やさぐれ令嬢は高らかに笑う

どてら

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名ばかりの婚約者⑴

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 少年の瞳は彼の名前の通りブラウン色だ。吸い込まれそうな程に輝いた、まるで他を寄せ付けない引力を持ち合わせているようだった。髪は少しくすんだ金髪。

 オスカー・ギルバート騎士団長の愛息子として紹介された彼は明らかに私へ敵意を向けていた。それも分かりやすすぎたので私を含めアルフレッドでさえも口元を緩めつい笑ってしまうぐらいにはあからさまだったようだ。
「こらブラウン!!」
「.......ブラウン・ギルバートです、よろしくお願いします」
挨拶もなにもあったものじゃない。不貞腐れた顔をするブラウンに私とアルフレッドは苦笑しつつ案内されるままギルバート邸へと足を向けた。
敷地面積自体はベーカー家に劣るだろう、屋敷の広さもそこそこで家屋や飾られている物品だって質素なものだ。しかし流石騎士団を取りまとめる団長の家というべきか、訓練所と名前のついたエリアがいくつか存在し、そのひとつひとつ用途や想定している場が違っており面白い。
「アイリーン、せっかくだから案内でもして頂いたらどうだ?」
後は若い二人で、ということか。にしても二人とも若すぎると思うのだが。
「ブラウンもそれでいいな」
「はい父上」
ブラウンとやらは早めの反抗期みたいな目を私には向けるのに対し父親には純情で素直らしい。甘えたい年頃なのかそれとももっと単純に尊敬し愛してやまないだけなのか。
「その間我々は稽古でもどうだ公爵殿」 
「いえ私は.......」
「お父様は普段机に張り付いておられるんですからいい機会じゃありませんか」
アルフレッドが私を横目で見た。彼が身体を動かすことを良しとしない質なのは何となく察している、私だけ苦労させようったってそうはいかない。
「それはいかんな! ほら、こちらへ」
私は満面の笑みでオスカーに引かれていくアルフレッドを見送った。

 ブラウンと二人っきりになり気まずい沈黙が流れる、帰りたい。
「お前、剣は?」
「剣術は習っておりません」
クラリスと一緒に暮らしていた頃は毎日木の棒を振り回し動物を狩っていたが今はそんな野蛮なこと出来ない。
「.......やっぱり女はつまんねぇな」
「遊び相手が欲しいなら大好きな父上にでもねだればいいじゃないですか」
「何だと!?」
癇癪の起こし方が子供らしい。
「私は貴方の剣術の相手をしに来たわけではありませんので」
ぷいっとわざとらしく顔を背けるとブラウンが喚きながら地団駄を踏み始めた。
「お前可愛くない!!」
ブラウンの方は年相応で可愛らしいと思ったことは流石に黙っていてやろう。笑いそうなのを堪えているのがバレたのかブラウンはより機嫌を悪くして私に言い放った。
「そもそも俺はお前との婚約なんて認めてないんだからな!!」
「存じてます」
ゲームでもそういう話だった。
ブラウンは面食らって一歩仰け反った。分かりやすい馬鹿は嫌いじゃない、大袈裟な態度に友達の郁を連想させ私はついに声を出して笑ってしまう。
「わ、笑うなっ」
「すみません無理です、ふふっ」
その場で笑い転がらなかっただけ大目に見て欲しい。何せここ最近殺伐とした出来事や身に染みる優しさを体感して私の中の感覚が麻痺した状態なのだ、自分でも止められない。ひとしきり笑った後、再び謝罪した。
「お見苦しいところを見せてしまい申し訳ございません」
「.......俺お前が嫌いだ」
でしょうね。
「父上はお前のことを長年病に苦しんだ、か弱い娘だからやさしく丁重にって言っていたが全然違うじゃないか」
「あぁそれ嘘です」
ついでに髪も地毛だと告発すればブラウンは今度こそ泣きそうな顔をして私を見返した。
「父上をだましたのか」
「嘘も方便ってやつですよ。私にとっても苦しい嘘でした」
苦しかったのは嘘をつくこと自体でなく内容だったけれど。
「いずれ私の口からオスカー様に告げようと思っていました。こちらとしても隠しておきたい事情とはいえ不誠実な真似をしたと反省しております」
どうせいつかはバレるだろうからアルフレッドが付いてきた今彼に責任を擦り付けて私は懺悔のフリでもなんでもするつもりだったのだ。「お父様に脅されて~」とか言えばあの正義感の強そうな騎士団長がアルフレッドに制裁の一つでも下してくれると期待して。


「そうかそちらにも大人の事情とやらがあるんだな、分かるぞ」
いや何を察したんだ。
「俺もこの間父上の襟元に口紅がついていたのを指摘したら、大人の事情だから母上には絶対言うなと約束させられたんだ。あの時の父上は怖かった、お前も大変だな」
どこの家でも父親はそんな感じなんだろうか。呆れながらブラウンに「まあそんなところです」と曖昧な返しをしていると彼は気持ちを切り替えたのか私についてこいと一言発して走り出した。足速いな、案内する気ないだろ。
「早く来い! えっと、あ、アイリーン」
人の名前を呼ぶだけなのにわざわざ顔を赤くしてくれるところがまたお可愛らしい。私に年の離れた弟がいたらこんな風に接するのかもしれない。
「お待ち下さいブラウン様」
「早くしないと置いていくぞ」

長閑な昼下がり、元気に走り回るブラウンを見てこの展開が今後どう影響してくるのか等という無粋な考えはしないでおくことにした。
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