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ようこそベーカー家へ
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「婚約相手は聞いて驚けかの有名な」
「ギルバート家でしょう?」
アルフレッドは目を大きく張ると口元を緩めた。
「どこから聞いたんだい?」
「勘ですよ、女の勘」
「それは怖いな~」
実をいえば前世からの知識だ。アイリーン・ベーカーにはブラウン・ギルバートという婚約者がいたらしい事実を郁から何度も聞かされていたから。アイリーンとギルバート、婚約者同士でありながら犬猿の仲だったらしい二人が出会った時期までは把握していなかったけれどこんなに早い段階とは予想外だ。
「先日のパーティで君が涙ぐましい闘病生活での出来事、そしてそこに生まれた家族愛を謳って聞かせただろう? あの場に居合わせたギルバート騎士団長が君を是非我が家にと申し出があったんだ」
あの口からでまかせ事件か。そんな事になるなら馬鹿正直に「私実は母親と仲睦まじく暮らしてたんですが、父親に無理やり拉致られて.......ぶっちゃけ帰りたいんですよね~」とでも零しておけばよかった。ついでに騎士団長手ずからアルフレッドを始末してもらえれば、ちっやらかしたな。
「おめでとうアイリーン、三日後に顔合わせがあるから楽しみにしておくといい」
「また急な」
「君の気が代わっていつ家を飛び出すか気が気でないんだよ」
だからって部屋にいつまでも鉄格子つけるな変態。私の心の声なんて聞こえちゃいないアルフレッドは気分よく部屋から出ていった。あの男が小指をぶつけることを祈る。
しばらくして今度は控えめなノック音が部屋に響く。
「あ、アイリ? 入ってもいいかい」
「どうぞお兄様」
こっちは癒されるな~あの二人本当に親子か?
「どうされましたかお兄様」
「アイリがうちに来てもう数日立つのにまだ邸内の案内してなかっただろう? これから時間があればどうかなって」
時間なら余計なぐらいある。私は二つ返事で兄の提案に乗っかり、ベーカー家を案内してもらうことになった。とりあえず気晴らしくらいにはなるだろう。
ベーカー家の造りは入り組んでいる。玄関に入ってすぐ玄関ホール、広間と続く空間が広がり左右に別れ幾つもの部屋が宛てがわれている。主に使われるのは応接間、食堂室、図書室、後はそれぞれの個室といったところか。一階は他人の出入りが許された社交場としての扱いで二階がプライベート空間といった具合だ。そして別棟には使用人らの住まいがある。
こうして改めてみると私の部屋は異様だ。何がおかしいかといえば隣接する部屋の壁を壊した造りになっているのだ、まるで最初から誰かをここに住まわせる気でいたような。
アルフレッドはいつから私の存在に気がついていたのだろう、そういえばクラリスとアルフレッドそしてリリアンの関係性については詳しく知らない。アルフレッドはあの調子だしリリアンからは聞けそうもない、深まるだけの謎に頭を悩ませているとアイザックがこちらをうかがってきた。
「アイリ?」
「大丈夫です、久しぶりに動いたので」
前世では忘れかけていたが本来人間は動いていないと身体が鈍るんだった。たまには籠から出さないと鳥だって羽を広げなくなってしまうのだ。
「今日のこと、お父様には」
「許可を取ってある」
なら多少歩き回ったところで何も言われないだろう。
「ほらおいでアイリ、君に見せたいものがあるんだ」
アイザックに促されるまま歩くと庭園に着いた。色とりどりの花々が美しく咲き乱れている。
「これは、凄いですね」
思わず感嘆が零れ落ちた私にアイザックが微笑む。
「お母様がここは特にお気に入りでね、力を入れて手入れしてるんだ」
「リリアン様が?」
「ここはその.......お父様がお母様に結婚を申し込んだ場所なんだよ」
リリアンが全てをアルフレッドに捧げると誓った思い出深い場所。そんな所に。
「私が来てもよいのでしょうか」
リリアンからすれば聖域だ。憎むべき相手が踏み入ること自体嫌がりそうなものだが。
「僕が君に見せたかったんだ」
アイザックは長い睫毛を落とし、目をふせた。
「お母様が君にしたことは決して許されないことだろう、僕からも許してくれなんて言わない。けどお母様にもこのような花や草木を愛でる心があることは知っておいて欲しくて」
決して恨みたくて恨んでいるわけじゃない、そう伝えたかったのだろう。
「私はリリアン様を憎んでも怒ってもいませんよ」
次会った時にどうか殺さないでねと願うぐらいだ。私の恨みは全てアルフレッドただ一人に注がれている。
「あの方の想いを察すれば恨むことなど出来ません」
怖いといえば怖いけれど。
アイザックは私の返答にそうか! と喜んだ。
「お母様もアイリも僕にとっては大切な人だから、叶うなら二人が憎み合わずにすんで欲しい」
そんな優しい少年の願いはゲーム内で何の変化ももたらさなかった。彼は彼自身を愛してもらう力はあれど、誰かを愛してくれと惑わす手段を知らないんだ。
アイザックは庭園に一歩、大きく足を踏み出したかと思えば私を振り向いて両手を差し伸べた。
「ようこそアイリーン・ベーカー、僕の妹よ。さあこっちにおいで」
この少年の柔らかな笑みが後にアイリーンへ訪れる障害の数々を立ち向かう勇気になるのか、障害そのものになるのか、もうすっかり絆されかけている私は半端な未来など選べない。
