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茂木琢磨編
才能
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「特殊な才能?」自分は聞き返す。
「前にレストランでお見掛けした時、そちらにいる北原長十郎さんに容姿が似ているので気にかかったのかなと思いました。ま、それもあるんですが名前を聞いてピンと来ました。ユーナムでは候補者は常にピックアップして、同じ地域にいるメンバー内で情報を共有しています」
自分の知らないところで、そんな話があるのかと驚いた。
草壁さんは続けた
「できればお時間を頂いて、いくつかの検査にお付き合頂ければと思っています」
「田村さんに声を掛けていたのも同じ理由ですか?」彼女位勉強ができれば、それはもう特殊な才能と言ってもおかしくないのかもしれない。
「それはまた別の話です。ややこしくてすいません。守秘義務もあり私からは話せませんのでご本人に聞かれてください」そう言って草壁さんは軽く頭を下げた。
「それでその才能というのは、どういったものなんでしょうか?」自分がそう聞くと
「財団ではその才能をギフトと呼んでいます。論より証拠ですね」そう言って草壁さんはちょっと考えてから窓の外を見てこう言った。
「この時間ならまだ蝉もうるさく鳴いていますね」
彼女にそう言われて、外では蝉がうるさく鳴いていることに初めて意識がいった。日常の音は聞こえていても意識しないと気が付かないこともある。そうして蝉の声を感じ取ったその瞬間
…その鳴き声が消えた。意識の上ではなく物理的に消えたのだ。
「これが私の持つ才能で、我々はノイズキャンセルと呼んでいます」蝉の鳴き声は聞こえないのに草壁さんの声は鮮明に聞こえてくる。
「対象者の聴覚に対して消したい音だけ、逆位相の波をぶつけて消すことができます。もちろんそんな難しいことを考えながらしているわけではありません。感覚的にできるんです」彼女がそう言い終わった途端にまた蝉の声が鳴り響く。
「そういうことが何か自分にもできると?」自分は驚きながらも草壁さんに聞く。
「ギフトの内容は人によってまちまちです。あなたの場合は“合気”です。修行の末に辿り着いた境地という事なら分かりますが、生まれつき使えるような人は普通いません」その言葉にも驚いた。合気というのは武術の考え方の一つで、誰でもが鍛錬を積めば会得できるものだと思っていたし、自分はたまたま早熟で才にも恵まれているだけだと理解していた。父にもそう教えられてきた。
「そこまで種明かしして良かったのかしら?」草壁さんと自分の会話を黙って聞いていた小佐波さんが口を開いた。
「私がユーナムの人間であることは吉森大臣もご存知です。三船氏にもばれているみたいですし、小佐波さんも気が付いていたんでしょう?何も聞かれませんでしたけど」草壁さんの言葉に小佐波さんは微笑を浮かべるだけだった。草壁さんは再び自分の方を見て続ける。
「すぐにどうこうという話ではないですし、ギフトがあったからどうだという話でもありません。ただ大学進学時に金銭的な支援が必要であれば、審査はありますが優先的に扱わせていただきます。その代わりに卒業して就職時には改めてリクルートさせてはもらいますけどね」そういって草壁さんは微笑んだ。
自分にとって悪い話では無さそうだ。医学部と言っても金銭的な事を考えれば国公立しか道は無いと思っていた。国公立は学費は安いが合格するのは難しい。私立も視野に入れられるのであれば、医学部に進める可能性はぐっと大きくなる。またそれだけでなく自分に何らかの特殊な才能があるならば、それは是非とも知っておきたいところでもある。田村さんへの話の内容も気になったが、それは今度会ったときに本人に聞いてみよう。
「あのー質問なんですけど」長十郎さんが手を挙げた。
「僕とかダニエルにも調べてみたらそのギフトとかいう才能はあったりするんですかね?あ、あと小佐波さんのあれもギフトなんでしょうか?」確かに言われてみれば長十郎さんはともかく、他の二人も常人とはちょっと違う感じがする。
