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第八章 ファランクス(ルーカス/ミランダルート)
82.人間の戦い方(1)
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「……で、お前の名前は?」
魔獣からの攻撃を受けて立つべく、ファランクスの内側で身構える兵士達。
その中でも、通常は最も非力な兵士が陣取る列の左端。
その場所に蹲る二人の男は、片膝を立て、全面へと押し出した盾の影に隠れる様に、そっとその身を潜めていた。
そんな中、毛むくじゃらの男は、愛嬌のある黒目がちの瞳を、クリクリとさせながら、少年へと話し掛けて来たのだ。
「おっ俺は、トビーです。よろしくお願いします」
少年は緊張した面持で返事を返すのだが、テオドロスは、そんな事はお構い無しに、少年の背中をバンバンと叩いてご満悦だ。
「おぉ、よろしくなっ! ところでお前、何で槍を二本も持ってるんだ?」
テオドロスは少年の足元を覗き込む様にして、そこに横たわる短槍を指さす。
「これは……、俺の同期入隊の仲間が残して行った槍なんです」
そう尋ねられた少年は、悔しそうな表情で、足元の槍を撫でる。
「へぇぇ。でっ、そのバルテは何処行ったんだ?」
隣同士のこの距離だ。毛むくじゃらの男に、少年の表情が見えていないはずは無いだろう。それでも、その男は少年の表情など気にも留めず、彼の心の中へ土足でズカズカと踏み込んでくる。
「……まっ、魔獣に食われて……」
少年は、俯きながらも、何とかその言葉を絞り出す。しかし、その後の言葉が続かない。
「そうか、そいつは残念だったなぁ」
あまり興味も無さそうに、おざなりの返事を返すテオドロス。
自分から少年に聞くだけ聞いておきながら、全く仲間の死には興味が無いらしい。
「はっはっは。まぁ、くよくよしてたって始まらねぇ。俺達だって、いつ魔獣の腹の中に納まるか、分かったもんじゃねぇからなぁ」
それだけで無く、呆気らかんと笑い飛ばす始末だ。
「んんっ? そんな事より、槍の先に血が付いてるが、そいつ、ひと槍でも魔獣に食らわせてやったのか?」
テオドロスは、槍の先端に赤黒く付着している血を、目ざとく見つけた。
「そんな事って……いっ、いや、それは多分、哨戒中に何か他の動物を刺した血だと思うけど……」
少年は、仲間の死よりも、槍の方へと興味を示すテオドロスに、少し不快な表情を向けてみるが、テオドロスはそんな事を全く気にしない。
「ふーん、そうかい。……で、どうだい、その槍、俺に預けてみねぇか?」
しかも、少年の説明を遮る形で、話を被せて来る。
「……えっ?」
あまりの突飛な提案に、自身の抱いていた不快感を一瞬忘れ、思わずもう一度聞き返してしまう少年。
「いや、何、魔獣に一矢も報いてねぇってんじゃあ、仲間も浮かばれねえだろうからよぉ」
テオドロスは、少年の足元へ手を伸ばすと、仲間の形見となってしまった槍を勝手に拾い上げる。
「俺がこの槍で、魔獣に一泡吹かせてやるよっ」
月明かりに照らし出される短槍は、何かの動物の血により、赤黒く染まってはいるものの、持ち主の手入れが良かったのであろう、鋭い矛先は健在のままだ。
「……」
親友の槍を無理やり横取られ、納得の行かないトビー少年。
「どうだい? 悪い話じゃねぇだろう?」
テオドロスは、少年の方へは見向きもせず、諸刃の矛先を月明かりに翳しながら、槍の曲がり具合等を確かめている様だ。
「……」
それでも少年は無言だ。
「おめぇが持ってたからって、何かの役に立つとも思えねぇしなぁ」
「まぁ、その前に、俺達全員、魔獣の腹の中で、そのバルテとやらと、ご対面するかもしんねぇけどな。だぁはっはっはっはっ」
テオドロスの変に高いテンションに、一瞬神経を逆なでされつつも、この男の暴言の中にも真実があると、思い直すトビー。確かに自分がこの槍を持っていたとしても、感傷に浸る事はあれど、仲間の仇を打つ事など、絶対に出来はしないだろう。
「……」
「……そっそれじゃあ、……お願いしても、良いですか? これで、仲間の仇を討って頂けないでしょうか」
真剣な表情で、テオドロスの黒々とした眼を見据える少年。彼の表情からも、その真剣な気持ちが伝わって来る。
「……へへっ。任せとけよっ。悪い様にはしねぇからよぉ」
そんな少年の真っすぐな気持ちを感じ取ったのか、少し気恥しい気持ちに襲われるテオドロス。早速預かった槍を、左手の方へと持ち替えると、照れ隠しの為か、自分の伸び放題の髭をゆっくりと撫で始めた。
「おっと、やべぇ。隊長が睨んでやがるぜぇ。そろそろ魔獣も腹くくった頃だろうしなぁ」
テオドロスは、後方で仁王立ちしているサロスを一瞥すると、盾の向こう、数十メートル先に控える魔獣の方へと視線を移す。
その隣、テオドロスの横で片膝を立て、蹲る少年《トビー》は、死んだ仲間へと心の中で話し掛けた。
『バルテ……。さっきは守ってやれなくて、本当にごめんなっ。俺、今、自分の都合の良い事しか言えねぇんだけど。……頼むっ。俺に力を貸してくれっ!』
少年《トビー》は、魔獣の方へと視線を戻すと、自身の持つ短槍をもう一度力強く握りしめるのであった。