アイザックの手を取ったことをこの先後悔するかもしれない、そんな不安が過ぎる中でも彼の温もりだけが確かな安らぎだった。
「ギルバート家でしょう?」
アルフレッドは目を大きく張ると口元を緩めた。
「どこから聞いたんだい?」
「勘ですよ、女の勘」
「それは怖いな~」
実をいえば前世からの知識だ。アイリーン・ベーカーにはブラウン・ギルバートという婚約者がいたらしい事実を郁から何度も聞かされていたから。アイリーンとギルバート、婚約者同士でありながら犬猿の仲だったらしい二人が出会った時期までは把握していなかったけれどこんなに早い段階とは予想外だ。
「先日のパーティで君が涙ぐましい闘病生活での出来事、そしてそこに生まれた家族愛を謳って聞かせただろう? あの場に居合わせたギルバート騎士団長が君を是非我が家にと申し出があったんだ」
あの口からでまかせ事件か。そんな事になるなら馬鹿正直に「私実は母親と仲睦まじく暮らしてたんですが、父親に無理やり拉致られて.......ぶっちゃけ帰りたいんですよね~」とでも零しておけばよかった。ついでに騎士団長手ずからアルフレッドを始末してもらえれば、ちっやらかしたな。
「おめでとうアイリーン、三日後に顔合わせがあるから楽しみにしておくといい」
「また急な」
「君の気が代わっていつ家を飛び出すか気が気でないんだよ」
だからって部屋にいつまでも鉄格子つけるな変態。私の心の声なんて聞こえちゃいないアルフレッドは気分よく部屋から出ていった。あの男が小指をぶつけることを祈る。
しばらくして今度は控えめなノック音が部屋に響く。
「あ、アイリ? 入ってもいいかい」
「どうぞお兄様」
こっちは癒されるな~あの二人本当に親子か?
「どうされましたかお兄様」
「アイリがうちに来てもう数日立つのにまだ邸内の案内してなかっただろう? これから時間があればどうかなって」
時間なら余計なぐらいある。私は二つ返事で兄の提案に乗っかり、ベーカー家を案内してもらうことになった。とりあえず気晴らしくらいにはなるだろう。
ベーカー家の造りは入り組んでいる。玄関に入ってすぐ玄関ホール、広間と続く空間が広がり左右に別れ幾つもの部屋が宛てがわれている。主に使われるのは応接間、食堂室、図書室、後はそれぞれの個室といったところか。一階は他人の出入りが許された社交場としての扱いで二階がプライベート空間といった具合だ。そして別棟には使用人らの住まいがある。
こうして改めてみると私の部屋は異様だ。何がおかしいかといえば隣接する部屋の壁を壊した造りになっているのだ、まるで最初から誰かをここに住まわせる気でいたような。
アルフレッドはいつから私の存在に気がついていたのだろう、そういえばクラリスとアルフレッドそしてリリアンの関係性については詳しく知らない。アルフレッドはあの調子だしリリアンからは聞けそうもない、深まるだけの謎に頭を悩ませているとアイザックがこちらをうかがってきた。
「アイリ?」
「大丈夫です、久しぶりに動いたので」
前世では忘れかけていたが本来人間は動いていないと身体が鈍るんだった。たまには籠から出さないと鳥だって羽を広げなくなってしまうのだ。
「今日のこと、お父様には」
「許可を取ってある」
なら多少歩き回ったところで何も言われないだろう。
「ほらおいでアイリ、君に見せたいものがあるんだ」
アイザックに促されるまま歩くと庭園に着いた。色とりどりの花々が美しく咲き乱れている。
「これは、凄いですね」
思わず感嘆が零れ落ちた私にアイザックが微笑む。
「お母様がここは特にお気に入りでね、力を入れて手入れしてるんだ」
「リリアン様が?」
「ここはその.......お父様がお母様に結婚を申し込んだ場所なんだよ」
リリアンが全てをアルフレッドに捧げると誓った思い出深い場所。そんな所に。
「私が来てもよいのでしょうか」
リリアンからすれば聖域だ。憎むべき相手が踏み入ること自体嫌がりそうなものだが。
「僕が君に見せたかったんだ」
アイザックは長い睫毛を落とし、目をふせた。
「お母様が君にしたことは決して許されないことだろう、僕からも許してくれなんて言わない。けどお母様にもこのような花や草木を愛でる心があることは知っておいて欲しくて」
決して恨みたくて恨んでいるわけじゃない、そう伝えたかったのだろう。
「私はリリアン様を憎んでも怒ってもいませんよ」
次会った時にどうか殺さないでねと願うぐらいだ。私の恨みは全てアルフレッドただ一人に注がれている。
「あの方の想いを察すれば恨むことなど出来ません」
怖いといえば怖いけれど。
アイザックは私の返答にそうか! と喜んだ。
「お母様もアイリも僕にとっては大切な人だから、叶うなら二人が憎み合わずにすんで欲しい」
そんな優しい少年の願いはゲーム内で何の変化ももたらさなかった。彼は彼自身を愛してもらう力はあれど、誰かを愛してくれと惑わす手段を知らないんだ。
アイザックは庭園に一歩、大きく足を踏み出したかと思えば私を振り向いて両手を差し伸べた。
「ようこそアイリーン・ベーカー、僕の妹よ。さあこっちにおいで」
この少年の柔らかな笑みが後にアイリーンへ訪れる障害の数々を立ち向かう勇気になるのか、障害そのものになるのか、もうすっかり絆されかけている私は半端な未来など選べない。
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