やさぐれ令嬢は高らかに笑う

どてら

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ギルバート家盗難事件⑸

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 事件は夕食後に起こった。私とブラウンが暇つぶしに邸内を歩いていると、慌てた様子のハワードと出くわしたのだ。
「せんせ? どうしたんだよそんな真っ青な顔で」
「.......れた」
「はい?」
「オスカー様が用意されていた結婚記念パーティのプレゼントが盗まれたんだ!!」
「!!」
私とブラウンは顔を見合わせた。そういえば先程から使用人達に落ち着きがない。
「オスカー様はそれを」
「あぁ知っている。だがナターシャ様の耳までは届いてねぇ」
そもそもプレゼントはサプライズのつもりだったのだろう。オスカーは騒ぎを大きくしたくないのか皆に口止めしているらしい。それを聞いたブラウンがわなわなと震え出した。
「どうしよう.......俺が勝手に取り出したりしたから」
自分が昼間にオスカーの目を盗んでプレゼントを見せようとした事と、今回の盗難を結びつけてしまったようだ。
「ブラウン様のせいじゃありません。それは私がこの目で見ています」
あの時オスカーの手には確かにプレゼントがあった。盗まれたのは私とブラウンが退出し、オスカーが出掛けたあとということになる。
「.......失礼ながらハワード先生、貴方本日の昼間は何をしていらっしゃいましたか?」
「アイリーン! まさかせんせーを疑ってるのか!?」
「疑惑を晴らして差し上げたいと願った上です。答えて頂けますか」
私は真っ直ぐハワードと視線を合わせた。彼の瞳の奥にやましさがないのなら、ハワードは一度も逸らさず言葉すら濁さずに答える。
「俺は昼間は使用人等と一緒に、オスカー様が帰宅された後はオスカー様の傍にいた。使用人の皆に聞いたっていい。俺はやっていない」
事実だろう。昼間私とブラウンは彼が使用人と一緒に居るのを見ている。私はありがとうございますと頷いてから考え込む仕草を見せた。
「もっと疑われるもんだと思ってたがな」
「先程は嫌な物言いをしましたが、貴方が犯人でない確証はあるので」
「何か分かったのかアイリーン!?」
「今は言えませんよ」
少なくともブラウンの前では言い出せない。
「.......オスカー様はどういったわけか事を荒立てたくないようだ」
「随分身内思いなんですね」
「それもあるが。犯人が自ら自供するのを待つつもりらしい」
それではパーティに間に合わないのでは?
「これは最終手段だと思っていたんですけど」
私は声をひそめながらハワードに伝える。
「お父様が贔屓にしてる宝石商がいるんです、今から急ぎで通達を出せばこちらに来て下さるかもしれません」
「アルフレッド公のか?」
私がこの家に留まるのは明日までだ。それには間に合わないだろうがパーティまでならギリギリ間に合うかもしれない。ともかくプレゼントなしで迎えるよりはずっといいだろう。

アルフレッドはよくリリアンの機嫌を取る為に宝石を買い与えていたのがこんなところで役立つとは。あの宝石商なら信用できるし大丈夫だ、というかアルフレッド騙そうとする狸がいたらただの馬鹿だろう。
「オスカー様に話を聞いてみる、ありがとうお嬢」
「私にできるのはこれくらいですから」
「一先ず俺はオスカー様に伝えてくる、ブラウンとお嬢はもう部屋で休んでろ」
制御の効かない子供に好き勝手動かれては堪らないだろう。私は黙って頷いたがブラウンの方は納得できない顔つきで不貞腐れている。
「俺に出来ることはないのか」
「ないな」
無慈悲にも言い放つハワード。流石ブラウンの家庭教師なだけはある、伯爵家の息子なんて肩書き彼にとっては何にもならないんだろうな。
「ブラウン様、今は大人しく下がりましょう」
ブラウンの手を引き彼を部屋へと連れていく。肩を落として自分には何も出来ないのかなんて嘆く少年の背中は少し寂しそうに見えた。私はため息をついて呆れる。まだ子供だから仕方ないなんて彼に言っても聞きやしないだろう。
部屋につくと私は口を開いてとある提案をしてみた。




「結婚記念パーティ、ブラウン様は何かお二人にプレゼントなさらないんですか?」
「俺が? 考えたことなかったな」
聞けば二人は毎年仲睦まじくイチャイチャしているのでブラウンは彼なりに気を使って二人きりの時間を作れるようにしてるらしい。
「なら今年はブラウン様からも贈られてはどうですか? きっと喜ばれますよ」
「でも俺は父上のように高価なものが用意できないぞ?」
「気持ちさえこもっていればなんでもいいんですよ」
子煩悩なオスカーとナターシャならブラウンが摘んできたその辺の草でも喜びそうだ。
「俺にもできるだろうか」
「大丈夫ですよきっと」
励まし方があっているかは分からないけれど、私はブラウンの肩に手を置いて親指を立てる。うん、なんとかなりそうだ。
「ならさっそく贈り物を何にするか考えるか! 手伝ってくれアイリーン」
「えっ私ですか」
言っとくが人の喜ぶ物とか知らないからな。
「お前と一緒に選んだって知ればきっと母上が喜ぶ」
「それは.......ありそうですね」
何だかんだ私より家族のことは分かっているらしい。そんな姿が微笑ましくてブラウンが寝落ちするまで二人で意見を出し合うことになった。


















 夜中、私はギルバート邸を物音を立てないよう慎重に歩いていく。目的の部屋を訪れてノックを数回すれば、彼は怪訝な顔つきで出てきてくれた。
「こんな時間に何の用だ、お嬢」
「大切なお話があるので部屋に入れて頂けませんか?」
ハワードは訝しげに眉をひそめながらも私を部屋へ招き入れてくれた。書籍が散らばったいかにも学者の部屋だ。踏まないよう気をつけてハワードに勧められるまま椅子へと腰を下ろした。
「それで話とは?」
「これを返そうと思いましてね」
私は懐からジュエリーケースを取り出すと、ハワードの前に突き出した。






「.......お前が盗んでたのか」
「手伝ったと言ってください」

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