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幕間 師匠との再会
193.師匠の教え
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――チチッ、チチチッ
いつもは清々しく感じるはずの小鳥のさえずり。
「あ痛たたた……」
しかし、今日ばかりは尋常とは思えぬほど頭に響く。
「くうぅぅっ……」
『こめかみ』を押えながら、苦悶の表情を浮かべるヴァシリオス。
頭痛の原因を必死で思い出そうとするのだが、大体、どうやって眠ったのかすら思い出せない。
そんな時、続き間となっている台所の方に人の気配が。
「おい、ストラトス。そこに居るのであろう? 外の鳥たちが煩いのじゃっ。お前、ちょっと行って、追い払ってくれっ!」
完全に八つ当たりである。
しかし、彼のその指示に対して、予想外の返答が返って来た。
「おはようございます、お師匠様。お目覚めでございましょうや」
彼の知らない、凛々しくも優しげな声。
いや、知らない訳では無い。
それは、遥か遠い昔の記憶。
言葉遣いは大人びたが、人懐っこいその声音は、昔も今も変わってはいない。
窓から差し込む朝日がまぶしい。
彼は未だふらつきながらもベッドを這い出すと、ダイニングの方へ。
「アル……か……。そんな所で何をしておる?」
少しずつ思い出されるのは、断片的な記憶。
「はい。朝餉の用意をしておりました。只今お持ち致します故、お席の方で少々お待ち下され」
確かに、かまどの方からは、何やら良い香りがただよってくる。
「……おぉ、すまんのぉ。昨日は確か……アルの持ってきてくれた酒を、しこたま飲んだ所までは覚えておるのじゃが……」
「昨晩は、かなりお過ごし遊ばれましたなぁ。ふふふっ」
にこやかな笑顔と共に、色とりどりの野菜が煮込まれたスープが彼の前へと供されて来る。
全く食欲が無く、内心『とても食べられぬ……』と、思っていた彼ではあったが、そのスープから立ち上る芳醇な香りに誘われ、思わず一口。
「ほはあぁぁぁ……五臓六腑に染みわたるとはこの事よぉ」
その味は痛飲により傷んだ胃を、優しく包み込んでくれるかの様だ。
「旨いっ! アル、腕を上げたなぁ」
「お褒めに預り、光栄にございます」
元々小さい頃から料理の得意な娘ではあった。しかしそれは、あくまでも子供としては……と言う話。
しかし、たった今、口にしたこの料理は、年輪を重ねたヴァシリオスさえも唸らせる、そんな深みを持った味わいとなっていたのである。
更に一口、また一口と、スプーンを持つ手が止まらない。
やがて、じっくりと煮込まれた根菜を頬張りながら、ふと辺りを見渡すヴァシリオス。
「そう言えば……ストラトスの姿が見えぬ様じゃが?」
体つきも大きく、少しやんちゃな印象のあるストラトス。
しかし、性格は至って真面目で、これまで一度も寝坊などした事がない。
そんな少年の姿が見えないのである。
彼がふと不思議に思っても、おかしくはない話だ。
と、そこで彼はある事を思い出した。
『うぅぅむ。そう言えば、昨晩ストラトスをアルの所へ夜這いに行かせた様な……』
すると案の定……。
「昨晩はかなり激しく致した故、まだ起き上がれぬやも、知れませぬなぁ……」
――ブーッ!
余りの事に、口に含んだスープを一気に噴き出すヴァシリオス。
それらは正面に座る彼女の顔面へ。
「お師匠様っ! どうしたのでございますかっ!」
「いっ、いやいや、スマン! お前があんまりな事を言うものだからつい……」
「もーっ! こちらの方があんまりにございますぅ」
彼女は懐から手ぬぐいを取り出すと、自分の顔や胸元に飛び散ったスープを拭い始める。
いやいや、そんな事より、昨夜の『激しく致した』事情である。
「アルや。昨夜は……そのぉ。弟弟子が無理を言ったのではあるまいな?」
自分が弟弟子を差し向けたくせに、この期に及んで急に心配になったのであろう。
「はぁ。私も初めての事で、多少面食らいましたが、可愛い弟弟子の頼み故、受け入れた次第にございます」
少し恥ずかしくも、嬉しそうにそう話す彼女
まぁ、当人同士が嫌がっていないのであれば、それはそれで若い者同士。問題は無いのかもしれない。
「そうかぁ……受け入れたかぁ……」
そう思い直したヴァシリオス。それにしても何だか釈然としない思いを抱えつつ、残りのスープをもう一度口に運び始める。
「私も、幼少の頃は、何度もお師匠様に激しくお相手頂きました故、そのお返しでございますよっ」
――ブーッ!
