もちろん、ゴブリン討伐でなければ宿代にはならないが…

「おぉ!じゃあ武器のレンタルをお願いして、ゴブリンの討伐をやろうと思います」
虎の獣人の要点をまとめた説明や列に誰もいない事で、今日中に依頼を受けて納品、そして宿に泊まる事も出来そうだ。
注意事項を聞き、俺は早速若葉の森へ向かった。



 森に到着して1時間。
森の入り口から最初の柵までを探索し続けている。
奥に入れば入る程危険になる為、森には柵が設置されている。
探索続けているが、ゴブリンどころかホーンラビットも見つからない。
虎の獣人の話ではホーンラビットは割と見かけるらしいのだが…

「俺って運が悪いのかもなぁ」
慣れない森での移動や、使ったこともない短剣を装備して疲労が蓄積し始めている。

休憩できる場所を探す。
カラン、コロコロ…

「またこの音…」
地面は土だし、周りに人もいない。
冒険者ギルドでは他の人は気にしていなかったし、聞こえていないのか気にしていないのか
少し考えたが、答えは出なかった為気にせずに行動する事にした。

柵伝いに探索しているが、柵の向こうに開けている場所を見つけた。
少し小山になっていて、見晴らしも良いから直ぐに何かに気付けるはず。
立ち入り禁止な訳ではないので入っても怒られないし、この距離なら危険な変化も感じられない。
だから、冒険者見習いが独断をしたのも、ホーンラビットを見かけない理由に気付けなかったのも油断ではない。


 休憩して数分後、突然の悲鳴。
森の奥からこちらに向かって木々をなぎ倒す音が近付いてくる。
不思議な事に木々には鳥が止まっていてもおかしくないが、鳥が飛び立つ事はない。
この辺りにホーンラビットも鳥もいない様だ。
突然のイレギュラーに動けないでいると、ふと周りの違和感にやっと気付けた。

木々の間から傷だらけの冒険者が3人飛び出し、こちらに気付いた。
「お、おい逃げろ!フォレストベアの亜種だ!」

装備もそれなりに良さそうであり、全力でそれなりの距離を走っているし、怪我すらしているがまだ余裕がありそうだ。
だが、冒険者が飛び出してきた場所から巨大な影が猛スピードで迫り、声を掛けてくれた冒険者が轢かれた。
咄嗟の事だったが盾で受けた為死んではいないが、木に衝突し気を失っている。

残った冒険者は怯えながら呪文を唱え、フォレストベアに魔法を放つ。
火の玉飛び、フォレストベアに当たり燃える。

「これが魔法か」
魔法は適正ある者しか扱えない。
村には魔法を使える奴なんていなかったし、いたとしても貴族に連れられて行ってしまう。
その威力は高く、巨大なフォレストベアものたうち回っている。

「トドメだ!」
弓を持った冒険者がフォレストベアを射抜いていく。
腹や足に当たり、出血もしているが…怒りが痛みを上回り、構わずに弓を持った冒険者を爪で切り裂いた。
血が周りに飛び散り、臓器や肉片も転がっている。

自分よりも遥かに強い冒険者が殺された。
人が殺されるのを見るのも初めてだし、イレギュラーな状態に対応する経験もない。
震えて、隠れもせずにそれを見ている事しかできない。
それは、魔法を使える冒険者も同じだったのか攻撃もしないで立ち尽くしている。

フォレストベアの体の火が消え、魔法使いの冒険者を睨みつける。
ダメージの蓄積か緩慢な動きで近付くフォレストベア

「お、おい早く逃げろ!」
恐怖で動けない魔法使いに、俺は咄嗟に声を出してしまった。
フォレストベアがこちらに気付く…血だらけの獣の殺気に体が動かない。

俺の声と視線が外れた事で魔法使いは動き出す。
早口で詠唱し、後ずさりしながら杖を構える。
だが、魔法を放つ前にとびかかったフォレストベアに肩を噛みつかれ振り回されている。
装備が良いため噛みちぎられていないが、肩はかなりの力で圧迫されているのだろう。
詠唱を終えないと殺されるのに悲鳴しか出ていない。

魔法使いを投げ飛ばし、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「…(まずい、逃げないと殺される…)」
分かっている。
だが、体が動かない。
巨大なフォレストベアは立ち上げり、冒険者見習いの俺と対峙している。
カラン、コロコロ…

こんな時に例の音が聞こえる。
「…(クソ、この音が鳴ると悪い事ばっかり起きやがる)」
臆して冒険者ギルドに入らなければこんな事にはならなかった。
列に並んでいればこんなことにはならず、虎の獣人にだって睨まれなかった。
開けた場所なんて見つけないで進んでいればこんな事にならなかった。

『ギルドから採集道具とレンタルの武器と盾がある』
虎の獣人が言っていた…
そういえば、この熊より虎の獣人の威圧の方が怖かったな
なんでこんなにビビってるんだ?

「よく見れば傷だらけじゃねぇか…」
自然とレンタルの短剣を抜いて構える。
フォレストベアはフラフラとしている。
矢が刺さり、魔法で焼け瀕死だ。
あと少しでこいつは絶命する。

「分厚い毛も焦げて切り易そうだな!えぇ森の熊さんよ!」
振られたダイスの目はクリティカル。
恐怖を乗り越え、瀕死のフォレストベアと万全の状態で対峙している。
恐れる事は何もない。
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