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第三章 太陽神殿(皇子ルート)
36.あーんっ!
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「はいっ、あーん……」
「あーん」
……んぐ、んぐっ
「うん、これもおいしいねぇ」
「うふふっ」
ここは太陽神殿の中の一室。
部屋の壁一面が大きく解放され、そこに続くベランダからは、明るく輝く太陽の光が差し込み、通り抜ける風は、もう夏の香りを運んで来てくれている。
外の気温はかなり高そうだけど、磨き上げられた大理石で作らた神殿の中は、まったくその暑さを感じさせない。
と言うより、乾燥した爽やかな風を受け、逆に涼しいぐらいな感じだ。
俺は口に入れてもらった甘酸っぱい果物をゆっくりと噛みしめる。
そのイチゴの様な果物は、さりげない酸味の中にも芳醇な香りと、舌がとろけだす様な甘みをもっていたんだ。
――でも、単純にこの果物が『甘い』と言うだけじゃないんだなぁ。これが。
今、俺の置かれているこのシチュエーションの全てが、俺に甘美で、かつとろける様な味わいをもたらしていると言うのは、間違い様の無い事実だ。
「はぁ。幸せ……」
あぁ、これが極楽と言うヤツなんだろうなぁ。
なんだったら、もう思い残す事は無いかもしれないな。
ここは、神殿の中にある俺専用のダイニング。
かなり広めの大理石で造られた部屋なんだけど、その中央には、瀟洒な細長いソファーが一つ、配置されているだけ。
俺はそのソファーに、中庭を眺める形で横たわり、ほぼ寝転んでいる状態だ。
そして、ソファーに寝そべる俺の枕元には、かなり大きめの丸いテーブルが置かれていて、その上には見たことも無い様なフルーツが、山の様に積み上げられている。それ以外にもクッキーやホットケーキの様なデザートまでが、所せましと並べられているんだ。
――そして、ここが重要な部分!
なんと! 俺の寝そべるソファーとテーブルの間には、小さなストールが一つ置かれていて、そこにはあの可愛い、とってもキュートなリーティアが座っているのだよ。
そして、俺に食べたいものを聞きながら、俺の代わりに口へと運んでくれるって言う『お得感満載』のシステムなのだっ!
おいおい、いったいどこのメイド喫茶にこんな画期的なシステムがあると言うんだよ! 少なくとも北陸には無いな。銀座か? いやいや、六本木にならあるのか? この画期的なシステム!?
実はこの国では、古くからの慣習により、貴人は自らの手によって食べ物を口に運ばないらしい。
最近ではスプーンやフォーク等の食器を使った『食事』と言うのも一般化して来ている様なんだけど、貴族クラスの内輪での食事会なんかでは、いまだにこの古い風習が残されているのだとか。
そして、食事の手伝いを行うのは、奴隷の役目だそうで、特に第一奴隷がその役割を担うらしい。――リーティアからの受け売りだけどね。
俺の場合は、まだ奴隷と言ってもじーちゃんから下賜されたリーティアしかいない――いいやいやいや、リーティアがいれば十分なんだよ。本当なんだよ――なので、今日のお昼はリーティアに食べさせてもらっていると言う訳さ。
――えへへへ。
「皇子様、それでは次は何が良ろしいですか?」
にっこりと微笑みながら、俺に問いかけて来るリーティア。本当に可愛いやつ!
「それじゃぁ、同じ果物をもう一回もらおうかな?」
「はい。かしこまりました」
俺の注文に、横のテーブルからイチゴの様な果物を一つ摘まむと、俺の口のほうへと運んでくれる。
「はい、あーん」
「あーん。ハムムっ!」
俺は、さっきとはちょっと違うタイミングで、リーティアの指ごと口に咥え込んでみる。
「あんっ、もう、皇子様っ。今度はわざと私の指を咥えましたねっ!」
リーティアは笑いながらも、ちょっとだけ怒った様な表情で俺を窘めてくる。
「いーや、いやいや、たまたまだよ。たまたまっ!」
「俺、こういう『食べ方』に慣れて無いからさぁ、ちょっと目測を誤っただけなんだよ。本当だよ?」
俺は、心にも無い事を言いつつ、ニマニマと鼻の下を伸ばしながら、口に入れてもらった果物をほおばる。
「もう、皇子様ったら、私の指は食べ物ではありませんよ?」
少しあきれた様に言いながらも、ちょっと嬉しそうなリーティア。
あーん、もう、かぁーわぁーいぃーいぃーー
この至福の時を享受する俺は、鼻の下はもちろん、目じりまでだらしなく垂れ下がり、体全体がとろけかかったチョコレートで出来ているかの様に、グダグダで収集のつかない状態になっていたのは言うまでも無い。
――そして、この俺の惨状を説明するには、今から小一時間ほど遡らねばなるまい。
あぁぁ、でも説明するの面倒くせぇなぁ。俺いま『至福』でめっちゃ忙しいんだけど! もう、俺が『至福』なんだから、それで良いんじゃね?
