やさぐれ令嬢は高らかに笑う

どてら

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馬車の中で

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ドナドナドナ
子牛を乗せて

「アイリーン、なんだその不穏な歌は」
「我が故郷に伝う別れの歌です」
売られていく子牛に感情移入しながら奏でていたがどうやらアルフレッドはお気に召さなかったらしい。まぁ彼はどう見ても売り飛ばす側だからな。
「もう少し子供らしい歌は歌えないのか?」
「同乗してるのがお兄様なら陽気に唄ってみせたんですが残念です」
相変わらず私とアルフレッドの関係は複雑怪奇だ。私の方は嫌いで憎く、だが母親の治療費を払ってくれている恩人でもあるので一応建前上はお父様として接している、そして同時に拉致った犯人でもあるわけだが。
アルフレッドの方はどうだろう? 私を含め世界中の人間は自分の駒だと思っていそうだ。

私たちは今馬車を走らせギルバート家の敷地へと向かっている。私の婚約相手であるブラウン・ギルバートとの顔合わせがあるからだ。勿論後ろからついてくる馬車には数人の従者が乗っている。だがこのだだっ広い馬車には私とアルフレッド二人しかいない、気まず過ぎる。
「ブラウン・ギルバートと会いたくないのか?」
あまりにも顔を曇らせている私にアルフレッドが聞いてきた。
「ブラウン様本人、というよりお父様がギルバート家を選んだ意図が私には分かりません」
爵位だけでいうならもっと他にあったはずだ。騎士爵は正式な爵位ではない、つまり貴族階級じゃないのだ。ギルバート家は伯爵の家系だったはずだが目立つ功績は全て武勲という力自慢な家柄だったはず。それをわざわざ選別した理由を知りたい。
もし、私がブラウンと婚約しなければゲームとは大きく外れたルートが現れるかもしれない。その中にはアイリーンとアイザックが家族として仲睦まじくやっていけるルートの存在だって可能性で言うならゼロじゃないのだ。
「アイリーン。今私に足りないものは何だと思う?」
「常識と他者を思いやる心ですかね」
「.......質問を変えよう、ベーカー家のアルフレッド公爵に足りないものは何だと思う?」
答えてみろとふんぞり返る偉そうな父親。彼の鼻を明かしてやりたくて私なりに考えた。
「戦力もしくは武力、ですか?」
「そうだ」
ベーカー家の領地は広大で豊かだ。だが近年目立った戦やその準備が行われた形跡は無い、何故知っているかと言えば私がベーカー家の人間に隠れて図書室の本を読み漁ったからにほかならない。退屈は人を駄目にするのだ、これはその回避であって決して悪いことじゃない。
「他領地に喧嘩でも売る気ですか?」
武力なんてあるだけ火種にしかならないのに。
「喧嘩を売られる気なんだよアイリーン」
つまりそう仕向けさせ、あくまで正当防衛として武力を掲げ制圧し、領地を奪取してやりたいわけだ。どこまでも狡くて汚い。
「やはり私とお前はよく似ている」
考えの一致が余程嬉しかったのだろう。私が死にたくなるような言葉を吐いた。
「どうしたアイリーン酔ったのか?」
貴方の顔面にいっそ吐いてやりたいぐらいだ。


「お前を跡継ぎにしておけばよかったな」
不意にアルフレッドが呟いた台詞で目を見張る。冗談でも聞き捨てならないぞ今のは。
「そう怖い顔をするな。アレは不向きなんだよ、公爵としても駒としても」
アレ、とアルフレッドが指したのはアイザックのことだろう。
「人格者としてなら貴方の数段上だ」
「だが優しすぎる」
きっぱりとそう返したアルフレッドの目に一瞬だが迷いが見えた。彼にとってアイザックは駒で、それでも息子なのは確かなのだ。
アルフレッドは人格破綻者だが統括者としては一流だ。厳しさも恐ろしさも領主が持つべき資質を兼ね備えている。
彼が自分に容姿だけは瓜二つな心優しいあの少年にどんな感情を抱いているかなんて私の知るところではない。それでも、いっそ私のようにやさぐれていてくれたならと願うのだろうか。この男ですらも。

「先日はリリアンがすまなかったな」
窓から見える山々に視線を逸らしながらアルフレッドが口を開いた。それだけか、という気持ちとそれ以上何か言われても困るなという冷静な思考が混雑する。
「お父様の困り顔が見れたので私としては十分すぎるぐらいですよ」
これから先拝めるか分からない程貴重だろうから。
 沈黙がしばらく続き、お互い目を閉じたまま揺られていると掛け声があり、馬車が止まった。目的地に着いたらしい。
「降りようかアイリーン」
アルフレッドの横顔は先程と違い子をからかう父親のものからアルフレッド公爵へと変えていた。







「おお~久しいな公爵殿!!」
耳をつんざく様な大声で近寄ってきたのは体格のいい男性だ。よく焼けた肌に癖のある茶色の髪、にっと笑うことで見える白い歯には一本だけ八重歯が混じっている。
「まさかあれが騎士団長オスカー・ギルバートじゃないですよね」
「そのまさかだ」
私とアルフレッドは同じように顔をしかめた。何せ私たち腹黒派にとっての天敵はすこぶる性格のいいアイザックのような人柄もしくは今目の前にいる騎士団長のような底抜けの明るい人なのだ。

アルフレッドめ、利益の為に自身の感情捨てたな。私以上にこの手のタイプは苦手そうなアルフレッドはこめかみに若干の汗をかきつつオスカーの熱い抱擁を受けている。一々距離が近いな。
「やぁ、アイリーン嬢!」
この距離でやまびこ出来そうな声を出さないで欲しい。私は動揺を顔に出さずドレスの裾を持ち一礼した。
「本日はよろしくお願いします騎士団長様」
「良い良い先日も会ったばっかりだろう」
こんな人いただろうか.......あの時は別のことに気を取られすぎて記憶が曖昧だ。そういえば人一倍私の小芝居を目にし号泣している男がいた気がする。
「先日は俺の方があまりの感涙にろくな挨拶も出来ずすまんかったな!!」
あっやっぱりこの人いたな。私が意識を遠くに向けていると駆けてくる足音が聞こえた。ふと目を向けると少年が一人オスカーにジャンプで抱きついている。
「父上~」
「おー我が息子よ、ほらお前も挨拶しなさい。彼らが名高きベーカー家のアルフレッド公爵とアイリーン嬢だ」
少年と目が合った。瞬間睨まれる。
この敵意隠さない感じ分かりやすくていいな。
最近腹黒父やヤンデレ義母に頭を悩まされていたからこういった手に取るように分かるのはありがたい。
「紹介しよう、これが我が愛息子のブラウン・ギルバートだ」


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