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第六章 奴隷妾専用館(ルーカス/ミランダルート)
70.庭園での諦観
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「……チクショウッ! ……どうすればっ、どうすれば良い?!」
少年は館に続く石畳の道を駆け上りながら、自問自答を繰り返す。
「同じ所に戻っちゃ……ダメだッ! ……今の俺じゃあ、どうしようも無いっ!」
今のルーカスには『彼女を助けたい!』との衝動に突き動かされながらも、自分の置かれている立場や力量を正確に把握するだけの冷静さが戻って来た様だ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
少年は館の手前にある大きな木に寄り添い、隠れる様にして息を整える。
このまま真っすぐ進めば、あの惨劇の現場にもう一度直面する事になるのだ。
「俺一人じゃダメだ……仲間を……いや……親方に頼んでみるか?」
孤児院に戻れば、何人かの仲間を連れ出して来る事も出来るだろう。しかし、仲間はまだ子供だ。やれる事なんて限られている。
もしかしたら、親方に頼めば何とかしてくれるかもしれない?……とも考えるルーカス。しかし、こんな事で親方に迷惑を掛けても良いものか……しかも相手はあのマロネイア家だ。流石の親方でも手出しはできないだろう。
「やっぱり一人でやるしか無いか……」
「うっ!……俺には、無理かっ……」
たった一言……。
たった一言弱音を吐いただけで、再び恐怖が少年をやさしく包み込もうとする。
少年はガタガタと震えだす自身の体を両腕で強引に抑え込みながら、その場で蹲ってしまいそうになる自分を鼓舞し続ける。
「いやっ……出来るっ。俺なら出来るはずだっ!」
「俺がやらないでどうする?……このまま逃げたら、一生彼女に逢えないかもしれないんだぞっ! ……くっ! ……くっ!」
少年はガクガクと震えたままの自分の足に、大きく二回、己が拳を強く叩きつけた。
「……まずは彼女を見つける事が先だっ。それからの事は、その後考えれば良いっ!」
ルーカスはそう呟くと、惨劇のあった館の裏口を大きく迂回する様にして、庭園の方へと走り出して行った。
◆◇◆◇◆◇
月明かりに照らされた庭園内は、不気味な程の静寂に包まれていた。
聞こえて来るのは、自分が踏みしめる石畳の砂と己の心臓の音だけ。
庭園内には家人達が散策できる様、綺麗な石畳による遊歩道が設けられており、その遊歩道の両端は、比較的背の低い植木によって区切られていた。
少年は、館の男達に見つからない様、遊歩道沿いの植木に隠れながら、庭園の中を足早に進んで行く。
このまま庭園内を大きく迂回する事が出入れば、館の反対側に出る事も可能だろう。
幸い、館の反対側には、まだランプの光が漏れ出している窓が、いくつか見て取れる。
まずはその窓を順番に探って行くしかない……と少年は考えたのだ。
そして、彼が庭園のほぼ中央に設えられた大きな噴水に差し掛かったその時。
右手の遊歩道から『ジャリジャリ』と、石畳の砂を踏みつける様な音に加えて、『ザクッ、ザクッ……』と何かを貫く様な音が聞こえて来たのだ。
慌てて少年は遊歩道脇にある植木の陰へと身を隠し、音のする方へそっと目を向けてみる。
すると、庭園奥の暗闇の中に、淡く光る『火の玉』が揺らめいて見えたのだ。
ゆっくりと近づいて来る『火の玉』……。
やがてそれは、ハッキリとした炎の光となり、ついには、人の持つ松明の光である事が判明した。
「ヤバいっ!……見回りの兵士だっ」
少年の心臓が早鐘の様に鳴り始める。
良く見れば、松明を持った兵士は一名だけで、残り二名の兵士達は、短槍を使って両脇の植え込みを順番に串刺しにしている様だ。
「……くっ! マズった!?」
少年は自分の行動の甘さを呪う。
そう、咄嗟に隠れた場所が悪かったのだ。
あくまでも館の方から見つからない様に身を隠したが為、このままでは、右手から来る兵士達に丸見えの状態となる。
かと言って、噴水前を通過しようにも、噴水の周りは大きく開けている事から、館か兵士、どちらかに発見される可能性が高い。
「チッ! 一旦戻るかっ」
少年が苦渋の決断の末に、今来た道を戻ろうとしたその時、その道の先からも、同じ松明の光がこちらの方へと近づいて来ているのを見つけてしまう。
「あぁっ……ダメだっ……戻れないっ!」
――こうなったら一か八か、噴水前を突っ切ってみるか?