やっぱり、余りの話に、口に含んだスープをもう一度噴き出すヴァシリオス。
当然、それらは正面に座る彼女の顔面へ。
「お師匠様っ! もーっ! 何なのでございますかあっ! いい加減、怒りますよっ!」
「いやいやいや、人聞きが悪いっ。人聞きが悪いぞ、アルテミシア。ワシがいつその様な事をしたと言うのか? ままま、ましてや激しくなどと……」
年甲斐も無く慌てふためくヴァシリオス。
「何を慌てておられます。確かにあの頃は私も幼く、体格的にもお師匠様より一本頂く事は至難の業で……」
「こここ、これこれ、アルテミシア! 妙齢の婦女子が一本頂くなど破廉恥な事を申してはっ……って、あれ?」
彼女の言葉を遮ってまで話し始めたものの、何やら違和感が。
しかも、彼女の方は、何の事やら? と呆気にとられている様子。
「お師匠様。何を申しておられます? 私が教えを乞うていた頃は、『隙あらばいつでも打ちかかって来い。寝込みを襲ってもかまわんぞっ!』と申されておられましたでは御座いませんかぁ。それ以来、夜なよな、何度も打ちかかりましたが、結局一本も取る事叶わず」
「そう思いますと、私も弟弟子より寝込みを襲われる立場になった……と言うのは非常に感慨深いものがございました」
「そのおかげもありまして、少々過剰な対応になりました事は否めませぬなぁ……うふふふっ」
昨夜の攻防について思い出しているのであろうか。思わず笑みがこぼれる彼女
そして、そんな二人の会話に遅れて加わる者が。
「お師匠様、姉弟子様、おはようございます。遅れまして、大変申し訳ございません。
「あっちゃ~……」
思わず頭を抱えるヴァシリオス。
戸口の脇にかろうじて立つその少年。
端正な顔立ちは原型を留めぬ程に腫れ上がり、見える限りの腕や足は痣だらけ。
日頃練習に使用している短槍を模した棍棒に、なんとか縋って立っているにすぎない。
「……アルよ。そう言えば、ワシはお前に、手加減と言うものを教えた事が無かったなぁ」
今さらながらに遠い過去を思い起こすヴァシリオス。
「はい。そう言えば、『手加減』など、習った事は御座いませぬなぁ」
さも当然とばかりに、飄々と答えるアルテミシア。
結局アルテミシアの知識も、基本的な部分はヴァシリオスの教えがその全てなのであった。
いつもは清々しく感じるはずの小鳥のさえずり。
「あ痛たたた……」
しかし、今日ばかりは尋常とは思えぬほど頭に響く。
「くうぅぅっ……」
『こめかみ』を押えながら、苦悶の表情を浮かべるヴァシリオス。
頭痛の原因を必死で思い出そうとするのだが、大体、どうやって眠ったのかすら思い出せない。
そんな時、続き間となっている台所の方に人の気配が。
「おい、ストラトス。そこに居るのであろう? 外の鳥たちが煩いのじゃっ。お前、ちょっと行って、追い払ってくれっ!」
完全に八つ当たりである。
しかし、彼のその指示に対して、予想外の返答が返って来た。
「おはようございます、お師匠様。お目覚めでございましょうや」
彼の知らない、凛々しくも優しげな声。
いや、知らない訳では無い。
それは、遥か遠い昔の記憶。
言葉遣いは大人びたが、人懐っこいその声音は、昔も今も変わってはいない。
窓から差し込む朝日がまぶしい。
彼は未だふらつきながらもベッドを這い出すと、ダイニングの方へ。
「アル……か……。そんな所で何をしておる?」
少しずつ思い出されるのは、断片的な記憶。
「はい。朝餉の用意をしておりました。只今お持ち致します故、お席の方で少々お待ち下され」
確かに、かまどの方からは、何やら良い香りがただよってくる。
「……おぉ、すまんのぉ。昨日は確か……アルの持ってきてくれた酒を、しこたま飲んだ所までは覚えておるのじゃが……」
「昨晩は、かなりお過ごし遊ばれましたなぁ。ふふふっ」
にこやかな笑顔と共に、色とりどりの野菜が煮込まれたスープが彼の前へと供されて来る。
全く食欲が無く、内心『とても食べられぬ……』と、思っていた彼ではあったが、そのスープから立ち上る芳醇な香りに誘われ、思わず一口。
「ほはあぁぁぁ……五臓六腑に染みわたるとはこの事よぉ」
その味は痛飲により傷んだ胃を、優しく包み込んでくれるかの様だ。
「旨いっ! アル、腕を上げたなぁ」
「お褒めに預り、光栄にございます」
元々小さい頃から料理の得意な娘ではあった。しかしそれは、あくまでも子供としては……と言う話。
しかし、たった今、口にしたこの料理は、年輪を重ねたヴァシリオスさえも唸らせる、そんな深みを持った味わいとなっていたのである。
更に一口、また一口と、スプーンを持つ手が止まらない。
やがて、じっくりと煮込まれた根菜を頬張りながら、ふと辺りを見渡すヴァシリオス。
「そう言えば……ストラトスの姿が見えぬ様じゃが?」
体つきも大きく、少しやんちゃな印象のあるストラトス。
しかし、性格は至って真面目で、これまで一度も寝坊などした事がない。
そんな少年の姿が見えないのである。
彼がふと不思議に思っても、おかしくはない話だ。
と、そこで彼はある事を思い出した。
『うぅぅむ。そう言えば、昨晩ストラトスをアルの所へ夜這いに行かせた様な……』
すると案の定……。
「昨晩はかなり激しく致した故、まだ起き上がれぬやも、知れませぬなぁ……」
――ブーッ!
