やさぐれ令嬢は高らかに笑う

どてら

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ようこそワイアット家へ

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 勝負服といえばどんなものを思い浮かべるだろう。合コンなり大事な会合なり大切な場面で最も自分に対し自信の持てる装い、それが勝負服の醍醐味だと思う。なら私のこの服は勝負服ではない、自信どころか恥ずかしさしか感じないからだ。

「派手過ぎません?」
「もう遅いですよお嬢様、ついてしまいました」
遅かろうが何だろうが文句ぐらい言わせて欲しい。今日の私の装いは自分で鏡を確認しても目がチカチカして仕方なかったのだから。
ワインレッドの人目を引く華やかなカクテルドレス。いつもより丈が短い分露出が高い、間違っても幼子に着せる服じゃないだろ。
「サラは今日のパーティを合コンか何かと勘違いしてるんですかね」
「合コンとは?」
不思議な顔をするルイに何でもないと話を濁す。ルイの方もいつもの眼鏡を外し、代わりにサングラスを付けている。普段より凝った作りの執事服も相まってSPみたいになってる。どこのやくざの娘だよ本当に。

「はぁ.......」
「似合ってますよ」
「それ今の貴方が言われて嬉しい言葉ですか?」
ルイは静かに沈黙を貫いた。そして消えた。逃げたなこいつ。


 ワイアット領地で目立つものといえば大きな港があることか。外交の象徴とも言えるその港には他国の品や文化、様々な厄介事等が紛れ込んでくる。そんな想像するだけで面倒くさそうな領地を統括する切れ者、カース・ワイアットの評判は領内でも名高いものだ。

 アルフレッドも評判だけなら良い方だが彼の場合その容姿や女癖の悪さ、そして元々ベーカー家の評判が良くないことで相殺されている。それに比べればカースの噂はデキる男、切れ者、篤志家といったいかにも外交慣れした男らしいものばかり。これで対抗したら普通にアルフレッド負けるんじゃ.......いやそうはいかないのがあの大魔王か。

 

「お嬢様、考え事もよろしいですがそろそろアイザック様と合流なさらないと」 
「あっそうでしたね!! ちょっとお兄様のお姿を目に焼き付けて来ます」
馬車をバラバラにしたのは私の提案だ。貴族の子息子女が同じ馬車に居合わせていたら万が一の場合危ないだろう。守る側からすれば馬車一つにした方が守りやすいかもしれないけど、生憎私はベーカー家の警備を信用してない。妾の子の私といるよりもアイザックは一人の方が周囲から大事にされるのだ。勿論、そんな意図をアイザックには伝えていないけれど。

馬車から降りればアイザックが先に待っていてくれた。
「アイリーン、綺麗だ」
そんな結婚式に娘を見る母親みたいな台詞吐かれても.......めちゃくちゃ嬉しいけどさ。
アイザックの服装は私が頼んだ通り白をベースとした繊細なレース入りのタキシードになっている。うん、天使だな。

「さぁ、行こうか」
差し出されたアイザックの手を取り仲睦まじくワイアット家へと足を踏み入れる。


「アイザックお兄様はカイス様にお会いしたことありますか?」
「いや僕も実際に顔を合わせるのは初めてだ。凄く優しい少年だと聞いているから楽しみだね」
そんな微笑まれたら敵打ちに来た私の方が場違いじゃないか?

ホールには既に多くの令嬢たちが揃っている。今回の招待客の大多数が女性で男性はアイザックとカイスだけらしい。何のハーレム狙ってるんだろう。
「アイリーン、この魚介料理は見たことないね!」
「流石海産業が盛んなだけあります。あとで頂きましょう」
魚だ魚!! はしゃぐ気持ちを落ち着けて唾を飲み込んだ。

「やぁ、よく来てくれたね」
並べられた食事に目を向けていればいつの間にか近づいてきた男性に声をかけられる。背の高い、少々横に大きな体格。人の良さそうな笑みを嫌味なく浮かべ、垂れ目から除くアメジスト色が鮮やかだ。
「ようこそワイアット家へ。私が当主のカース・ワイアットだ」
意外に大柄なんだ。.......アルフレッドこの人と同じくらい足遅いのか。変なことに頭が回っている私を置いてアイザックはカースに挨拶をしている。
そういえば息子の方は何処にいるんだろう? 辺りを見渡してみれば異様な人だかりが出来ている、絶対あそこじゃん近寄りたくないな~。そんな人混みをかき分けて一人の少年が姿を見せた。丸っこい頭、アメジストの瞳は爛々と輝きこちらをまるで捕らえたように見ている。次の瞬間人懐っこい笑顔で私たちの元に駆け寄ってきた。
「アイリーン様とアイザック様ですよね!? ぼ、ボクお二人にずっと会ってみたくって」
たどたどしい物言いは初々しさを感じさせる。
「カイス・ワイアットです。初めまして」
笑顔に点数があるなら百点だろう。そんなカイスの言葉を真に受けたのかアイザックは目を見開いて喜んだ。
「アイザック・ベーカーです、嬉しいなぁ~僕も君と会ってみたかったんだ。アイリーンには招待状来てたらしいけど僕には中々来なかったからもしかしてお邪魔かなって思ってて.......でも会いたいなんて言われたらちょっと恥ずかしいな~」
残念、うちのお兄様の笑顔は百万点なんだよな。思わぬ反応にたじろいだカイスだったが完璧な笑顔を崩さないまま話の輪に入ってくる。














この子は危険だ、そんな直感が私の中に過ぎった。


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