やさぐれ令嬢は高らかに笑う

どてら

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パーティ

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 私がベーカー家に来て数日が立った。その間何をするでもなくひたすら窓を眺めていただけである。
用意された部屋は公爵邸の二階、最奥に位置する非常に日当たりの悪い場所だ。窓から見える景色を眺め心を癒す.......なんてことも出来ない。外を見ようにも無骨な鉄格子が視界に入ってしまうからだ。
籠の中の鳥、といえばまだ優美だがこれではさながら檻に入れられた囚人の方が正しい。部屋の外からは常に鍵をかけられ、中はトイレやシャワールームといった完全完備。中から出るなという圧が凄い、言われなくとも大人しくしているのに。定期的に使用人が部屋を訪れ食事を運びに来る。私はそれを食しまた窓へと視線を戻す。
これじゃあまるでベッドで寝たきりだった前世と変わらないな。

 ここがゲームの世界だということを知って腑に落ちたのは世界観の作りがヨーロッパのとある時代背景と似通っているにも関わらず使用される言語が日本語だった点と、家の造りや階級制度が若干「日本人が考えましたよ」といった程度が見受けられる点だ。
 まだ納得出来てない点と言えば輪廻転生なんて非科学的な事態を飲み込めていないことぐらいか。こんなおとぎ話にも無さそうなこと、郁が知ったら羨ましがるだろうな。
 
「はぁ~暇だ」
前世では読み尽くせない量の本があっただけまだマシだった気さえしてくる。私が退屈を謳歌していると扉が叩かれる音がした。
「どーぞ」
「やぁ、元気にしていたかい? 我が愛しのアイリーン」
反吐が出る台詞と共に現れたのは遺憾ながらも私の父親になったアルフレッド・ベーカー公爵だった。
「お父様、摘んだ花は水を入れた花瓶に飾らないと干からびるんですよ」
「腐りきっている、ということかな? アイリーンは全く子供らしからぬことばかり言うね、そこが興味深い」
一応述べておくが前世の私も幼い時からこんなやさぐれ具合だったわけじゃない、素の私はおしとやかで華麗だったはずだ多分。
「ここ数日実に忙しくてね、構ってやれなくて申し訳ない」
「謝罪ならもう少し感情を込めないと嘘くさいだけの印象になります」
言葉の端々に棘を差し込みたくなるのは仕方ないだろう。
「寂しい思いをさせるもの今日限りだ。今夜、君の歓迎パーティを開くことになった」
歓迎? どの口が言ってるんだ。
「本当の目的は?」
アルフレッドがニヤリと笑う。
「私の新しい駒のお披露目会」
こいつ.......。
数日間も監禁したと思えばこれか、朽ちろ! もげろ! 何処とは言わないが。
「随分急ですね」
「皆君を早く見たがっているんだ」
ゲームで今後予想される処刑エンドバッドエンドを回避するよりこの男一人殺した方が多分皆幸せになるんじゃないのか?
「また物騒な考え事をしているねアイリーン」
「父親譲りですよ」
ホホホホホと、わざとらしく笑いたてる私にアルフレッドはウインクをひとつ落としてから部屋を後にした。彼が出ていったのと同時に数人の使用人が入り込んでくる。

 彼女たちは私の身支度を素早く整え髪を結っていく。あらかじめ用意していたらしいドレスに袖を通しされるがまま、まるで着せ替え人形だなと苦笑した。





「準備が整いましたお嬢様」
慣れない呼ばれ方に嫌気がさしながらも私は案内される場所へ足を向けた。パーティの開催は我がベーカー家の大広間で行われる。名だたる貴族を数十人、それでも貴族間では規模の少ない方だろう。今回はあくまで身内のもの、と謳ったパーティらしい。


 私が会場に赴くと視線が一気にこちらを向いた。今回の主役なのだから当然だろう、取り繕った笑みで一礼する。
「おぉ君がアイリーン嬢か」
「長らくの闘病生活、大変だったな」
「.......えぇ」
闘病ってどういうわけだ。私の前世を彼らが知っているわけでもあるまいに。
「ずっと床に伏せていたんだろ?」
「私らなんかはベーカー家に娘がいるなんてことすら知らなかったからな~」
「ははっ、元気になって何よりだ」
私は横目でアルフレッドを見た。彼は実に楽しげな表情でこちらを見ている。口パクで「頑張って」と言われたのは気の所為だと願いたい。何が闘病生活だ、平民の女性に孕ませた子を今更引き取ったというのは世間体が悪すぎる為その場ででっち上げたのだろう。
「ところで髪と瞳の色が公爵や夫人とまるで似つかないのは?」
私の髪も瞳もクラリス譲りの漆黒だ。そりゃ似てないだろうさ。
「病で床に伏せている間、髪がそのくすんでしまいまして.......染めたのです」
「それは失敬。不躾なことを聞きました」
「お可哀想にあの歳で」
「だがこれもそれも生きていたことだけが救いじゃないか」
自分でもよくここまで適当な嘘が出てくると思う。アルフレッドなんか肩を震わせて笑っているじゃないか。腹立つな。
「容姿も端麗でいらっしゃる、それにあの歳でこの落ち着きよう」
「さぞ苦しい日々を戦い抜いて来たに違いない」
「そしてベーカー家の名。是非我が息子に嫁がせたいものだな」
なるほど、アイリーンの歓迎パーティだと謳ったものの正体は私の品定めだったわけか。アルフレッドは貴族階級の中でも一定水準以上の連中を集め、誰かしらに私を売ろうという魂胆か。あくどさもここまで来ると業だな。

そんな私を取り囲む人混みを分けいって一人の女性が歩み寄ってきた。

 淡いブロンドの髪を巻いた派手やかで美しい女性は私のことを鋭い目付きで睨みつけている。私が驚いたのと同じくあのアルフレッドでさえも慌てた顔をしている。
それを見てようやく気がついたのだ、彼女がアルフレッド公爵夫人リリアン・ベーカーだと。

 
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