56 / 95
茂木琢磨編
イチョウ並木
しおりを挟む
あの事件の後、あっという間に市川学院では残りの夏休みも終わって二学期に突入した。図書委員会の窓口当番は学期ごとにローテーションが変わるのだが、自分と田村さんは偶然にも二学期は同じ曜日の担当になった。今日が当番最初の日だ。先に席についていた自分の前に田村さんは現れた。先日の夏休み中彼女が現れなかったことが少しだけトラウマになっていたのでホッとした。
軽く会釈をかわして彼女も席につくと自分の方から話しかけた。
「久しぶり……てこともないね。SNSでは昨日も話したし」
そう、あの事件の後田村さんとはSNSのIDを無事交換することができた。但しチャット以外では当面しーちゃん、たくちゃんの呼び方は封印しようという事になっている。
「そういえば結局草壁さんは田村さんには何の用があったの?」
自分の事はおいておいて、田村さんの話をまだ聞いていなかった。チャットで聞くような話でもないと思って控えていた。
「なんでも文部科学省で、新しい大学授業料免除の制度を作るのでやってみないかって話です」
「それはいい話だよね。もちろん挑戦するんでしょう?」
自分がそう言うと
「現在検討中です。条件として大学卒業後に地方勤務が必要なんです。というか文科省としてはそこに移り住んでほしいみたいですね。まぁ随分と先の話ですが…」
田村さんはそう言ってからチラッと自分の方を見た。
こういう時にどう言うべきなのか今の自分にはまだ分からなかった。大学卒業は随分と先の話だが、あと数年のうちにその先の進路までも決めろというのは、高校生にはちょっと難しいような気がする。
「でも二学期は田村さんと当番が一緒になって、ちょっとうれしいな」
自分は話題を逸らした。
「ちょっとなんですか?」
田村さんは自分の発言に不満顔だ。
「ところで先輩、図書委員会の当番て誰が決めてるか知ってます?」
唐突に彼女が聞いてくる。
「ん? 委員長じゃなくて司書の先生が決めてるんでしょう? それが何か?」
自分の問いに田村さんは答える。
「委員会メンバーに仮番ふって、エクセルのランダム関数で決めてるみたいです」
「へぇ、そうなんだ。よく知ってるね」
自分は他意なくそう返す。
「この学校はデーターベースのセキュリティが甘すぎますね」
田村さんはそう言ってからニッコリと微笑んだ。自分はそれ以上の事を聞くのはやめておいた。
彼女のその笑顔をずっと眺めていたかったが、照れくさいので自分は視線を逸らした。彼女の向こう側にある大きな窓からは相変わらずイチョウ並木が見えている。今日は風が強いのか枝が大きく揺れている。今は風に耐えているあのイチョウの葉も、じきに色づいてやがて地面に落ちていくだろう。でも冬が過ぎてまた春になれば新緑の季節がやってくる。それは確約された未来だった。
軽く会釈をかわして彼女も席につくと自分の方から話しかけた。
「久しぶり……てこともないね。SNSでは昨日も話したし」
そう、あの事件の後田村さんとはSNSのIDを無事交換することができた。但しチャット以外では当面しーちゃん、たくちゃんの呼び方は封印しようという事になっている。
「そういえば結局草壁さんは田村さんには何の用があったの?」
自分の事はおいておいて、田村さんの話をまだ聞いていなかった。チャットで聞くような話でもないと思って控えていた。
「なんでも文部科学省で、新しい大学授業料免除の制度を作るのでやってみないかって話です」
「それはいい話だよね。もちろん挑戦するんでしょう?」
自分がそう言うと
「現在検討中です。条件として大学卒業後に地方勤務が必要なんです。というか文科省としてはそこに移り住んでほしいみたいですね。まぁ随分と先の話ですが…」
田村さんはそう言ってからチラッと自分の方を見た。
こういう時にどう言うべきなのか今の自分にはまだ分からなかった。大学卒業は随分と先の話だが、あと数年のうちにその先の進路までも決めろというのは、高校生にはちょっと難しいような気がする。
「でも二学期は田村さんと当番が一緒になって、ちょっとうれしいな」
自分は話題を逸らした。
「ちょっとなんですか?」
田村さんは自分の発言に不満顔だ。
「ところで先輩、図書委員会の当番て誰が決めてるか知ってます?」
唐突に彼女が聞いてくる。
「ん? 委員長じゃなくて司書の先生が決めてるんでしょう? それが何か?」
自分の問いに田村さんは答える。
「委員会メンバーに仮番ふって、エクセルのランダム関数で決めてるみたいです」
「へぇ、そうなんだ。よく知ってるね」
自分は他意なくそう返す。
「この学校はデーターベースのセキュリティが甘すぎますね」
田村さんはそう言ってからニッコリと微笑んだ。自分はそれ以上の事を聞くのはやめておいた。
彼女のその笑顔をずっと眺めていたかったが、照れくさいので自分は視線を逸らした。彼女の向こう側にある大きな窓からは相変わらずイチョウ並木が見えている。今日は風が強いのか枝が大きく揺れている。今は風に耐えているあのイチョウの葉も、じきに色づいてやがて地面に落ちていくだろう。でも冬が過ぎてまた春になれば新緑の季節がやってくる。それは確約された未来だった。
1
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる