やさぐれ令嬢は高らかに笑う

どてら

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悪役令嬢は密かに微笑んだ

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  オスカー・ギルバートが家を空ける隙をついて、つまりオスカーが結婚記念パーティの服を取りに出掛けている間に使用人の誰かが書斎に忍び込みプレゼントを盗む予定だった。しかしそれは一人の純粋無垢な少年によってあっさり邪魔されてしまう。


ブラウンの行動そしてオスカーが保管場所を変えたのはハワードにとって予想外の事態だった。使用人たちと共に頭を抱えたハワードは、淡い期待を胸にもう一度チャンスをうかがう。だが二度あることは三度ある。ハワードにとってもう一つ予想外だったのは私の存在だろう。

「盗まれたって聞いた時は焦ったぜ、何せ俺らの中の誰も心当たりがねぇときた。万が一本物の窃盗犯が出た時にはどうしようかと思ったがな」
「私にとっても時間の無い賭けでしたから」
明日にはここを発つ。その前に確かめておきたかった。自分でも余裕がなかったと思う。

 ルイに頼んで盗んで貰った時、もし間違えていたらどう言い訳しようか悩んだものだ。結果的に上手くいったが苦しい賭けだったのには変わりない。次からは無茶な行動は控えよう。
「.......俺が犯人じゃねぇ確信があるって台詞、あれはお嬢自身が盗んでたからなんだな」
少し肩を落とすように呟くハワード。
「それもありますが、もっと単純な意味を込めて言いましたよ」

「そりゃ何だ?」
「ブラウン様が犯人は貴方じゃないと最初に言っていたでしょう? 彼が疑わないなら私は例え貴方が犯人だという証拠を掴んでも白だと宣言してみせます」
私はギルバート家の人間ではない。あくまでブラウンの婚約者だ。客人である私が犯人を特定するのも捌くのもそもそも権限がない、私にできるのは婚約者の意向を立てることだけ。

「ブラウンのガキ、とんでもねぇ婚約者捕まえてきたな」
この婚約がいつまで続くかは分からないけどね。
ハワードは疲れきったような顔で息を吐いた。
「オスカー様にはバレてんだろうな~」
パーティには彼の宣言した通りのプレゼントは用意できないだろう。
「周囲には盗難事件の犯人まで突き止めたがそのやむを得ない事情に涙し今回だけ見逃した懐の広い主、とでも触れ回ったらどうです?」
「その案頂き! .......でも奥様が悲しむかもしれねぇな」
「大丈夫ですよきっと」
私がほくそ笑むと疑わしそうな目で見られる。
「お嬢は未来予知も出来んのかい?」
「いや私ただの一般人なので」
それでも大丈夫なのは保証できる。
「当日までのお楽しみですね」



















──────アイリーン・ベーカー殿。この度は我が家に招いていながら内情に巻き込んでしまい大変申し訳なかった。貴殿の気遣い誠に痛み入る。愛妻のナターシャに用意したプレゼントが偽物だと知った時は正直かなり衝撃を受けたが、アルフレッド公のお墨付きと紹介された宝石商人のお陰で満足のいくプレゼントを用意することが出来た。本当にありがとう。
ハワードの妙策によって名誉は守られたが、あれも貴殿の発案だと聞いた。何から何まで今回は迷惑をかけてしまったようで申し訳ない。
パーティといえば、ブラウンが俺とナターシャ宛に手紙を書いてくれたんだ!! その場で読み上げていく息子の姿と言えば何とも立派なのもので是非貴方に見せたかったよ。あれは俺が用意しようとしていたどんなものより価値のある最高のプレゼントだ、観衆の目もそちらへ向けられた。.......まさかこれも貴方ではあるまいな? なんて変に勘ぐってしまう。とにもかくにもこれで無事今年も結婚記念日を祝えた、どうか次は貴方にも参加して欲しいと願っている。


オスカー・ギルバート。





「ギルバート騎士団長からの手紙はどうでしたか?」
「いい知らせでした。相変わらず仲良しで羨ましい限りですね」
サラからの質問に答えると読んでいた手紙を丁寧にしまった。

あのミミズ文字なブラウンが自ら手紙を書いたとなればギルバート家もとい招待客の関心はそちらに向くだろうと予想して正解だったな。お金のかからない、子供ならではあざとい手段だったがブラウンだからこそ皆感動してくれたんだろう。子供というのは立場上どうしても弱者に見られがちだがこういった方法なら使い道がありそうだ。子供って便利だな~。

「.......お嬢様、また良からぬことを考えませんか?」
「そんな疑いの目を向けないでください」
冷ややかな視線を送るサラ。彼女は私が悪巧みする度に心配してくるので仕方ないといえば仕方ないか。



「今回は結構無茶したのでしばらく休みたいですね」
アイザックと馬に乗ってどこかピクニックでも行こうか。背筋を伸ばして身体を解していると、ふいにルイが肩に手を置いてきた。
「お嬢様、自分が揉んで差し上げますよ」
「貴方不器用でしょ。サラに頼みます」
「若いのにこんなガチガチで.......お労しい」
人を老人みたいに言わないで欲しい。
「今回のことで一つ疑問なんですが」
サラが不思議そうに首を傾げている。彼女はルイからの報告でギルバート家で起きた一件を把握済みらしい。また余計な心配をかけるなと怒られるのかな?
「どうしてお嬢様が動いたんですか?」
「というと?」
「アイザック様関連ならまだしも今回はギルバート家の問題でした。お嬢様が何かする必要ありませんでしたよね?」
私が他者の揉め事には必要最低限しか首を突っ込まない質だと知っているからこそ疑問に思ったのだろう。
「.......私もよく分からないんですよね」
異様に気分が良かったことだけは覚えている。ギルバート家の問題だから関係ないと突っぱねることも出来たのにそうしなかったのは紛れもなく私自身の判断だ。

 二人して頭を悩ませているとルイがいつもと変わらないトーンで発言した。
「簡単ですよ。お嬢様はブラウン様に悪いヤツじゃないと言われた事が嬉しかったんです」
「何を馬鹿な」
「えっそうなんですか!? まぁまぁお嬢様にもそんな可愛らしい一面が、今日は赤飯にします?」
やめてくれ!!


 だけどルイの戯言を否定できない自分がいて、それが何だかいたたまれなく心地悪い。
「それじゃ悪役令嬢失格ですね」
零した言葉は誰にも拾われることなく落ちていったので私は密かに安堵したのだった。

 
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