えっ? ダメ? もぉ仕方が無いなぁ。それじゃあ、もう一回思い返して見るかぁ。
もう一度これまでの経緯について思い返すって事は、それはそれで、顎の奥が、こう、『ジンジン』するぐらい甘酸っぱくて、両腕で自分の体全体を抱えながら、身もだえしてしまうぐらいの出来事の連続だったんだから……。
「あーん」
……んぐ、んぐっ
「うん、これもおいしいねぇ」
「うふふっ」
ここは太陽神殿の中の一室。
部屋の壁一面が大きく解放され、そこに続くベランダからは、明るく輝く太陽の光が差し込み、通り抜ける風は、もう夏の香りを運んで来てくれている。
外の気温はかなり高そうだけど、磨き上げられた大理石で作らた神殿の中は、まったくその暑さを感じさせない。
と言うより、乾燥した爽やかな風を受け、逆に涼しいぐらいな感じだ。
俺は口に入れてもらった甘酸っぱい果物をゆっくりと噛みしめる。
そのイチゴの様な果物は、さりげない酸味の中にも芳醇な香りと、舌がとろけだす様な甘みをもっていたんだ。
――でも、単純にこの果物が『甘い』と言うだけじゃないんだなぁ。これが。
今、俺の置かれているこのシチュエーションの全てが、俺に甘美で、かつとろける様な味わいをもたらしていると言うのは、間違い様の無い事実だ。
「はぁ。幸せ……」
あぁ、これが極楽と言うヤツなんだろうなぁ。
なんだったら、もう思い残す事は無いかもしれないな。
ここは、神殿の中にある俺専用のダイニング。
かなり広めの大理石で造られた部屋なんだけど、その中央には、瀟洒な細長いソファーが一つ、配置されているだけ。
俺はそのソファーに、中庭を眺める形で横たわり、ほぼ寝転んでいる状態だ。
そして、ソファーに寝そべる俺の枕元には、かなり大きめの丸いテーブルが置かれていて、その上には見たことも無い様なフルーツが、山の様に積み上げられている。それ以外にもクッキーやホットケーキの様なデザートまでが、所せましと並べられているんだ。
――そして、ここが重要な部分!
なんと! 俺の寝そべるソファーとテーブルの間には、小さなストールが一つ置かれていて、そこにはあの可愛い、とってもキュートなリーティアが座っているのだよ。
そして、俺に食べたいものを聞きながら、俺の代わりに口へと運んでくれるって言う『お得感満載』のシステムなのだっ!
おいおい、いったいどこのメイド喫茶にこんな画期的なシステムがあると言うんだよ! 少なくとも北陸には無いな。銀座か? いやいや、六本木にならあるのか? この画期的なシステム!?
実はこの国では、古くからの慣習により、貴人は自らの手によって食べ物を口に運ばないらしい。
最近ではスプーンやフォーク等の食器を使った『食事』と言うのも一般化して来ている様なんだけど、貴族クラスの内輪での食事会なんかでは、いまだにこの古い風習が残されているのだとか。
そして、食事の手伝いを行うのは、奴隷の役目だそうで、特に第一奴隷がその役割を担うらしい。――リーティアからの受け売りだけどね。
俺の場合は、まだ奴隷と言ってもじーちゃんから下賜されたリーティアしかいない――いいやいやいや、リーティアがいれば十分なんだよ。本当なんだよ――なので、今日のお昼はリーティアに食べさせてもらっていると言う訳さ。
――えへへへ。
「皇子様、それでは次は何が良ろしいですか?」
にっこりと微笑みながら、俺に問いかけて来るリーティア。本当に可愛いやつ!
「それじゃぁ、同じ果物をもう一回もらおうかな?」
「はい。かしこまりました」
俺の注文に、横のテーブルからイチゴの様な果物を一つ摘まむと、俺の口のほうへと運んでくれる。
「はい、あーん」
「あーん。ハムムっ!」
俺は、さっきとはちょっと違うタイミングで、リーティアの指ごと口に咥え込んでみる。
「あんっ、もう、皇子様っ。今度はわざと私の指を咥えましたねっ!」
リーティアは笑いながらも、ちょっとだけ怒った様な表情で俺を窘めてくる。
「いーや、いやいや、たまたまだよ。たまたまっ!」
「俺、こういう『食べ方』に慣れて無いからさぁ、ちょっと目測を誤っただけなんだよ。本当だよ?」
俺は、心にも無い事を言いつつ、ニマニマと鼻の下を伸ばしながら、口に入れてもらった果物をほおばる。
「もう、皇子様ったら、私の指は食べ物ではありませんよ?」
少しあきれた様に言いながらも、ちょっと嬉しそうなリーティア。
あーん、もう、かぁーわぁーいぃーいぃーー
この至福の時を享受する俺は、鼻の下はもちろん、目じりまでだらしなく垂れ下がり、体全体がとろけかかったチョコレートで出来ているかの様に、グダグダで収集のつかない状態になっていたのは言うまでも無い。
――そして、この俺の惨状を説明するには、今から小一時間ほど遡らねばなるまい。
あぁぁ、でも説明するの面倒くせぇなぁ。俺いま『至福』でめっちゃ忙しいんだけど! もう、俺が『至福』なんだから、それで良いんじゃね?
えっ? ダメ? もぉ仕方が無いなぁ。それじゃあ、もう一回思い返して見るかぁ。
もう一度これまでの経緯について思い返すって事は、それはそれで、顎の奥が、こう、『ジンジン』するぐらい甘酸っぱくて、両腕で自分の体全体を抱えながら、身もだえしてしまうぐらいの出来事の連続だったんだから……。
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