プロピュライア祖父が創造主の異世界でとりあえず短期留学希望

神谷将人

文字の大きさ
82 / 250
第八章 ファランクス(ルーカス/ミランダルート)

82.人間の戦い方(1)

しおりを挟む
「……で、お前の名前は?」


 魔獣からの攻撃を受けて立つべく、ファランクスの内側で身構える兵士達。

 その中でも、通常は最も非力な兵士が陣取る列の左端。

 その場所に蹲る二人の男は、片膝を立て、全面へと押し出した盾の影に隠れる様に、そっとその身を潜めていた。


 そんな中、毛むくじゃらの男テオドロスは、愛嬌のある黒目がちの瞳を、クリクリとさせながら、少年トビーへと話し掛けて来たのだ。


「おっ俺は、トビーです。よろしくお願いします」


 少年トビーは緊張した面持で返事を返すのだが、テオドロスは、そんな事はお構い無しに、少年の背中をバンバンと叩いてご満悦だ。


「おぉ、よろしくなっ! ところでお前、何で槍を二本も持ってるんだ?」


 テオドロスは少年トビーの足元を覗き込む様にして、そこに横たわる短槍を指さす。


「これは……、俺の同期入隊の仲間バルテが残して行った槍なんです」


 そう尋ねられた少年トビーは、悔しそうな表情で、足元の槍を撫でる。


「へぇぇ。でっ、そのバルテは何処行ったんだ?」


 隣同士のこの距離だ。毛むくじゃらの男テオドロスに、少年トビーの表情が見えていないはずは無いだろう。それでも、その男は少年の表情など気にも留めず、彼の心の中へ土足でズカズカと踏み込んでくる。


「……まっ、魔獣に食われて……」


 少年トビーは、俯きながらも、何とかその言葉を絞り出す。しかし、その後の言葉が続かない。


「そうか、そいつは残念だったなぁ」


 あまり興味も無さそうに、おざなりの返事を返すテオドロス。

 自分から少年に聞くだけ聞いておきながら、全く仲間の死その内容には興味が無いらしい。


「はっはっは。まぁ、くよくよしてたって始まらねぇ。俺達だって、いつ魔獣の腹の中に納まるか、分かったもんじゃねぇからなぁ」


 それだけで無く、呆気らかんと笑い飛ばす始末だ。


「んんっ? より、槍の先に血が付いてるが、そいつ、ひと槍でも魔獣に食らわせてやったのか?」


 テオドロスは、槍の先端に赤黒く付着している血を、目ざとく見つけた。


って……いっ、いや、それは多分、哨戒中に何か他の動物を刺した血だと思うけど……」


 少年は、仲間の死よりも、槍の方へと興味を示すテオドロスに、少し不快な表情を向けてみるが、テオドロスはそんな事を全く気にしない。


「ふーん、そうかい。……で、どうだい、その槍、俺に預けてみねぇか?」


 しかも、少年の説明を遮る形で、話を被せて来る。


「……えっ?」


 あまりの突飛な提案に、自身の抱いていた不快感を一瞬忘れ、思わずもう一度聞き返してしまう少年トビー


「いや、何、魔獣に一矢も報いてねぇってんじゃあ、仲間そいつも浮かばれねえだろうからよぉ」


 テオドロスは、少年トビーの足元へ手を伸ばすと、仲間の形見となってしまった槍を勝手に拾い上げる。


「俺がこの槍で、魔獣に一泡吹かせてやるよっ」


 月明かりに照らし出される短槍は、の血により、赤黒く染まってはいるものの、持ち主の手入れが良かったのであろう、鋭い矛先は健在のままだ。


「……」


 親友の槍を無理やり横取られ、納得の行かないトビー少年。


「どうだい? 悪い話じゃねぇだろう?」


 テオドロスは、少年の方へは見向きもせず、諸刃の矛先を月明かりに翳しながら、槍の曲がり具合等を確かめている様だ。


「……」


 それでも少年は無言だ。


「おめぇが持ってたからって、何かの役に立つとも思えねぇしなぁ」

「まぁ、その前に、俺達全員、魔獣の腹の中で、そのバルテとやらと、ご対面するかもしんねぇけどな。だぁはっはっはっはっ」


 テオドロスの変に高いテンションに、一瞬神経を逆なでされつつも、この男の暴言の中にも真実があると、思い直すトビー。確かに自分がこの槍を持っていたとしても、感傷に浸る事はあれど、仲間バルテの仇を打つ事など、絶対に出来はしないだろう。


「……」

「……そっそれじゃあ、……お願いしても、良いですか? これで、仲間バルテの仇を討って頂けないでしょうか」


 真剣な表情で、テオドロスの黒々とした眼を見据える少年。彼の表情からも、その真剣な気持ちが伝わって来る。


「……へへっ。任せとけよっ。悪い様にはしねぇからよぉ」


 そんな少年トビーの真っすぐな気持ちを感じ取ったのか、少し気恥しい気持ちに襲われるテオドロス。早速預かった槍を、左手の方へと持ち替えると、照れ隠しの為か、自分の伸び放題の髭をゆっくりと撫で始めた。


「おっと、やべぇ。隊長サロスが睨んでやがるぜぇ。そろそろ魔獣ヤツも腹くくった頃だろうしなぁ」


 テオドロスは、後方で仁王立ちしているサロスを一瞥すると、盾の向こう、数十メートル先に控える魔獣の方へと視線を移す。

 その隣、テオドロスの横で片膝を立て、蹲る少年《トビー》は、死んだ仲間へと心の中で話し掛けた。


『バルテ……。さっきは守ってやれなくて、本当にごめんなっ。俺、今、自分の都合の良い事しか言えねぇんだけど。……頼むっ。俺に力を貸してくれっ!』


 少年《トビー》は、魔獣の方へと視線を戻すと、自身の持つ短槍をもう一度力強く握りしめるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

処理中です...