異世界建築士~建築ガイド本『魔王城の歩き方』が売れています~

十三岡繁

文字の大きさ
26 / 56
異世界建築士の弟子編

第26話 橋の番人

しおりを挟む
 まんじゅうを食べ終わったコウに、お店の人がお茶のおかわりを持ってきてくれた。

「お客さんたち旅の方だね。ズワ湖を見に行くんだろう?このあたりにあるものと言ったらそれくらいしかないし」
 お店の人に聞かれてコウは答える。
「うん。ただ湖はどうでもよくて、そこにあるサダヒデの工房に用があるんだ。湖にある島なんだろう?」
 それを聞いて、お店の人はちょっと困ったような顔をした。

「確かにこのまま真直ぐ行けばそうなんだけど、最近はあまり仕事は受けていないみたいだよ。弟子の育成に本腰を入れたいとかで……」
「そうなんですか?まぁそれでもダメもとで行ってみます。孫弟子さんからの紹介だと言えば話ぐらいは聞いてもらえるかなと思います」
 クニオが言った。

「なんでも聞いた話では、島に渡る橋でお弟子さんが番をしていて、彼と勝負して勝ったものだけが島に入れてもらえるって……負けたら持ってる武器は没収されるんだって話だよ」
 店員の説明にコウの表情がパーッと明るくなった。

「なんだよ。キートの町に行くのに寄り道なんて面倒くさいなと思っていたら、楽しそうなイベントがあるじゃないか。だんごは頼むのやめて早く行こうぜ」
 いや、元々の目的地はサダヒデの工房で、だんごを食べようと思ってるのもコウだけだろうと、クニオは突っ込もうかと思ったがやめておいた。

 サダヒデへの工房に続く道は予想外に分かりやすかった。しっかりと整備もされているので、ズワ湖はそれなりに人気のある観光スポットなのかもしれない。途中で誰かに道を尋ねる必要もなく、4人は工房のある島へと続く橋の麓に辿り着いた。橋の中央には話の通り1人の男が椅子に座っていた。背中には刀を携えているのが遠目にも分かる。

「いいなー。想像通りの絵だ。とりあえず4人で行って見ようぜ」
 コウはそそくさと橋を渡り始める。コルビーは歩きながらも興味深そうに橋の欄干を見ている。橋と言えばこちらの世界では石のアーチ構造が殆どなので、ここまで細工された木製の橋は珍しいのだろう。

 4人が橋を渡り始めた時点から、男はじっとこちらを見つめていた。ある程度近づいたところで男はすっくと立ちあがり、こちらに向かってしゃべり始めた。
「我が名はサダヒデが弟子ユキヒラ。ここを通るというならば、我を倒してからにしてもらおうか」

「でたでた~そうこなくっちゃ」
 コウははしゃいでいる。
「もし我と戦いそれに敗れれば、ここを通さぬだけではなく武器は置いて行ってもらう。戦わず直ちに引き返すのであれば止めはしない」
 そう言ってから男は4人の姿を改めてじっと見ている。そうしてまた続けた。

「見れば異国の者の様だな。知らぬかもしれないので言っておくが、この湖の上では魔素と魔力は拡散してしまう。なので魔法の類は使えないのでご留意願いたい」
 なるほど、この男の言うとおりであればここから先は直接攻撃だけの勝負になるという事だ。
「まじか、魔法が使えないのは聞いてないな~。私は肉弾戦は苦手だからみんなに任せるよ」
 そう言ってコウはくるッと振り返り後ろに下がってしまった。

「拙僧は武器を持っておらぬが、戦いに敗れても置いていくものが無い場合はどうすればよいのか?」
 グレゴリーがユキヒラに聞く。
「なるほど、確かに一名しか武器は所持していないようだな。パーティーとして向かってこられても構わんぞ」
 そうユキヒラに言われて、武器を使っているのは最弱の自分1人だけだというパーティーの特殊さに、クニオは改めて気が付いた。もしかしてこれは自分だけが戦う事になるのだろうか?クニオがそう思ったところでコルビーが話しかけてきた。

「師匠、刀を貸してもらえますか?」
 言われた通りクニオが刀を渡すと、コルビーは自分以外は下がっていて下さいという。グレゴリーとクニオがコウのいる橋の袂まで下がるのを見届けてから、コルビーはユキヒラに向かってこう言った。
「まずはお互い弟子同士、腕比べと行きましょう」
 いや間違ってはいないが、コルビーは建築の弟子ではあっても剣術は関係ない。というかどう考えてもクニオに弟子をとるほどの剣技はないだろう。

 コルビーは鞘から刀を抜くと、鞘を橋の上に丁寧に置いてから両腕で刀を握って、前方に構えた。そうして構えたままでユキヒラの方へ近づいていく。ユキヒラは少し驚いたような顔をしている。

「子供だからと言ってお兄ちゃんは手加減しないぞ」
 ユキヒラはそう言った。そう、コルビーは見た目は10歳児くらいだ。刀もやっと両腕で持っている感じなので、真剣勝負をするには色々な意味できつそうだなと、少し同情する部分もある。

 しかしユキヒラのそんな思いにはお構いなしにコルビーが近づいて行くと、ユキヒラも背中の刀を抜いて構えた。波紋の美しい日本刀だ。コルビーはユキヒラの数m手前まで近づいたところで足を止めた。二人は互いに刀を構えて相対する形になった。但しコルビーの体は子供のそれなので、はたから見るとかなりの違和感だ。

 先に仕掛けたのはコルビーだった。大げさに振り被ると正面から切りかかった。ユキヒラは軽く一歩下がって交わすと、素早く振り被って逆にコルビーに切りつける。コルビーは横倒しにした刀を頭上に構えてその一撃を受け止めた。あたりに金属がぶつかり合う高い音が響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...