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異世界建築士の弟子編
第28話 奥の手
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クニオは中段に構えている。レベルが上がるにつれて、クニオのゾーニングは進化していた。ゾーニングとはクニオの建築士というレアジョブ特有のスキルだ。周囲の空間や構成材料を把握できる。以前の様にダンジョンなどの大きな空間把握だけではなく、相対する敵との位置関係なども正確に掴むことができるようになっていた。
剣道の経験があるクニオには間合い取りの大切さはよく分かっている。先ほどまでのコルビーとグレゴリーの戦いの最中も、ユキヒラの攻撃の間合いをずっと学習していた。自分の間合いに入らない限りはユキヒラは攻撃してはこない。剣道であっても基本だ。じりじりと二人は間合いを詰めていった。
ユキヒラの間合いに入ったところで、彼は振りかぶって攻撃を仕掛けてきた。しかしそれはユキヒラの間合いを掴んでいるクニオには予想できる動きだ。クニオはすぐに一歩下がって間合いを外した。ユキヒラの剣筋は縦に空を切る。振り切ったところでクニオは一歩前に出て剣道でいう所の面を切りつける。面抜き面という技だ。すぐさまユキヒラは刀を戻して、その一撃を受けとめた。先ほどと同じく早業だ。すぐに反撃が来ることは承知しているので、クニオはすぐにまた後ろに下がった。また間合いの外に出て中段に構え直す。
「あれ、なんか思っていたよりもちゃんと勝負になっているな?」
コウは不思議そうにしている。
「グレゴリーさんはともかく、コウさんは師匠の評価が低すぎますよ。さっきユキヒラと手合わせして分かったけど、多分いい勝負になると思う。いや、ゾーニングのスキルがある分師匠の方が有利かもしれない」
コルビーは自慢げだ。
しかしクニオ自身も驚いていた。今まで戦ってきたのは魔物や魔獣の類だった。多分人間と剣で相対するのは、この世界では初めてかもしれない。しかもこのユキヒラという男の動きは剣道のそれに極めて近い。正直言って戦いやすいのだ。前世で剣道をしていたころに比べれば、肉体は段違いに鍛えられているし動ける。ゾーニングのスキルもある。他の三人があまりに強すぎて、自己評価が低くなりすぎていたのかもしれない。
「クニオ殿の間合いの取り方が絶妙ですな。ゾーニングを使っておられるんでしょう。あれでは向こうもなかなか手が出せない」
グレゴリーも真剣に見入っている。
二人はその後お互いに手出しすることも無く、間合いの取り合いが続いた。先に自分の間合いをとれた方が有利になるのは剣道と一緒だ。両者は細かくすり足で移動しながら睨み合っている。そうしてその静寂が破られる時が来た。ユキヒラがわずかに振り被りながら前進しようとした。その瞬間クニオの刀がほぼ直線でユキヒラの右腕に向かう。ユキヒラの振り被ろうとする動きにカウンターとなって、その上腕部にクニオの刀が食い込んだ。そう、剣道でいう所の出籠手という業だ。相手の出先を狙うこの技は、実は剣道の試合では一番多い決まり手でもある。
勝負はついたかと思ったその瞬間。更にユキヒラは前進して、クニオに向かって膝蹴りの様な動きをした。「ドスッ」という低い音にクニオは視線を下に向ける。見下ろした自分の腹にはユキヒラの膝から飛び出した短剣が刺さっていた。すぐにユキヒラが脚をひくと短剣は抜けて、代わりにクニオの腹部からは血が噴き出した。流れた血で腹のあたりが熱くなるのを感じた。たまらずクニオは膝をつく。
「まさかこの仕込み刀を使うことになるとは思わなかった。なかなかいい技でした。すぐにポーションを出すので動かない方がいい。私の右腕も回復させなければ動かせませんが、傷の深さで私の勝ちでいいですね。約束通り刀は置いて行ってもらいます」
そういうユキヒラの言葉が段々と遠ざかって行くのを感じながら、クニオは倒れ……
気が付くとクニオは橋の渡り口にいた。目の前にはコルビーが立っている。
「師匠なら大丈夫です」