魔獣からの攻撃を受けて立つべく、ファランクスの内側で身構える兵士達。
その中でも、通常は最も非力な兵士が陣取る列の左端。
その場所に蹲る二人の男は、片膝を立て、全面へと押し出した盾の影に隠れる様に、そっとその身を潜めていた。
そんな中、毛むくじゃらの男は、愛嬌のある黒目がちの瞳を、クリクリとさせながら、少年へと話し掛けて来たのだ。
「おっ俺は、トビーです。よろしくお願いします」
少年は緊張した面持で返事を返すのだが、テオドロスは、そんな事はお構い無しに、少年の背中をバンバンと叩いてご満悦だ。
「おぉ、よろしくなっ! ところでお前、何で槍を二本も持ってるんだ?」
テオドロスは少年の足元を覗き込む様にして、そこに横たわる短槍を指さす。
「これは……、俺の同期入隊の仲間が残して行った槍なんです」
そう尋ねられた少年は、悔しそうな表情で、足元の槍を撫でる。
「へぇぇ。でっ、そのバルテは何処行ったんだ?」
隣同士のこの距離だ。毛むくじゃらの男に、少年の表情が見えていないはずは無いだろう。それでも、その男は少年の表情など気にも留めず、彼の心の中へ土足でズカズカと踏み込んでくる。
「……まっ、魔獣に食われて……」
少年は、俯きながらも、何とかその言葉を絞り出す。しかし、その後の言葉が続かない。
「そうか、そいつは残念だったなぁ」
あまり興味も無さそうに、おざなりの返事を返すテオドロス。
自分から少年に聞くだけ聞いておきながら、全く仲間の死には興味が無いらしい。
「はっはっは。まぁ、くよくよしてたって始まらねぇ。俺達だって、いつ魔獣の腹の中に納まるか、分かったもんじゃねぇからなぁ」
それだけで無く、呆気らかんと笑い飛ばす始末だ。
「んんっ? そんな事より、槍の先に血が付いてるが、そいつ、ひと槍でも魔獣に食らわせてやったのか?」
テオドロスは、槍の先端に赤黒く付着している血を、目ざとく見つけた。
「そんな事って……いっ、いや、それは多分、哨戒中に何か他の動物を刺した血だと思うけど……」
少年は、仲間の死よりも、槍の方へと興味を示すテオドロスに、少し不快な表情を向けてみるが、テオドロスはそんな事を全く気にしない。
「ふーん、そうかい。……で、どうだい、その槍、俺に預けてみねぇか?」
しかも、少年の説明を遮る形で、話を被せて来る。
「……えっ?」
あまりの突飛な提案に、自身の抱いていた不快感を一瞬忘れ、思わずもう一度聞き返してしまう少年。
「いや、何、魔獣に一矢も報いてねぇってんじゃあ、仲間も浮かばれねえだろうからよぉ」
テオドロスは、少年の足元へ手を伸ばすと、仲間の形見となってしまった槍を勝手に拾い上げる。
「俺がこの槍で、魔獣に一泡吹かせてやるよっ」
月明かりに照らし出される短槍は、何かの動物の血により、赤黒く染まってはいるものの、持ち主の手入れが良かったのであろう、鋭い矛先は健在のままだ。
「……」
親友の槍を無理やり横取られ、納得の行かないトビー少年。
「どうだい? 悪い話じゃねぇだろう?」
テオドロスは、少年の方へは見向きもせず、諸刃の矛先を月明かりに翳しながら、槍の曲がり具合等を確かめている様だ。
「……」
それでも少年は無言だ。
「おめぇが持ってたからって、何かの役に立つとも思えねぇしなぁ」
「まぁ、その前に、俺達全員、魔獣の腹の中で、そのバルテとやらと、ご対面するかもしんねぇけどな。だぁはっはっはっはっ」
テオドロスの変に高いテンションに、一瞬神経を逆なでされつつも、この男の暴言の中にも真実があると、思い直すトビー。確かに自分がこの槍を持っていたとしても、感傷に浸る事はあれど、仲間の仇を打つ事など、絶対に出来はしないだろう。
「……」
「……そっそれじゃあ、……お願いしても、良いですか? これで、仲間の仇を討って頂けないでしょうか」
真剣な表情で、テオドロスの黒々とした眼を見据える少年。彼の表情からも、その真剣な気持ちが伝わって来る。
「……へへっ。任せとけよっ。悪い様にはしねぇからよぉ」
そんな少年の真っすぐな気持ちを感じ取ったのか、少し気恥しい気持ちに襲われるテオドロス。早速預かった槍を、左手の方へと持ち替えると、照れ隠しの為か、自分の伸び放題の髭をゆっくりと撫で始めた。
「おっと、やべぇ。隊長が睨んでやがるぜぇ。そろそろ魔獣も腹くくった頃だろうしなぁ」
テオドロスは、後方で仁王立ちしているサロスを一瞥すると、盾の向こう、数十メートル先に控える魔獣の方へと視線を移す。
その隣、テオドロスの横で片膝を立て、蹲る少年《トビー》は、死んだ仲間へと心の中で話し掛けた。
『バルテ……。さっきは守ってやれなくて、本当にごめんなっ。俺、今、自分の都合の良い事しか言えねぇんだけど。……頼むっ。俺に力を貸してくれっ!』
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【AIの使用について】
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主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
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