プロピュライア祖父が創造主の異世界でとりあえず短期留学希望

神谷将人

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第十三章 神殿のテルマリウム・2(皇子ルート)

131.脳内標準彼女による考察

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「それじゃあ、入るね」


 って言って、準備万端な俺の脳内彼女リーティアが浴室へと入って来る。


 ……いや……ちょっと違うなぁ……。


 もしリーティアだったら「お待たせしました。皇子様」かな? それとも「皇子様、どうぞお召し上がり下さい」って言うのも捨てがたい。うーん、これは迷うなぁ。

 大体この世界の標準がどの程度なのかも分からないし、リーティアの浴室への入り方一つとっても不確定要素が多すぎて、今後の俺の対処方法に大きな齟齬が発生する可能性が非常に高い。


 妄想の大海原を、全日本男子200m自由形の標準記録に達する猛スピードで泳ぎ続ける俺は、現実世界の方ではその選択肢の多さと、シミュレーションしなければいけない行動パターンの多さに愕然としつつ、その額には脂汗がじっとりと浮かび上がっていた。


 仕方が無い。この際一旦リーティアの不確定要素は完全除外して、まずは俺の脳内標準彼女を使って行動パターンをある程度絞り込んでみるしか無いだろう。しかも、そうする事で全国2,000万人の童貞諸君の今後の行動指針の一つにもなるし、なんだったらこの行動原則を「童貞による初めての女性との入浴方法と、泡風呂活用における行動原則の考察」って論文にまとめて、米科学雑誌に投稿する事も可能だろう。

 仕方が無い。全童貞諸君の知識向上のために、俺の全脳内CPUをフル稼働させる時が来た様だな。


 ……ふぅ、骨の折れる仕事に携わっちまったもんだよ。


 さて、思い出して欲しい、彼女が髪をアップにし、体にはバスタオルを巻いた状態で浴室入って来る所から、分析をやり直そう。

 この時、彼女の取る行動パターンは、実は大きく二つ用意されている。

 ただし、二つの行動パターンの内、一つは、更に派生案が用意されている事から、今後はそれぞれの案を、A案、B案、B’案(B案の派生)の3種類として、検討を進めて行きたい。


 あぁ、そこの君、板書を携帯で写すのは止めてくれたまえ。

 どうしても必要な場合は、大学の購買で私の解説が入った書籍が売られているから、それを購入するか、もしくは自力で板書を写し取ってくれよ。それから今月中に購入した人には、早期購入特典として、その本の裏表紙に私直筆のサインもするから。後で私の部屋まで本を持って来る様に。


 さて、まずはA案から考えてみよう。

 A案は、髪をアップにした彼女が、体にはバスタオルを巻いたままで浴室に入って来る、最も標準的なパターンだ。そして、この時のお楽しみポイントは、もう既に始まっているんだよ。

 通常、浴室に入るための扉は、すりガラス状になっている場合が多い。残念ながら自宅のユニットバスの様な所や、やっすいモーテル等ではこの楽しみは味わえないので、できれば多少奮発して、脱衣所とユニットバスの間にすりガラスの入った部屋を予約する様にしたいものだね。

 もちろん、ある程度のホテルになれば、電話でその部分も確認できるし、その旨、ホテルマンの方に伝えておけば、場合によってはスィートルーム等の方へ無償アップグレードしてくれる場合もあるから、童貞諸君は面倒がらずにホテルマンへ自分の要望を的確に伝える様に。


 えっ? そんな事恥ずかしくって、とても言えないって?

 あぁ、本当にこれだから、意識の低い、成り立て自称童貞は御し難い。

 思い返してみて欲しい。君が生まれてからこのかた、片時も離れる事の無かった「童貞」と言う黄金に輝く肩書から、ようやく卒業する今日のこの良き日を、場末のモーテルのユニットバスで迎えるなんて、愚の骨頂だとは思わないかい! そう、自分の行動全てに美しいストーリーを用意する事。それこそが真の童貞へと昇り詰める為の必要十分条件であると言えるんだよ!

 と言う事で、脱衣場のすりガラスに映る、髪をアップにしてバスタオル一枚だけを纏った彼女。その姿を泡風呂に浸かった状態で、かなりのローアングルからじっくりと眺める所から、今日のディナーは始まって行く訳さ。

 そして、ようやくここで彼女が浴室に入ってくる。

 もちろん、彼女の方も気を付けて欲しい。いきなりドアを開けてしまっては、興ざめだ。まずは自分の顔がのぞく程度にドアを開け、そこからちょっぴりだけ覗く様に浴槽の中を覗き込んで欲しいものだね。

 そこには、キミの美しさに茫然モードになった童貞君が、泡ぶろの中に埋もれつつも、アホの子の様に半分口を開いた状態でキミを見つめているはずさ。 もうこの際、多少のアホ顔は許してやって欲しい。何しろ、彼の目には、生まれて初めて見るリアル女神が映っているのだから。

 そこでやおら彼女の方はドアを自分が通れる程度のスキマを開けてから、浴室内に入って来る事になる訳だけども、ここでも彼女の方にはちょっと気を付けて欲しい事がある。先ほど説明した通り、実は入り口のドアはすりガラスになっていて、キミの体は、彼からすっかり見えている。そこで、キミはきっちり彼に対してブービートラップを仕掛けておく事をおススメするよ。


 いやなに、簡単なジェスチャー一つで済む話さ。これをやるかどうかで、彼の硬度が20%は違って来ると言う非公開情報もあるぐらいだから、実施しておいても損は無いだろう。