余りの事に、口に含んだスープを一気に噴き出すヴァシリオス。
それらは正面に座る彼女の顔面へ。
「お師匠様っ! どうしたのでございますかっ!」
「いっ、いやいや、スマン! お前があんまりな事を言うものだからつい……」
「もーっ! こちらの方があんまりにございますぅ」
彼女は懐から手ぬぐいを取り出すと、自分の顔や胸元に飛び散ったスープを拭い始める。
いやいや、そんな事より、昨夜の『激しく致した』事情である。
「アルや。昨夜は……そのぉ。弟弟子が無理を言ったのではあるまいな?」
自分が弟弟子を差し向けたくせに、この期に及んで急に心配になったのであろう。
「はぁ。私も初めての事で、多少面食らいましたが、可愛い弟弟子の頼み故、受け入れた次第にございます」
少し恥ずかしくも、嬉しそうにそう話す彼女
まぁ、当人同士が嫌がっていないのであれば、それはそれで若い者同士。問題は無いのかもしれない。
「そうかぁ……受け入れたかぁ……」
そう思い直したヴァシリオス。それにしても何だか釈然としない思いを抱えつつ、残りのスープをもう一度口に運び始める。
「私も、幼少の頃は、何度もお師匠様に激しくお相手頂きました故、そのお返しでございますよっ」
――ブーッ!
やっぱり、余りの話に、口に含んだスープをもう一度噴き出すヴァシリオス。
当然、それらは正面に座る彼女の顔面へ。
「お師匠様っ! もーっ! 何なのでございますかあっ! いい加減、怒りますよっ!」
「いやいやいや、人聞きが悪いっ。人聞きが悪いぞ、アルテミシア。ワシがいつその様な事をしたと言うのか? ままま、ましてや激しくなどと……」
年甲斐も無く慌てふためくヴァシリオス。
「何を慌てておられます。確かにあの頃は私も幼く、体格的にもお師匠様より一本頂く事は至難の業で……」
「こここ、これこれ、アルテミシア! 妙齢の婦女子が一本頂くなど破廉恥な事を申してはっ……って、あれ?」
彼女の言葉を遮ってまで話し始めたものの、何やら違和感が。
しかも、彼女の方は、何の事やら? と呆気にとられている様子。
「お師匠様。何を申しておられます? 私が教えを乞うていた頃は、『隙あらばいつでも打ちかかって来い。寝込みを襲ってもかまわんぞっ!』と申されておられましたでは御座いませんかぁ。それ以来、夜なよな、何度も打ちかかりましたが、結局一本も取る事叶わず」
「そう思いますと、私も弟弟子より寝込みを襲われる立場になった……と言うのは非常に感慨深いものがございました」
「そのおかげもありまして、少々過剰な対応になりました事は否めませぬなぁ……うふふふっ」
昨夜の攻防について思い出しているのであろうか。思わず笑みがこぼれる彼女
そして、そんな二人の会話に遅れて加わる者が。
「お師匠様、姉弟子様、おはようございます。遅れまして、大変申し訳ございません。
「あっちゃ~……」
思わず頭を抱えるヴァシリオス。
戸口の脇にかろうじて立つその少年。
端正な顔立ちは原型を留めぬ程に腫れ上がり、見える限りの腕や足は痣だらけ。
日頃練習に使用している短槍を模した棍棒に、なんとか縋って立っているにすぎない。
「……アルよ。そう言えば、ワシはお前に、手加減と言うものを教えた事が無かったなぁ」
今さらながらに遠い過去を思い起こすヴァシリオス。
「はい。そう言えば、『手加減』など、習った事は御座いませぬなぁ」
さも当然とばかりに、飄々と答えるアルテミシア。
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【AIの使用について】
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