やさぐれ令嬢は高らかに笑う

どてら

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アイザック

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 ベーカー家お抱えの専門医が私の容態を細かく確認し、大丈夫だと判断するまでアイザックは私についていた。実母のことも心配なはずなのに私の傍で顔を青ざめながら医師に「本当に大丈夫だろうか」「女性の力とはいえかなり強く掴まれていたはずだ」「こ、この跡は残ってしまうのか?」等と何度も聞いていた。
仮にも次期公爵がこうも動揺していいのかと心中で苦笑しつつ私はその様子を見守っていた。

「先程はお母様が本当にすまなかった」
医師が帰った後、人払いをし二人きりになった途端深く頭を下げるアイザック。
「顔を上げてください」
そうも凹まれては何も言えない。
「お母様はその、ほんの少しだけ情緒が不安定なんだ。だから君への発言も全部が全部本心ではなくて」
「もう、いいのです」
そんな嘘を優しい彼について欲しくなかった。
「よくない。よくないんだ!!」
アイザックは声を張り上げ否定した。その剣幕に私が驚くと途端に身を縮め大きな声を出してごめんね、と謝罪する。
「君のことはお父様から聞いていたんだ。君が家に来てくれた日も見ていた、けど、君の部屋へ向かうのをお母様が許してくれなくて」
数日間いざこざがあったというのは恐らくリリアン関係のことだろう。まあ夫がいきなり他所の子を連れてきて「今日からうちの子だ!」なんて宣いだしたら誰だって怒るだろう。
「君が望んで我が家に来たわけじゃないことも知っている.......それでも僕は君が来るのを楽しみにしてたんだ」
その言葉に嘘はなさそうだ。アイザックは父親と違ってその手の嘘をつけないらしい、顔立ちが似ているだけ反応に困るな。
「私は貴方の言った通り好き好んでベーカー家こんなところに来た訳ではありません。それでも」
クラリスは今、アルフレッドの監視下にある。少なくとも私が大人しくしていれば彼女は治療を受けられるのだ。
「私は誰が何と言おうとここから出ていくわけには行きません」
きっぱりとそう告げればアイザックは一瞬、考える仕草を見せ私に言った。
「僕は君を歓迎するよアイリーン」
同じ台詞を吐いても親子でどうしてこう違うのだ。アルフレッドの時みたいな嘘くささは消え、そこにはただ誠実な思いしか感じ取れなかった。
「ありがとうございます、アイザック様」
「その呼び方もどうにかならないかな?」
様付けが不快だったのか? ならアイザック殿、アイザックさん、どれも他人行儀だな。
「お兄様では駄目かい?」
まん丸の瞳を潤ませながらそう言われたら断れない、私は渋々頷いた。
「僕の方もアイリって呼んでも?」
「それは流石に.......分かりましたよ二人きりの時のみでお願いします」
だからそう見つめないで欲しい。

 アイザック・ベーカーは作中一、モテる。
 これは郁の言葉だがあながち間違えじゃないかもしれない。この劣悪な環境で一人優しく接してくれる天使をアイリーンがこよなく愛しまた執着したのにも頷けた。
よくあのアルフレッドの血を引きながらこんな善良な少年に育ったものだ。
アイザックと主人公が結ばれるエンディングは三つ。アイリーンの追放エンド、または処刑エンド、そして二人が駆け落ちするトュルーエンドだ。
だがここに来て私は疑問を抱く。最後のトュルーエンドで二人は小さな家に肌を寄せ合いこれからの幸せを誓うらしいが、断言しよう無理だと。
私とクラリスを五年越しに見つけてきたアルフレッドを放置して二人だけベーカー家捨てて逃げるなんて所業普通に考えて欲しい、不可能だ。アルフレッドならその後の二人を引き裂いてアイザックには「彼女の幸せを思うなら別れろ」とか何とか言いくるめ、主人公には「アイザックのことはこれで忘れなさい」と手切れ金渡して終わらせそうだ。権力と地位、手にある資産全てを駆使してベーカー家を存続させようとするのが私の知るアルフレッド・ベーカーなのだからその最も重要な駒を簡単に手放すわけが無い。

自ずと私が現時点で選択出来るエンドは処刑エンド駆け落ちエンドを除外したものになる。
追放されるか、主人公をアイザック以外の誰かとくっつけるかだ。

個人的に重要視したいのは私が追放されるエンド。ベーカーの名を剥奪され国を追われるがその後は行方知らず。
もし、その追放エンドとやらまでにクラリスを見つけ出し彼女をアルフレッドとかいう魔の手から解放していれば、私はクラリスともう一度家族としてやっていけるんじゃないか?
無論そう簡単にはいかないだろう、私にはアルフレッドと交わした悪魔の盟約がある。その盟約には私が家を出される時の条件は無かった、つまりどうなるのか分からないのだ。
いっそアルフレッドを始末するか?
クラリスは解放され私はハッピー。
リリアンも浮気性な夫がいなくてハッピー(?)。
アイザックも好きな人と結ばれてハッピー。
おお~皆幸せだ、早いところあの元凶をどうにかせねば。
「よし、アルフレッドを殺そう」
「随分物騒な計画だね。お父様泣いちゃうよ?」
気味の悪い笑い声とともに入ってきたのは我が父アルフレッドだ。聞かれていたのか、やっぱり殺しておこう。
「部屋に入る時はノックがマナーでは?」
「喜ばしい事があって一刻も早く伝えたかったんだ、許しておくれ」
「ならまずこうべを垂れてください」
「それでなんだがアイリーン」
私の話なんて聞く耳を持たずアルフレッドは両手を打って微笑んだ。嫌な予感しかしない。





「君の婚約が決まったよ」

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