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魔王山荘編
第49話 試し斬り
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「丁度いいや、巻き藁じゃ良く分からないからこの短刀を試させてもらうよ」
そう言ってコウは橋を渡って行ってしまった。向こう岸に辿り着いたところで、短刀を抜いて空に放り投げる。ゾンビナイトはコウに気が付くと剣を振り上げて襲い掛かってきた。コウはそれを見て風魔法を使って自身の体を宙に浮かせる。10mぐらい上空に上がったところで、相手の攻撃範囲から完全に出た事を確認し、先ほど投げた短刀の操作を本格的に始める。魔物と言っても人型ではあるので、心臓位置を狙って短刀はゾンビナイトに向かっていく。
『キーン』という甲高い金属音と共に短刀は地面に落ちた。どうもこのゾンビナイトの装甲を短刀は貫く事が出来なかったようだ。
「うーん攻撃力的にはこんなもんなのかな」
橋を渡り切る事は無くても、向こう側まであと数歩という所で待機していたクニオたちに、コウのセリフが聞こえてきた。ユキヒラは悔しそうな顔をしている。そうして
「アダマンタイトで強化した我が刀でも貫くことは敵いませんでしたか…」と呟いた。
「見てください。今短刀の当たった部分が光り輝いています」
コルビーがそう言った。
確かにコウの短刀が心臓を狙った部分の周辺は、泥がとれてゾンビナイトの装備している鎧部分がむき出しになっている。それは白銀色に輝いている。
「あのゾンビナイトはミスリル製の防具を装備しているようですね」
コルビーが言った。
ゾンビナイトは単に騎士の死体が蘇生された存在だが、装備は生前のものがそのまま引き継がれる。ミスリル銀はアダマンタイトほどではないが、かなり貴重な鉱石ではあるので、その防具を装着しているこのゾンビナイトは、生前はかなりの実力者だったことが伺える。
「私が行きます」
そう言ってクニオが橋の向こうへと進み出た。先ほどの巻き藁の感触で、どこまで何が切れるのかを試したいという気持ちがあった。橋を渡り切ると、ゾンビナイトはクニオに襲い掛かってきた。クニオは晴眼に構え、先ほどの巻き藁の時とは違って、今度はスキルのゾーニングを強く意識してみる。鎧には継ぎ目があるのでそこが弱点だと言えば弱点だが、先ほどコウの短刀では貫通できなかった防具部分をあえて狙うことにした。
丁度いい間合いで刀を上に振りかぶり、今度は斜めではなく上から下に一直線に振り下ろした。
先ほどと同じく刀を振る音はしない。何の抵抗もなく刀はゾンビナイトの体の中心線を通って、地面すれすれまで線を描く。巻き藁と違って、動いてクニオの元へと向かって来ていたゾンビナイトの体は、中央から二つに別れてクニオの左右を通って後ろへ抜けて行った。
余韻に浸ることなくクニオが後ろを振り返ると、二つに切断されたそのアンデッドは左右の肉体が引きあうようにまた結合し、兜と鎧部分には中央に先ほど切られた線が残ったものの、また一つに合体した。
『まずい!』クニオがそう思って、刀を片腕に持ち替えてアマリアの盾を構えようとしたところで、近くで黙って見ていたコウが、ゾンビナイトに向かって右腕を振り下ろした。次の瞬間ゾンビナイトは球形の空気の檻に閉じ込められる。前に見たヒュドラの時と同じだ。
「最近めっきり見かけなくなったからな…クニオはアンデッド初めてかもしれないけどさ、こいつら切っただけでは死なないよ…もう既に死んでるから」
そう言ってコウは今度は指をパチンと鳴らす。すると先ほどできた空気の球の中は炎で満たされた。
「聖属性の魔法で浄化するか、塵になるまで焼き尽くさないと倒せない。物理攻撃だけしかできない冒険者には結構厄介な相手だよ」
コウがそう言った。
程なく球形の檻の中の空気を全て使い果たしたところで燃焼は終わった。檻が無くなるとアンデッドは灰になっていて、そこには燃え残ったミスリル製の防具だけが残った。
「これ素材としては儲けものだよな?」
まだ橋の上にいるサダヒデにコウはそう声をかけた。サダヒデは残されたミスリル製の武具のところまでくると
「これは上モノじゃな。アダマンタイトほどではないが貴重な素材だから、ギルドに持っていけばかなりの額で買い取ってくれると思うぞ」と言った。
「いいよヘジテにやるよ。あ、ユキヒラにも刀のお礼に半分使わせてやってくれ」
ヘジテというのはサダヒデの本名だ。彼は人間ではなくドワーフである。
「おお、それは助かる。そうじゃな、ユキヒラにもミスリル加工の修行をつけてやろう」
そう言いながらサダヒデは鎧の切り口をまじまじと見ている。
「しかし、我ながら凄い刀を生み出したもんじゃ。元々の刀身もミスリルで作ってアダマンタイトで強化したら、更にヤバいものができそうじゃな。もっとも真価を発揮するのはクニオ殿のスキルと組み合わせた時だけかも知れんが…」
「いや、私にはこれで充分…というか既に過ぎたる刀ですよ。今も鞘に納めるときに失敗したら、自分の事切っちゃうんじゃないかと冷や冷やしました」
クニオはやや情けない事を言う。
「あ、そうださっきの話の続き…転移ゲートなんだけどさ」
コウがそう言いかけたところでサダヒデが口を挟む。
「まぁそれは工房でお茶でも飲みながら話しましょうかの。ユキヒラ、お前はこのミスリル銀を回収しておいてくれ」