そう言われて橋の方を見ると、ユキヒラが仁王立ちしている。手に持っていたはずの刀は、鞘に納められて腰に刺してある。何が起きたのか一瞬分からずドギマギしていると。
「後で説明しますから、もう一度お願いします」
コルビーにそう言われて、訳も分からずまたユキヒラの元へと向かう。
「やっと本命の登場というわけでしょうか。しかし魔法なしであれだけ戦えるとは、いいパーティーメンバーですね」
ユキヒラは先ほどと同じことを言っている。そう、理由は分からないが、また戦う前に戻っているのだ。そういえば先ほどはコルビーの認識票を預かったはずだが、今回は渡されなかった。今度はアマリアの盾は胴代わりに腹部に固定した。
そこからは、若干の違いはあったものの先ほどの戦いの繰り返しだった。もちろん相手の出方が分かっているので、先ほどよりは余裕をもって戦える。決まり手の出籠手は更に深くユキヒラの右腕に切りこんだ。そうしてまたユキヒラの仕込み刀がクニオの腹部を襲う…しかし今回は高い音がして、アマリアの盾に阻まれてしまった。不意打ちが通じなかったユキヒラは呆然としている。盾を胴に当てているのは、もちろん見えているのでそれを貫く自信があったのだろう。そうしてクニオが腹部に傷を負うその代わりに、ユキヒラの右腕は回復なしでは動かせないほどの深手を負っていた。
「この膝反丸(ひざそりまる)も我の自信作であったのに、完全にこの突きを防いだ貴殿の盾は一体…」
「ああ、これはアマリアの盾と言って普段は結界を展開するんだけど、そのままでも結構丈夫なんですよ」
事も無げに説明するクニオに、ユキヒラは驚きの表情を浮かべている。
「アマリアの盾と言えば伝説級の…」
彼は思わず声を漏らしていた。クニオは武器や防具には明るくないので、その価値がよく分かっていなかったが、これは相当なものなんだなと改めて実感した。
「分かりました。あなた方の勝ちでいいでしょう。お通りください」
そういってユキヒラは道を空けた。後ろからキュリオシティーズの三人もこちらの方へ歩み寄ってくる。ユキヒラはポーションを取り出すと、負傷した右腕にかけて回復させている。
「なんだよクニオもなかなかやるじゃないか」
コウはクニオの背中をぴしゃりと叩いて、そのまま橋を渡っていく。グレゴリーもガハハと笑いながらそれに続く。
剣道の経験があるクニオには間合い取りの大切さはよく分かっている。先ほどまでのコルビーとグレゴリーの戦いの最中も、ユキヒラの攻撃の間合いをずっと学習していた。自分の間合いに入らない限りはユキヒラは攻撃してはこない。剣道であっても基本だ。じりじりと二人は間合いを詰めていった。
ユキヒラの間合いに入ったところで、彼は振りかぶって攻撃を仕掛けてきた。しかしそれはユキヒラの間合いを掴んでいるクニオには予想できる動きだ。クニオはすぐに一歩下がって間合いを外した。ユキヒラの剣筋は縦に空を切る。振り切ったところでクニオは一歩前に出て剣道でいう所の面を切りつける。面抜き面という技だ。すぐさまユキヒラは刀を戻して、その一撃を受けとめた。先ほどと同じく早業だ。すぐに反撃が来ることは承知しているので、クニオはすぐにまた後ろに下がった。また間合いの外に出て中段に構え直す。
「あれ、なんか思っていたよりもちゃんと勝負になっているな?」
コウは不思議そうにしている。
「グレゴリーさんはともかく、コウさんは師匠の評価が低すぎますよ。さっきユキヒラと手合わせして分かったけど、多分いい勝負になると思う。いや、ゾーニングのスキルがある分師匠の方が有利かもしれない」
コルビーは自慢げだ。
しかしクニオ自身も驚いていた。今まで戦ってきたのは魔物や魔獣の類だった。多分人間と剣で相対するのは、この世界では初めてかもしれない。しかもこのユキヒラという男の動きは剣道のそれに極めて近い。正直言って戦いやすいのだ。前世で剣道をしていたころに比べれば、肉体は段違いに鍛えられているし動ける。ゾーニングのスキルもある。他の三人があまりに強すぎて、自己評価が低くなりすぎていたのかもしれない。