いや、それも難しい。もう右手の兵士達が近づき過ぎてしまっている。松明の光は届かないまでも、月明かりだけでも十分に見つかる距離だ。
吟遊詩人が唄う物語の中の主人公であれば、こういう時には勇気ある決断を下し、兵士に向かって単身切り込むなり、その目の前を走り抜けるなり、主人公らしい行動を起こすのだろう。
しかし、普通の少年に、そんな勇気が湧いて来るはずも無い。
敢えて少年を誉めるとすれば、最後の気力を振り絞って、自分の体を植木の下へと潜り込ませた事であろうか。
しかし、その判断が本当に正しい事であったかどうかは分からない。
「……ザクッ、……ザクッ」
兵士達は植え込みを短槍で突き刺しながら徐々に近づいて来る。
「ふぅ、ふぅ……ぷはぁっ!」
近付く兵士達に悟られない様、何とか息だけでも整えようと試みるルーカス。
しかし、彼の心臓が今にも口から飛び出しそうなこの状態で、まともに呼吸が整うはずも無い。
何度も、何度も両手で口を押えてみても、荒い呼吸はそのままだ。
両方の遊歩道から近づいて来た兵士達は、既にお互いの事を視認。
松明を持った兵士が、大きく円を描く様にその炎を動かす事で、相互に問題が無かった事を知らせ合っている様だ。
「くっ……ダメかっ」
少年がついに観念し、自分から名乗りを上げようとしたその瞬間。
自分の元来た方の道からやって来た兵士の短槍が、少年の右太ももをかすって地面に突き刺さったのだ。
「……ググッ……ムムッ」
少年は自身の左腕を噛む事で、思わずその槍の痛みを耐えてしまった。
「……んんっ? ……何かいたかな?」
いつもと違う槍の感触を不思議に思った兵士。
一旦引き戻したその槍を、もう一度同じ場所へ突き刺そうと、大きく振りかぶる。
最初に、自ら声を上げてさえおけば、まだ命は助かったかもしれない。
無理にその痛みを堪えてしまったが為に、兵士から第二の槍を受けてしまうルーカス。
次こそは確実に、植木の下に横たわる少年のその体へと、兵士の槍が突き刺さる事だろう。
既に少年の戦意は消失し、自身から名乗り出ると言う、一欠片の勇気さえ消え去ってしまっていた。
少年は植木の影から、今度は自分の胸へと振り下ろされる槍の先端を一瞬だけ見つめたその後で、観念した様に固く両目を閉じてしまう……。
「フォォォォォォン……………………」
その時、突然森の奥から、何か底知れぬ恐怖を感じさせる獣の遠吠えが木霊した。
「フォォォォン………………」
「フォォン…………」
今にも植木へ短槍を突き刺そうとしていた兵士は、思わずその腕を止め、驚きの眼差しで仲間の方へと振り返る。
「おいっ、本当に『犬』を出しやがったんじゃぁねぇのか?!」
「……あぁ、ヤベぇなぁ。隊長は甲冑を着ているヤツは襲わねぇって言ってたけど、そんなもん、魔獣に通用すんのかよ、本当によぉ……」
噴水の右手から現れた兵士達も急いで駆け寄って来る。
「おいっ! 今の聞いたか? あれ、絶対『犬』だぜっ。マジでヤバいよっ。早く建物の中に入った方が良いぜ。このまま庭先や森の中で出くわしてみろ、一発で食い殺されるぞっ!」
「あぁ、そうだな。それに、もし不審者がいても『犬』が始末してくれるだろうしなぁ」
兵士達は相互に納得した様子で、屋敷の裏口の方へと急いで戻ろうとする。
「……あっあぁ……でもよぉ、今ちょっと何かに刺さった様な感じがしてよぉ」
先ほど少年に槍を突き刺した兵士が、もう一度話をぶり返して来た。
「ほら、ちょっと槍の先端に血が付いてるだろぅ」
その兵士は、槍の先端を松明の方へと近づけると、みんなに見せびらかす様に先端をクルクルと回して見せる。
「……」
「うーん、ネズミか何んかじゃねぇのか? そんな事より、早く行こうぜっ。『命あっての物種』だってんだよっ!」
結局納得の行かないその兵士も、恐怖に駆られた他の兵士達に連れ去られる様に、館の方へと駆け出して行くのだった。
少年は館に続く石畳の道を駆け上りながら、自問自答を繰り返す。
「同じ所に戻っちゃ……ダメだッ! ……今の俺じゃあ、どうしようも無いっ!」