サダヒデにそう促されて一行は工房へと戻った。戻る途中コルビーがなんとなく曇った表情を浮かべていたのが、クニオには少し気になった。
そう言ってコウは橋を渡って行ってしまった。向こう岸に辿り着いたところで、短刀を抜いて空に放り投げる。ゾンビナイトはコウに気が付くと剣を振り上げて襲い掛かってきた。コウはそれを見て風魔法を使って自身の体を宙に浮かせる。10mぐらい上空に上がったところで、相手の攻撃範囲から完全に出た事を確認し、先ほど投げた短刀の操作を本格的に始める。魔物と言っても人型ではあるので、心臓位置を狙って短刀はゾンビナイトに向かっていく。
『キーン』という甲高い金属音と共に短刀は地面に落ちた。どうもこのゾンビナイトの装甲を短刀は貫く事が出来なかったようだ。
「うーん攻撃力的にはこんなもんなのかな」
橋を渡り切る事は無くても、向こう側まであと数歩という所で待機していたクニオたちに、コウのセリフが聞こえてきた。ユキヒラは悔しそうな顔をしている。そうして
「アダマンタイトで強化した我が刀でも貫くことは敵いませんでしたか…」と呟いた。
「見てください。今短刀の当たった部分が光り輝いています」
コルビーがそう言った。
確かにコウの短刀が心臓を狙った部分の周辺は、泥がとれてゾンビナイトの装備している鎧部分がむき出しになっている。それは白銀色に輝いている。
「あのゾンビナイトはミスリル製の防具を装備しているようですね」
コルビーが言った。
ゾンビナイトは単に騎士の死体が蘇生された存在だが、装備は生前のものがそのまま引き継がれる。ミスリル銀はアダマンタイトほどではないが、かなり貴重な鉱石ではあるので、その防具を装着しているこのゾンビナイトは、生前はかなりの実力者だったことが伺える。
「私が行きます」
そう言ってクニオが橋の向こうへと進み出た。先ほどの巻き藁の感触で、どこまで何が切れるのかを試したいという気持ちがあった。橋を渡り切ると、ゾンビナイトはクニオに襲い掛かってきた。クニオは晴眼に構え、先ほどの巻き藁の時とは違って、今度はスキルのゾーニングを強く意識してみる。鎧には継ぎ目があるのでそこが弱点だと言えば弱点だが、先ほどコウの短刀では貫通できなかった防具部分をあえて狙うことにした。
丁度いい間合いで刀を上に振りかぶり、今度は斜めではなく上から下に一直線に振り下ろした。
先ほどと同じく刀を振る音はしない。何の抵抗もなく刀はゾンビナイトの体の中心線を通って、地面すれすれまで線を描く。巻き藁と違って、動いてクニオの元へと向かって来ていたゾンビナイトの体は、中央から二つに別れてクニオの左右を通って後ろへ抜けて行った。
余韻に浸ることなくクニオが後ろを振り返ると、二つに切断されたそのアンデッドは左右の肉体が引きあうようにまた結合し、兜と鎧部分には中央に先ほど切られた線が残ったものの、また一つに合体した。
『まずい!』クニオがそう思って、刀を片腕に持ち替えてアマリアの盾を構えようとしたところで、近くで黙って見ていたコウが、ゾンビナイトに向かって右腕を振り下ろした。次の瞬間ゾンビナイトは球形の空気の檻に閉じ込められる。前に見たヒュドラの時と同じだ。
「最近めっきり見かけなくなったからな…クニオはアンデッド初めてかもしれないけどさ、こいつら切っただけでは死なないよ…もう既に死んでるから」
そう言ってコウは今度は指をパチンと鳴らす。すると先ほどできた空気の球の中は炎で満たされた。
「聖属性の魔法で浄化するか、塵になるまで焼き尽くさないと倒せない。物理攻撃だけしかできない冒険者には結構厄介な相手だよ」
コウがそう言った。
程なく球形の檻の中の空気を全て使い果たしたところで燃焼は終わった。檻が無くなるとアンデッドは灰になっていて、そこには燃え残ったミスリル製の防具だけが残った。
「これ素材としては儲けものだよな?」
まだ橋の上にいるサダヒデにコウはそう声をかけた。サダヒデは残されたミスリル製の武具のところまでくると
「これは上モノじゃな。アダマンタイトほどではないが貴重な素材だから、ギルドに持っていけばかなりの額で買い取ってくれると思うぞ」と言った。
「いいよヘジテにやるよ。あ、ユキヒラにも刀のお礼に半分使わせてやってくれ」
ヘジテというのはサダヒデの本名だ。彼は人間ではなくドワーフである。
「おお、それは助かる。そうじゃな、ユキヒラにもミスリル加工の修行をつけてやろう」
そう言いながらサダヒデは鎧の切り口をまじまじと見ている。
「しかし、我ながら凄い刀を生み出したもんじゃ。元々の刀身もミスリルで作ってアダマンタイトで強化したら、更にヤバいものができそうじゃな。もっとも真価を発揮するのはクニオ殿のスキルと組み合わせた時だけかも知れんが…」
「いや、私にはこれで充分…というか既に過ぎたる刀ですよ。今も鞘に納めるときに失敗したら、自分の事切っちゃうんじゃないかと冷や冷やしました」
クニオはやや情けない事を言う。
「あ、そうださっきの話の続き…転移ゲートなんだけどさ」
コウがそう言いかけたところでサダヒデが口を挟む。
「まぁそれは工房でお茶でも飲みながら話しましょうかの。ユキヒラ、お前はこのミスリル銀を回収しておいてくれ」
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