やさぐれ令嬢は高らかに笑う

どてら

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ギルバート家盗難事件⑷

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 ギルバート家は我が家と雰囲気からして全く違う。使用人たちは和気あいあいと仕事に取り組み、家の中は常に明るい。ベーカー家とは違いすぎるからこそ妙に引っかかる。
「アイリーン、明日は何かしたいことあるか?」
したいことか~剣術やってみたいけどアルフレッドが許してくれないだろうし。
「ギルバート家の歴史と領地分布、経営状況が分かる資料に目を通したいですね」
「.......お前の言うことはたまにわけが分からないぞ」
冗談ですよ、と笑い飛ばす。
「ブラウン様のしたいことで結構ですよ」
「ならお前に見せたいものがあるんだ!! 明日は父上が居ないからちょうどいい」
「オスカー様何処かにお出かけになるんですか?」
「今度結婚記念日のパーティがあるって言っただろ? 父上は見繕ってもらった服を受け取りに行くらしい」
結構気合い入れてるな。ベーカー家の夫婦は結婚記念日どころか毎日殺伐としているけど。
「仲がよろしい様子で羨ましいです」
「お前のところは違うのか?」
少し眉を下げながらブラウンが尋ねてきた。この優しい少年は彼なりに気を遣っているのだろう。
「私とアイザックお兄様は仲良いですよ」
何を答えても悲しませそうなので正直に、かつ無難な言葉を口にした。
「それは知ってる。義兄上も同じようなこと言っていた」
「えっ、お兄様が?」
話したとすればアイザックの誕生日パーティの時だろう。自分の名前が上がるとは思っていたが内容についてまでは聞いてない。
「僕の自慢の妹だってさ。良かったなアイリーン.......どうかしたのか?」

「いえ。ただ分からなくて」
こういう時どう反応すればいいのか分からない。疎まれていた前世を思えば飛び跳ねるほど喜ばしいことなのに、驚きと安堵そしてむず痒さだけが疼いている。
「お前普段すましてるのに照れるの下手くそだな」
ブラウンに笑われてますます反応しづらくなった、どうしてくれよう。
「.......照れてません」
「顔が赤いぞ? 褒められたら喜んでいいんだ、何を恥ずかしがる」
幼子を諭すように言われる、いつもと立場が逆だな。話を逸らしたくてわざとらしい咳払いをはさみ、話題を探した。
「それより私に見せたいものとは?」
「それは明日のお楽しみだ!」
ブラウンの無邪気な笑顔がいやに眩しく感じる。













「見せたいものってこれですか」
「おう! すごく綺麗だろう?」
「こんな高価なもの取り出して後で怒られても知りませんよ」
ブラウンが私に見せたいといい連れてきたのはオスカー・ギルバートの書斎。勝手に入ったら怒られそうだ、やんちゃなブラウンは好奇心に任せて私を招き入れたが後のこと考えてないよなこいつ。

 彼の手元に光るのはサファイアのブローチだ。花の形を模していて煌びやかな装飾品に目がくらみそうになる。
「父上が今度のパーティで母上にプレゼントするらしい」
めちゃくちゃ大事な物じゃないか。冷や汗をかきながらブラウンに注意しようと口を開く。
「そういう事はあまりしない方が」
「女性は皆光り物が好きだって父上が言っていたんだ。だからアイリーンも喜ぶと思って」
「.......」
怒りづらい。私はポンッと軽く小突くことしか出来なかった。
「次はしない方がいいですよ」
素直に頷くブラウン。好奇心旺盛なのはいい事だよな、多分。




「こんな所をオスカー様に見られたら怒られてしまいます」
「俺が何だって?」
ブラウンと私は二人して心臓が飛び跳ねるほど驚いた。後ろにはにこやかな笑みを浮かべているオスカーが立っていた。
「ち、父上どうして」
「所用を思い出して一度戻って来たんだ。それでブラウン、お前は何してるんだ?」
あぁいたずらっ子がイタズラを見つけられた時ってこんなに慌てふためくものなんだな~。
「申し訳ございませんオスカー様、私がブラウン様に無理を言って頼んだのです」
「違う!! 俺が勝手に連れてきたんだ」
私のせいにしておけば最小限の小言で済むものを。どこまでも馬鹿正直なブラウンに頬が緩みそうになるのを必死で堪えた。
「ったく何をやってるんだ!! と、叱りたいところだが実に素直でよろしい! 次からは気をつけるんだぞ」
「父上~!!」
やはりオスカーはブラウンに甘いな。子煩悩なオスカーは息子の手からプレゼントを回収すると「今度はイタズラされないよう隠しておくか」とこちらもいたずらっ子みたいに笑ってみせた。そして私たちの手が届かない位置にプレゼントを隠すようにして保管する。


「怒られなくて良かったですね」
「流石父上だ。心が広い」
父親も父親なら子も子だな。仲のよすぎる二人に苦笑しつつオスカーが出掛けていくのを見送った。


オスカーから特にお咎めもなく私たちは安堵しながら午後の時間を潰す。不意に邸内が騒がしくなっているのが気にかかり耳をすました。
「.......だろうか」
あれ? ハワードの声じゃないか。一体誰と話しているんだろう。声の方に忍び足で向かうと、ハワードは数名の使用人たちと深刻そうな顔で立ち話していた。
「何やってるんだあいつら」
「さぁ?」
ハワードは随分思い詰めた顔をしている。

「~しましょうか。オスカー様が.......」
「とは言っても肝心のものが、ん? そこに誰かいるのか!?」
ビクリと肩を震わせる。
「せ、せんせ~」
「なんだブラウンとお嬢じゃねぇか。盗み聞きとはタチが悪いな」
「何かあった様子ですがどうされました?」
ハワードは私の質問には答えない。
「ほら、子供は外で遊んできな」 
「せんせー何かあったなら俺らが力になるぜ?」
「いいから。大丈夫だっての」
ブラウンをわざとらしく邪険に扱っている。引っかかるなこの様子。
「せんせー何か焦ってたな」

ハワードに追いやられてしょぼくれながらブラウンが呟いた。焦る? 何を焦っていたんだろう。

一つ一つ考えられる可能性を頭の中で探っていく。














「ルイ」
「どうかされましたか?」
「お願いがあるんです、頼まれてくれますか」
これは護衛の業務外だ。
「仰せのままに」
間違っていたら大事になるが、手段は選んでいられない。

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