今のルーカスには『彼女を助けたい!』との衝動に突き動かされながらも、自分の置かれている立場や力量を正確に把握するだけの冷静さが戻って来た様だ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
少年は館の手前にある大きな木に寄り添い、隠れる様にして息を整える。
このまま真っすぐ進めば、あの惨劇の現場にもう一度直面する事になるのだ。
「俺一人じゃダメだ……仲間を……いや……親方に頼んでみるか?」
孤児院に戻れば、何人かの仲間を連れ出して来る事も出来るだろう。しかし、仲間はまだ子供だ。やれる事なんて限られている。
もしかしたら、親方に頼めば何とかしてくれるかもしれない?……とも考えるルーカス。しかし、こんな事で親方に迷惑を掛けても良いものか……しかも相手はあのマロネイア家だ。流石の親方でも手出しはできないだろう。
「やっぱり一人でやるしか無いか……」
「うっ!……俺には、無理かっ……」
たった一言……。
たった一言弱音を吐いただけで、再び恐怖が少年をやさしく包み込もうとする。
少年はガタガタと震えだす自身の体を両腕で強引に抑え込みながら、その場で蹲ってしまいそうになる自分を鼓舞し続ける。
「いやっ……出来るっ。俺なら出来るはずだっ!」
「俺がやらないでどうする?……このまま逃げたら、一生彼女に逢えないかもしれないんだぞっ! ……くっ! ……くっ!」
少年はガクガクと震えたままの自分の足に、大きく二回、己が拳を強く叩きつけた。
「……まずは彼女を見つける事が先だっ。それからの事は、その後考えれば良いっ!」
ルーカスはそう呟くと、惨劇のあった館の裏口を大きく迂回する様にして、庭園の方へと走り出して行った。
◆◇◆◇◆◇
月明かりに照らされた庭園内は、不気味な程の静寂に包まれていた。
聞こえて来るのは、自分が踏みしめる石畳の砂と己の心臓の音だけ。
庭園内には家人達が散策できる様、綺麗な石畳による遊歩道が設けられており、その遊歩道の両端は、比較的背の低い植木によって区切られていた。
少年は、館の男達に見つからない様、遊歩道沿いの植木に隠れながら、庭園の中を足早に進んで行く。
このまま庭園内を大きく迂回する事が出入れば、館の反対側に出る事も可能だろう。
幸い、館の反対側には、まだランプの光が漏れ出している窓が、いくつか見て取れる。
まずはその窓を順番に探って行くしかない……と少年は考えたのだ。
そして、彼が庭園のほぼ中央に設えられた大きな噴水に差し掛かったその時。
右手の遊歩道から『ジャリジャリ』と、石畳の砂を踏みつける様な音に加えて、『ザクッ、ザクッ……』と何かを貫く様な音が聞こえて来たのだ。
慌てて少年は遊歩道脇にある植木の陰へと身を隠し、音のする方へそっと目を向けてみる。
すると、庭園奥の暗闇の中に、淡く光る『火の玉』が揺らめいて見えたのだ。
ゆっくりと近づいて来る『火の玉』……。
やがてそれは、ハッキリとした炎の光となり、ついには、人の持つ松明の光である事が判明した。
「ヤバいっ!……見回りの兵士だっ」
少年の心臓が早鐘の様に鳴り始める。
良く見れば、松明を持った兵士は一名だけで、残り二名の兵士達は、短槍を使って両脇の植え込みを順番に串刺しにしている様だ。
「……くっ! マズった!?」
少年は自分の行動の甘さを呪う。
そう、咄嗟に隠れた場所が悪かったのだ。
あくまでも館の方から見つからない様に身を隠したが為、このままでは、右手から来る兵士達に丸見えの状態となる。
かと言って、噴水前を通過しようにも、噴水の周りは大きく開けている事から、館か兵士、どちらかに発見される可能性が高い。
「チッ! 一旦戻るかっ」
少年が苦渋の決断の末に、今来た道を戻ろうとしたその時、その道の先からも、同じ松明の光がこちらの方へと近づいて来ているのを見つけてしまう。
「あぁっ……ダメだっ……戻れないっ!」
――こうなったら一か八か、噴水前を突っ切ってみるか?
