やさぐれ令嬢は高らかに笑う

どてら

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『君が為に〜恋を贈る学園』

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 ある日、郁が憂いを帯びた表情で溜息を漏らした。
「悩み事でもあるの?」
「アイザック様が素敵すぎて」
アイザック?
「おい誰だその男、ちゃんと紹介しなさい」
「栞は私のお母さんポジなのね」
やれやれと呆れた顔をする郁に若干苛立ちを覚えつつも私は再度誰だと問う。
「これよこれ!」
郁が私に突き出したのはスマートフォンだ。画面に映るのは煌びやかな画像、派手な色合いの男達が何人もそれぞれポーズを取っている。
「.......ゲームか」
「そう! 『君が為に~恋を贈る学園』、君恋って言って今大人気なんだから」
私が世間と隔離されていた間にこんなものが流行っていたのか。物珍しげに見つめていれば郁が「栞もやらない?」と聞いてきた。
「私はいい」
こういうものは好かない。開いたままの本に視線を戻した。
「栞頭硬いな~凄い面白いのに、特にこのアイザック様ってキャラクターが最高にかっこよくて」
聞いてもないのに話を続ける郁。彼女は私のベッドの横に腰掛けると口も止めずにプレイし始めた。
「何でここでやるの」
「だってここ個室でしょ? 奇声発しても怒られないじゃん」
「私が怒る」
「栞優しいから大丈夫」
本人を前にして何言ってるんだと思いいつ、どうせ聞かないので放置することにした。
「そうだ、栞ならこの中で誰が一番かっこいいと思う?」
さっき私に見せてきた画像をもう一度かざしながら落ち着きのない様子で聞いてくる郁。私は仕方ないと画面に目を通し、ぶっきらぼうに一人の男性を指さした。
「この人かな」
選んだ理由は単純、健康的そうだったからだ。
「おっブラウンじゃん!!」
アイザックとやらには様付けだったのに随分扱いが乱暴だな。
「ブラウンはねいいよ~俺様系ツンデレ」
ちょっと何を言っているのか分からないので適当な相槌を返した。
「アイザック様の妹にアイリーンって子がいるんだけど、ブラウンはその子と婚約者なの」
「そのゲームは婚約者がいる相手にもちょっかい出すのか」
主人公どうなんだそれは。
「アイリーンとブラウンは親同士が勝手に決めた婚約者だから。二人はむしろ仲悪いくらい」
郁が言うにはそのアイリーンという女性、他の男にはまるで興味がなく自分の兄だけを愛していた節があるらしい。
「ブラコンってやつね」
「脇役にしては濃いな」
お兄様大好きアイリーンは主人公と兄が仲睦まじくしているのがお気に召さなかったようで、主人公に対し様々な嫌がらせをする。郁はこういったキャラクターを悪役令嬢と呼ぶのだと教えてくれた。
「アイリーンが嫌がらせしてるのは何も主人公だけじゃないけどね、アイザックに想いを寄せてる子に手当り次第って感じ」
アイザックはゲーム内で最も攻略の難しいキャラらしいがその主な理由がアイリーンの企てによるところが大きいらしい。どれだけ兄のこと好きなんだ、ここまでくると怖いな。
「でも私、アイリーンのこと嫌いになれないのよね」
お人好しの郁らしい発言だ。
「この子にもこの子なりの理由があるの」
「にしてもやり過ぎだ」
私の言葉に郁は考え込むと何やら言いづらそうな顔をした。
「アイリーンとアイザック様って腹違いの兄妹って設定らしいんだけど」
重いなその乙女ゲーム。
「アイリーンはあまり家族に好かれてなかったみたい。でもほら、アイザック様って凄く優しいから」
恋人のことを語るようにうっとり目を伏せる郁。
「アイリーンにとってアイザック様だけが家族だったのよ」

彼女がプレイしていた中で特に印象深いアイリーンの台詞があるらしい。
──────私から家族を取らないで!!
平民の家柄でありながら学園内の多くの人たちと交流を深めていく主人公、方や自分はたった一人の家族すら優しさからでしか愛を得られない。アイリーンが主人公に抱く気持ちはただの嫉妬だったのか? そこには妬み嫉み以外にも羨望といった感情も混じっていたのではないか。

 そして郁が話してくれた内容の中で今一番考えるべきことがある。
「アイリーンはどのルートでもアイザック様から離されちゃうの」


 アイリーン・ベーカーはどのルートにおいても幸せにはなれない。
 因果応報、勧善懲悪というべきか。彼女は全てのルートで無惨な最後を遂げている。
主人公とブラウンが結婚するエンドでは名目上とはいえ婚約者を取られたと喚くアイリーンが主人公に罪を着せて追放させようと目論むも失敗、アイリーン死罪。ちなみに失敗しなかった場合は責任を感じたブラウンが自害するらしい。
主人公がアイザックと結ばれるルートでは二人の仲を邪魔し、主人公の命をも狙いそして失敗。殺人未遂の容疑で逮捕されそれ以前にやらかしたことその他諸共含めて処刑。まだマシなエンドでは主人公とアイザックが駆け落ち、ベーカー家の没落エンドか主人公とアイザックがベーカー家に残る代わりにアイリーンが追放のどちらかだ。


 正直、私が彼女自身に生まれ変わったりしなければ本当どうでもいいの一言で一喝したぐらいどうしようもない人間なんだよな。郁はどうして彼女に同情するような事を口走ったんだとあの当時は不思議だったが自分の立場になって思う、これ育った環境が悪いな。

──────私から家族を取らないでよ!!
この台詞なんて絶賛今私がアルフレッド・ベーカーに言ってやろうとしてたことそのものだ。

 クラリスのことも心配しつつこれから自分の身も守っていかなければならない私は暗雲立ち込める先を思い肩を落とした。

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