 それは、彼女が、彼からは見えていない(はずの)片足を、トントンと数回、靴を履くときの様なジェスチャーをするだけでOKなんだよ。

 この時の彼には、目の前の女神様が、しっぽを振って喜んでいるワンコの様に愛おしく見えているはずさ。

 つまり、彼としては、本当は見えていないと思って思わずやってしまった彼女の可愛い仕草を、思わぬ所で覗き見る事になったと言う優越感と、トントンと揺れる足が、前述の様に従順なワンコがしっぽを振って喜んでいる様に見えると言うお得感が加味されると言う寸法さ。

 ただし、一点だけ気を付けて欲しい。彼女の方も、お風呂に入っている彼の様子が見える事だろう。彼が逆上のぼせる一歩手前の様に見受けられたら、このブービートラップは止めておいた方が無難だね。

 思わずこのトラップを踏んだ彼が血圧上昇に耐え切れず、鼻血と言う流血騒ぎに発展しては興ざめも良い所だろう。彼女には難しい判断を要求する事になるけど、このトラップの使用については十分注意が必要だと言う事さ。

 そして、ようやく浴室の中に彼女が入って行く訳だけれども、片足から順番に入って行く事で、彼の期待感をイヤが上にも高めるオプションコースや、浴室に入った後で、わざと浴槽の横に立って彼を見下ろすオプションコース。更には浴槽のヘリに座って、彼の頭を一度撫でるオプションコースなど、カスタマイズ可能な浴室入室オプショナルツアーコースが各種用意されている訳さ。しかし、これは上級者向けなので決して童貞には使わない様に。

 場合によっては、そのまま浴槽で気絶してしまうパターンや、逆に余りの高度なテクニックに気後れして、最初から戦意を喪失してしまうと言う逆効果を引き起こす可能性さえ残されている。多少こざかしい事を実施するのであれば、前述のブーピートラップぐらいに抑えておく事をおススメしたい。


 さぁ、ここからがA案の最大のポイントだ。

 何と! A案では、バスタオルを身に付けたまま、彼の向かい側の浴槽にゆっくりと入って行く事になるのさっ!


 ……あぁ、はいはい。うるさい、うるさい。はい! 一回静かにしてー!


 ――パンパンパン


 しーずーかーにーっ!


 はいはい。賛否両論ある事はわかっているよ。それじゃあ順番に話を聞いて行くから、はい順番、順番。


 はい。最初はキミね。

 えっ? 何々、バスタオルをお湯に付けちゃダメなんじゃ無いか? ですって?


 ……

 はい。くだらない質問なので、次の人……。

 あぁ……。 煩いうるさい。わかった、分かりました。説明しますぅ。


 だいたい、ここは公共の浴場では無い訳ですよ。彼女と童貞の二人だけのプライベート浴槽な訳。って事は、別にバスタオル付けたままでお風呂に入っても問題無いでしょ? しかも、深夜帯のお色気温泉番組を見てみなさいよ。全員バスタオルを巻いた状態でお風呂に入ってるって。大丈夫。何の問題もありません。

 ただ、愚問の中にも真実が一つだけあるとすれば、それは、二人が入る様な浴槽で、ガチでバスタオルを入れてしまうと、お湯のかなりの部分をバスタオルが吸っちゃって、後でバスタオルの処理が大変になると言う問題が、あるにはあります。


 TVであれば、後からスタッフが何とかしてくれるけど、二人っきりのお泊りのシーンでは、このバスタオルの後片付けは、結構シュールになる事請け合いだ。

 と言う事で、お風呂に完全に入ってしまうまでバスタオルを巻いている……と言うよりは、自分の体がある程度泡に隠れて見えなくなって来た所で、バスタオルはゆっくりと外し始めて、最終的には彼の目の前で簡単に畳むフリをしながら、彼の目を眩ませつつ、湯の中に入ってしまうのがベストと言えるだろうな。

 他に質問は? ……はい、そこの君。どうかな?

 あぁ、はいはい。そうだね。彼女はまだ体を流していないよね。はい! 良く気が付きました。

 正解を導き出した、この青年に拍手。


 ――パチパチパチパチ。


 つまり、彼女は浴槽に入るまでに、まだ体を一度も流していない! と言う事だね。

 まぁ、これも先ほどの質問と被るのだけども、基本的にはここはプライベートな浴室なので、体を洗ってから入ろうが、流さずに入ろうが、全くマナー的な問題は無いと言う事が大前提です。

 その上で、敢えて申し上げるとするならば、折角の女神のダシが取れる機会を、ミスミス棒に振っても良いのですか? 本当に良いのですか? と言う事がその本質をとらえていると思う訳ですよ。

 つまりぃ、まだ体を洗わない状態でこそ、彼女の全てのエキスを湯の中に放出し、かつ吸収する事が可能となる訳です。先に洗ってしまうなんて、本当にもったいない。一流の料理店でも、昆布は表面の汚れを取る程度で、実際にはそのまま鍋の中へ投入するのが当たり前なんですよ。そう、それこそが最高のダシを取る事につながるんです。

 しかも、もう一つ言わなければいけない事がありますよね。

 そうです。その通りです。 君の女神彼女様には汚れている部分なんて、ひとかけらもあろうはずが無いのです。何しろ、完璧な「美」なのですから。そんな美の結晶がそのまま湯の中に入って一体何が悪いんですかっ?!

 俺による脳内童貞諸君に対する熱い講義は更に続いた。
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