いや、それも難しい。もう右手の兵士達が近づき過ぎてしまっている。松明の光は届かないまでも、月明かりだけでも十分に見つかる距離だ。
吟遊詩人が唄う物語の中の主人公であれば、こういう時には勇気ある決断を下し、兵士に向かって単身切り込むなり、その目の前を走り抜けるなり、主人公らしい行動を起こすのだろう。
しかし、普通の少年に、そんな勇気が湧いて来るはずも無い。
敢えて少年を誉めるとすれば、最後の気力を振り絞って、自分の体を植木の下へと潜り込ませた事であろうか。
しかし、その判断が本当に正しい事であったかどうかは分からない。
「……ザクッ、……ザクッ」
兵士達は植え込みを短槍で突き刺しながら徐々に近づいて来る。
「ふぅ、ふぅ……ぷはぁっ!」
近付く兵士達に悟られない様、何とか息だけでも整えようと試みるルーカス。
しかし、彼の心臓が今にも口から飛び出しそうなこの状態で、まともに呼吸が整うはずも無い。
何度も、何度も両手で口を押えてみても、荒い呼吸はそのままだ。
両方の遊歩道から近づいて来た兵士達は、既にお互いの事を視認。
松明を持った兵士が、大きく円を描く様にその炎を動かす事で、相互に問題が無かった事を知らせ合っている様だ。
「くっ……ダメかっ」
少年がついに観念し、自分から名乗りを上げようとしたその瞬間。
自分の元来た方の道からやって来た兵士の短槍が、少年の右太ももをかすって地面に突き刺さったのだ。
「……ググッ……ムムッ」
少年は自身の左腕を噛む事で、思わずその槍の痛みを耐えてしまった。
「……んんっ? ……何かいたかな?」
いつもと違う槍の感触を不思議に思った兵士。
一旦引き戻したその槍を、もう一度同じ場所へ突き刺そうと、大きく振りかぶる。
最初に、自ら声を上げてさえおけば、まだ命は助かったかもしれない。
無理にその痛みを堪えてしまったが為に、兵士から第二の槍を受けてしまうルーカス。
次こそは確実に、植木の下に横たわる少年のその体へと、兵士の槍が突き刺さる事だろう。
既に少年の戦意は消失し、自身から名乗り出ると言う、一欠片の勇気さえ消え去ってしまっていた。
少年は植木の影から、今度は自分の胸へと振り下ろされる槍の先端を一瞬だけ見つめたその後で、観念した様に固く両目を閉じてしまう……。
「フォォォォォォン……………………」
その時、突然森の奥から、何か底知れぬ恐怖を感じさせる獣の遠吠えが木霊した。
「フォォォォン………………」
「フォォン…………」
今にも植木へ短槍を突き刺そうとしていた兵士は、思わずその腕を止め、驚きの眼差しで仲間の方へと振り返る。
「おいっ、本当に『犬』を出しやがったんじゃぁねぇのか?!」
「……あぁ、ヤベぇなぁ。隊長は甲冑を着ているヤツは襲わねぇって言ってたけど、そんなもん、魔獣に通用すんのかよ、本当によぉ……」
噴水の右手から現れた兵士達も急いで駆け寄って来る。
「おいっ! 今の聞いたか? あれ、絶対『犬』だぜっ。マジでヤバいよっ。早く建物の中に入った方が良いぜ。このまま庭先や森の中で出くわしてみろ、一発で食い殺されるぞっ!」
「あぁ、そうだな。それに、もし不審者がいても『犬』が始末してくれるだろうしなぁ」
兵士達は相互に納得した様子で、屋敷の裏口の方へと急いで戻ろうとする。
「……あっあぁ……でもよぉ、今ちょっと何かに刺さった様な感じがしてよぉ」
先ほど少年に槍を突き刺した兵士が、もう一度話をぶり返して来た。
「ほら、ちょっと槍の先端に血が付いてるだろぅ」
その兵士は、槍の先端を松明の方へと近づけると、みんなに見せびらかす様に先端をクルクルと回して見せる。
「……」
「うーん、ネズミか何んかじゃねぇのか? そんな事より、早く行こうぜっ。『命あっての物種』だってんだよっ!」
結局納得の行かないその兵士も、恐怖に駆られた他の兵士達に連れ去られる様に、館の方へと駆け出して行くのだった。
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ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
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【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
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