「三人は違うでしょうね。そんな情報は聞いてません。ただ小佐波さんの場合は範囲外というか何というか…大体にして勧誘したら財団に来ていただける可能性はあるんでしょうか?」草壁さんはそういいながら小佐波さんの方をチラッと見る。
「聞いた私がばかですね」草壁さんは小佐波さんが答える前に、その表情を見て一人で納得している。
「ユーナムがギフト持ち…ギフテッドだったかな。…を集めているというのは裏の筋から聞いてはいるけども、集めてどうするつもりなんですか?」今度はダニエルが草壁さんに聞く。
「裏の筋とは穏やかじゃないですね」草壁さんはそう言ってニヤリと笑ったあと、話を続けた。
「そこは企業秘密です。あ、企業じゃないですけど」
どうもよく分からない三人…草壁さんを入れると四人だが、謎な部分が多いものの悪い人では無いようには感じる。そもそも長十郎さんは親戚でもあるので信用していいだろう。まぁ返事は急ぎませんと草壁さんは言い残して去って行った。話をしているうちに広崎さんは着替え終わって用具庫から出てきた。
そこで思いついた。田村さんのIDはこの間聞きそびれてしまったが、広崎さんのIDを聞くのは自然な流れだ。稽古日の変更や中止の連絡が必要になるかもしれない。『外堀を埋めろ』というのは誰が言い出したのだろう。うまいことを言うものだ。自分は広崎さんのIDを聞き出すことに成功し、その日はそこで全員解散となった。
それから田村さんと図書委員の当番日が一緒の金曜日まではあっという間だった。貴重な高校二年生の夏休みではあるが、自分は勉強に明け暮れていた。もちろん草壁さんと話した後、ユーナム財団についても調べてみた。世界の名だたる企業が出資し合っているようで、各国で多くの奨学金事業を展開している。草壁さんが財団に顔が利くのであれば、田村さんも奨学金を得られるチャンスが広がるかもしれない。広崎さんの言っていた、最近彼女の様子がおかしいというのは気にはなったが、その後広崎さんからの続報がスマホに届くことはなかった。
「前にレストランでお見掛けした時、そちらにいる北原長十郎さんに容姿が似ているので気にかかったのかなと思いました。ま、それもあるんですが名前を聞いてピンと来ました。ユーナムでは候補者は常にピックアップして、同じ地域にいるメンバー内で情報を共有しています」
自分の知らないところで、そんな話があるのかと驚いた。
草壁さんは続けた
「できればお時間を頂いて、いくつかの検査にお付き合頂ければと思っています」
「田村さんに声を掛けていたのも同じ理由ですか?」彼女位勉強ができれば、それはもう特殊な才能と言ってもおかしくないのかもしれない。
「それはまた別の話です。ややこしくてすいません。守秘義務もあり私からは話せませんのでご本人に聞かれてください」そう言って草壁さんは軽く頭を下げた。
「それでその才能というのは、どういったものなんでしょうか?」自分がそう聞くと
「財団ではその才能をギフトと呼んでいます。論より証拠ですね」そう言って草壁さんはちょっと考えてから窓の外を見てこう言った。
「この時間ならまだ蝉もうるさく鳴いていますね」
彼女にそう言われて、外では蝉がうるさく鳴いていることに初めて意識がいった。日常の音は聞こえていても意識しないと気が付かないこともある。そうして蝉の声を感じ取ったその瞬間
…その鳴き声が消えた。意識の上ではなく物理的に消えたのだ。
「これが私の持つ才能で、我々はノイズキャンセルと呼んでいます」蝉の鳴き声は聞こえないのに草壁さんの声は鮮明に聞こえてくる。
「対象者の聴覚に対して消したい音だけ、逆位相の波をぶつけて消すことができます。もちろんそんな難しいことを考えながらしているわけではありません。感覚的にできるんです」彼女がそう言い終わった途端にまた蝉の声が鳴り響く。
「そういうことが何か自分にもできると?」自分は驚きながらも草壁さんに聞く。