「クニオ殿の間合いの取り方が絶妙ですな。ゾーニングを使っておられるんでしょう。あれでは向こうもなかなか手が出せない」
グレゴリーも真剣に見入っている。
二人はその後お互いに手出しすることも無く、間合いの取り合いが続いた。先に自分の間合いをとれた方が有利になるのは剣道と一緒だ。両者は細かくすり足で移動しながら睨み合っている。そうしてその静寂が破られる時が来た。ユキヒラがわずかに振り被りながら前進しようとした。その瞬間クニオの刀がほぼ直線でユキヒラの右腕に向かう。ユキヒラの振り被ろうとする動きにカウンターとなって、その上腕部にクニオの刀が食い込んだ。そう、剣道でいう所の出籠手という業だ。相手の出先を狙うこの技は、実は剣道の試合では一番多い決まり手でもある。
勝負はついたかと思ったその瞬間。更にユキヒラは前進して、クニオに向かって膝蹴りの様な動きをした。「ドスッ」という低い音にクニオは視線を下に向ける。見下ろした自分の腹にはユキヒラの膝から飛び出した短剣が刺さっていた。すぐにユキヒラが脚をひくと短剣は抜けて、代わりにクニオの腹部からは血が噴き出した。流れた血で腹のあたりが熱くなるのを感じた。たまらずクニオは膝をつく。
「まさかこの仕込み刀を使うことになるとは思わなかった。なかなかいい技でした。すぐにポーションを出すので動かない方がいい。私の右腕も回復させなければ動かせませんが、傷の深さで私の勝ちでいいですね。約束通り刀は置いて行ってもらいます」
そういうユキヒラの言葉が段々と遠ざかって行くのを感じながら、クニオは倒れ……
気が付くとクニオは橋の渡り口にいた。目の前にはコルビーが立っている。
「師匠なら大丈夫です」
そう言われて橋の方を見ると、ユキヒラが仁王立ちしている。手に持っていたはずの刀は、鞘に納められて腰に刺してある。何が起きたのか一瞬分からずドギマギしていると。
「後で説明しますから、もう一度お願いします」
コルビーにそう言われて、訳も分からずまたユキヒラの元へと向かう。
「やっと本命の登場というわけでしょうか。しかし魔法なしであれだけ戦えるとは、いいパーティーメンバーですね」
ユキヒラは先ほどと同じことを言っている。そう、理由は分からないが、また戦う前に戻っているのだ。そういえば先ほどはコルビーの認識票を預かったはずだが、今回は渡されなかった。今度はアマリアの盾は胴代わりに腹部に固定した。
そこからは、若干の違いはあったものの先ほどの戦いの繰り返しだった。もちろん相手の出方が分かっているので、先ほどよりは余裕をもって戦える。決まり手の出籠手は更に深くユキヒラの右腕に切りこんだ。そうしてまたユキヒラの仕込み刀がクニオの腹部を襲う…しかし今回は高い音がして、アマリアの盾に阻まれてしまった。不意打ちが通じなかったユキヒラは呆然としている。盾を胴に当てているのは、もちろん見えているのでそれを貫く自信があったのだろう。そうしてクニオが腹部に傷を負うその代わりに、ユキヒラの右腕は回復なしでは動かせないほどの深手を負っていた。
「この膝反丸(ひざそりまる)も我の自信作であったのに、完全にこの突きを防いだ貴殿の盾は一体…」
「ああ、これはアマリアの盾と言って普段は結界を展開するんだけど、そのままでも結構丈夫なんですよ」
事も無げに説明するクニオに、ユキヒラは驚きの表情を浮かべている。
「アマリアの盾と言えば伝説級の…」
彼は思わず声を漏らしていた。クニオは武器や防具には明るくないので、その価値がよく分かっていなかったが、これは相当なものなんだなと改めて実感した。
「分かりました。あなた方の勝ちでいいでしょう。お通りください」
そういってユキヒラは道を空けた。後ろからキュリオシティーズの三人もこちらの方へ歩み寄ってくる。ユキヒラはポーションを取り出すと、負傷した右腕にかけて回復させている。
「なんだよクニオもなかなかやるじゃないか」
コウはクニオの背中をぴしゃりと叩いて、そのまま橋を渡っていく。グレゴリーもガハハと笑いながらそれに続く。
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