トキネさんは修行しすぎて無敵になりました<連続活劇編>

十三岡繁

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出会い編

始まり(その2)

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 昨日に引き続き翌日のテレビ報道も現役大臣の襲撃事件の話で持ちきりだった。僕がいつものように『乃木坂』に行くと、珍しく店の隅に置かれたテレビの電源がオンになっていた。ニュースだけではなくワイドショーでも、同じ話をしている。報道によれば、事件後犯人は近所の交番にすぐに自首したという事で、それは未成年の男だった。政治的思想に基づいた行動で、殺す気は無く単に脅すつもりだったと供述しているらしい。

「未成年の子供が、銃で現役大臣を襲うとか本気で信じているんですかね」
 カウンターの中に立ってテレビを見ていたトキネさんはそう言った。客は他に誰もいないので、それは僕に向けての言葉だったのだろう。僕は銃で撃たれた人を見るという事も初めての経験だったので、なんと言っていいか返す言葉を一生懸命に探していた。
 もちろん銃を撃ったことは無いし、銃声もテレビドラマや映画以外では初めて聞いた。あまり気の利いた返しは思つかないなとあきらめかけたころ、トキネさんのスマホが鳴った。

「ああ、忙しいところごめんね。で、…なるほど…やっぱりね。とりあえずのバックはそんな所ね。一応今はそこまでと…ちょっとその場所だけ教えておいて。…大丈夫、別に変な事しないから」
 そう言ってトキネさんは何かしらのメモをとって電話を切った。そうして今度は僕の方を見て
「北原さんごめんなさい。今日はもうこれで閉店させていただきます」と言った。

「どちらにいかれるんですか?」
 僕でもトキネさんでもない誰か女性の声がした。

 声のした方を向くと、店内には二人以外のもうひとりの女性の姿があった。吉森大臣が時たま連れて来ていた秘書らしき人だ。しかしこの店のドアは開くとカランと音がするはずだ。彼女が入ってきたことに僕は全然気が付かなかった。

「草壁さん、なんの御用でしょうか?」
 女性は草壁というらしい。
「大臣の方から、血の気の多い小佐波さんが変なことをしないか、見ておくように申し付かりました」
 小佐波というのはトキネさんの苗字だ。僕も一応は知ってはいるが、いつも下の名前で呼んでいるので忘れそうになっていた。

「テル…大臣も心配性ね。そんなに無茶な事をするほど私も青くないですよ。ちょっと挨拶に行こうかなと思ったくらいで…」
 トキネさんは草壁さんにそう言った。
「挨拶?」
 特に他意はなく僕は聞き返してしまった。
「昨日銃声は二発聞こえましたよね。どうせ銃は中国製のトカレフあたりでしょうけど、そんな粗悪品を子供が撃って、二発撃とうが歩いている人間に命中させられるわけがない」
 僕の聞いた挨拶に関しての答えにはなっていないが、トキネさんは続ける
「よほどの至近距離なら別ですけどね。でもそこまで自身に迫った危険に気が付かないほど大臣もボケてはいないでしょう。当たったのは二発目で、実行犯は別にいるんだと思います」テレビで報道されている自首した若者の他に、実行犯がいるという事らしい。

 今度は草壁さんが口を開く。
「それに加えて、あたった弾丸はうまく急所を外れて貫通してました。もし手慣れた者の犯行であったなら、最初から殺すつもりはなかったとも考えられますね」
「なぜ殺すつもりは無かったと考えられるんですか?」僕は今度は草壁さんに聞いてみた。
「殺すつもりなら普通は頭を狙って撃ちます。きっといつでも殺せるというメッセージなんでしょう」
 彼女は自分の頭を右手の人差し指でトントンとたたきながらそう言った。

「やっぱりあなたは普通の秘書官では無さそうですね。覆面SPあたりかしら…ま、どっちでもいいけど…。自首した子供の後ろに居そうな連中を警察から聞いたので、実行犯を知っている人がいないかちょっと聞きに行こうかと思ってたところです」
 トキネさんはエプロンを外しながら続ける
「連中のたまり場は結構近所みたいだし…心配ならついて来ていただいても構いませんよ」
 そういうトキネさんの発言に草壁さんは少し考えてから、僕の方を見て言った。

「北原さん。あなたもご同行頂けますでしょうか?」
「彼は関係ないでしょう?」
 僕が何か返事をする前にトキネさんがそう言った。しかしなぜ草壁さんは僕の名前を知っているんだろうか?店では時たま見かけたが、挨拶を交わしたことも無ければ当然話をした事も無い。
 僕の疑問をよそに草壁さんは僕の方を向いて話を続ける。

「どうせ止めても無駄ですし、そもそも私では彼女の行動は止められない。でも北原さんが一緒なら彼女も無茶はしないような気がします」
 良くは分からないが、僕も平凡なライターではあるが記者のはしくれともいえる。好奇心は旺盛な方だ。それに何か昨日から今日にかけて、トキネさんの新しい面が見れた様で、少し胸が高鳴っていた。お近づきになれるチャンスはどこにあるのか分からない。

「いいですよ。私も同行します」
 僕の発言にトキネさんはため息をつく。
「ただひとつだけ質問なんですが…」
 そう言いかけて…これは二人のどちらに聞くべき質問なのかを一瞬迷った。なので二人に対して聞く感じになった。
「トキネさんと大臣はどういったご関係なんでしょうか?ただの常連のお客さんというわけでもないですよね?」
 その質問に草壁さんは『言ってもいいのか?』と言った表情でトキネさんの方を見た。

 トキネさんはまたひとつ、大きなため息をついてから
「テルちゃんは私の玄孫(やしゃご)です」
 と言った。コーヒーを飲んでいたら噴き出すところだった。
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