「ギフトの内容は人によってまちまちです。あなたの場合は“合気”です。修行の末に辿り着いた境地という事なら分かりますが、生まれつき使えるような人は普通いません」その言葉にも驚いた。合気というのは武術の考え方の一つで、誰でもが鍛錬を積めば会得できるものだと思っていたし、自分はたまたま早熟で才にも恵まれているだけだと理解していた。父にもそう教えられてきた。
「そこまで種明かしして良かったのかしら?」草壁さんと自分の会話を黙って聞いていた小佐波さんが口を開いた。
「私がユーナムの人間であることは吉森大臣もご存知です。三船氏にもばれているみたいですし、小佐波さんも気が付いていたんでしょう?何も聞かれませんでしたけど」草壁さんの言葉に小佐波さんは微笑を浮かべるだけだった。草壁さんは再び自分の方を見て続ける。
「すぐにどうこうという話ではないですし、ギフトがあったからどうだという話でもありません。ただ大学進学時に金銭的な支援が必要であれば、審査はありますが優先的に扱わせていただきます。その代わりに卒業して就職時には改めてリクルートさせてはもらいますけどね」そういって草壁さんは微笑んだ。
自分にとって悪い話では無さそうだ。医学部と言っても金銭的な事を考えれば国公立しか道は無いと思っていた。国公立は学費は安いが合格するのは難しい。私立も視野に入れられるのであれば、医学部に進める可能性はぐっと大きくなる。またそれだけでなく自分に何らかの特殊な才能があるならば、それは是非とも知っておきたいところでもある。田村さんへの話の内容も気になったが、それは今度会ったときに本人に聞いてみよう。
「あのー質問なんですけど」長十郎さんが手を挙げた。
「僕とかダニエルにも調べてみたらそのギフトとかいう才能はあったりするんですかね?あ、あと小佐波さんのあれもギフトなんでしょうか?」確かに言われてみれば長十郎さんはともかく、他の二人も常人とはちょっと違う感じがする。
「三人は違うでしょうね。そんな情報は聞いてません。ただ小佐波さんの場合は範囲外というか何というか…大体にして勧誘したら財団に来ていただける可能性はあるんでしょうか?」草壁さんはそういいながら小佐波さんの方をチラッと見る。
「聞いた私がばかですね」草壁さんは小佐波さんが答える前に、その表情を見て一人で納得している。
「ユーナムがギフト持ち…ギフテッドだったかな。…を集めているというのは裏の筋から聞いてはいるけども、集めてどうするつもりなんですか?」今度はダニエルが草壁さんに聞く。
「裏の筋とは穏やかじゃないですね」草壁さんはそう言ってニヤリと笑ったあと、話を続けた。
「そこは企業秘密です。あ、企業じゃないですけど」
どうもよく分からない三人…草壁さんを入れると四人だが、謎な部分が多いものの悪い人では無いようには感じる。そもそも長十郎さんは親戚でもあるので信用していいだろう。まぁ返事は急ぎませんと草壁さんは言い残して去って行った。話をしているうちに広崎さんは着替え終わって用具庫から出てきた。
そこで思いついた。田村さんのIDはこの間聞きそびれてしまったが、広崎さんのIDを聞くのは自然な流れだ。稽古日の変更や中止の連絡が必要になるかもしれない。『外堀を埋めろ』というのは誰が言い出したのだろう。うまいことを言うものだ。自分は広崎さんのIDを聞き出すことに成功し、その日はそこで全員解散となった。
それから田村さんと図書委員の当番日が一緒の金曜日まではあっという間だった。貴重な高校二年生の夏休みではあるが、自分は勉強に明け暮れていた。もちろん草壁さんと話した後、ユーナム財団についても調べてみた。世界の名だたる企業が出資し合っているようで、各国で多くの奨学金事業を展開している。草壁さんが財団に顔が利くのであれば、田村さんも奨学金を得られるチャンスが広がるかもしれない。広崎さんの言っていた、最近彼女の様子がおかしいというのは気にはなったが、その後広崎さんからの続報がスマホに届くことはなかった。
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