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十話
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「主人が帰ったぞ!! 出迎えろケイト、そして元気かノア!? 俺が帰ったからにはもう安心だ、ほら怯えてないで出てこい、奥ゆかしい奴だなぁ全く」
帰ってきた途端連撃のように飛び交う意味の無い戯言に俺は目眩がした。
とうとうセオ・アーノルドが帰ってきてしまったらしい。
セオ・アーノルド辺境伯、またの名をゾルディアの狂犬。
手にした栄光は数知れず。幾千の戦いにおいて圧倒的な勝利を国に捧げたまさに知将。貴族の階級にありながら前線を駆け巡り敵将の首を持って帰った様から狂犬と呼ばれた男。
俺がエレイナの兵器なら彼はゾルディアの誇りだろう。剣を交えたのは一度だけだったがその腕前は体感済みだ。
そんな狂犬様は何故か敵である死神にご熱心で命を救われ屋敷に匿われている。笑えない冗談きしか聞こえなかった。
「ノア、元気にしてたか? 部屋まで行くつもりだったがまさかお前さんから出迎えてくれるなんて.......」
「違う」
昨日ようやくゾルディア国に監獄される以前の体重に戻った俺は邸内なら自由に歩いていい許可を得た。玄関先に居たのは決してアーノルドを出迎えようとしたわけではなく単に久方ぶりの外の空気を吸おうとしただけである。
「相変わらず細っこいなぁ~ケイトこいつの具合はどうだ?」
「ノアくんなら概ね健康ですよ。戦時中に負ったであろう生傷の方がまだ残っていますが」
「生傷? あぁこれか」
アーノルドが不用意に俺の頬へ触れようとしてきたので咄嗟に払い除けた。乾いた音が場を包む。
「っ、すみません不快だったので」
「ちょっとは包み隠せよな!?」
アーノルドが触ろうとしてきた傷は他でもない彼につけられた傷だ。あの場で俺は下手すれば斬られていた、そんな緊張感が今でも胸につかえている。
「セクハラですよ旦那様。ノアくんが嫌がっています」
「ちぇっ.......ん? ノアくん? お前らいつの間にそんな名前で呼ぶような関係に」
「ケイトさんにはお世話になったので」
「ノアくん見てるとうちの弟達思い出すんですよ~」
アーノルドは何故か俺たち二人を交互に見てから口を尖らせてケイトさんに耳打ちした。
「おい何でお前まで名前呼びしてんだよ」
「旦那様冷静にお考え下さい、この先ノアくんが旦那様と同じ苗字なった時の為に今から慣れる必要があるでしょう?」
「そうか!! 流石だなケイト、お前さんはよく分かってる」
詳しくは聞き取れないけれどどうやらケイトさんが褒められているらしい。急に上機嫌になったアーノルドが俺を見返しいつもの尊大な態度で口を開く。
「ノア後で俺の部屋に来い。家主命令だ!!」
「ちっ、承知しました」
「あれ今舌打ちしなかったか?」
「気のせいですよ。ノアくんとってもいい子ですし」
いい子、では残念ながらないが置いてもらっている身としては不本意ながらもアーノルドの命に従わなければならない。
仕方なく俺は簡単なティーセットを手にアーノルドの部屋を訪れることになった。
「アーノルド、俺だ」
「よぉ早く入れよ」
返事があったのを確認してから戸を開ける。だだっ広い造りの部屋には必要最低限の家具と散らばった買い物袋。服や靴等の衣装が呆れる程豊富な種類を揃えられている。
「ノアに似合うと思って王都で豪遊してきた、好きな物を選べ」
「馬鹿なのか、貴方は」
どうして俺に物を買い与えるんだ。
「悪いがそんな高価なものを理由もなく頂けない」
「ノアの為に買ってきたんだぜ? お前さんがこれからここで生活するのに必要だと思って」
「俺はやはりここで暮らすことになるのか?」
怪我も治ったことだし売り飛ばされるならそろそろだと思う。
「まだ信じてなかったのかよ」
少ししょげた様な物言いになるアーノルド。子供かこいつ。
「悪いが俺にはお前の言動が何ひとつ理解出来ない、俺を攫ったと思えば領地を留守にして随分呑気だな」
俺がその気になればこの屋敷にいる人間に危害を加えることだって出来たのだ。怪我をしていた、捕虜生活で弱っていたとはいえ一般人に負ける程腕は鈍っていない。それをこいつは信用の一言で済まし俺から目を離した。逃げられる可能性も背後を狙われる可能性も危惧せずだ。
ふざけるな、考えれば考える程怒りが湧いてくる。
「それは仕方なかったんだよ。うるせぇ貴族連中にお前引き取るの認めさせんのは結構骨が折れてなぁ」
そうだ、その手品みたいな話も聞いておかなくては。
「アーノルドお前はどうやって俺の死刑を取り止めさせたんだ?」
帰ってきた途端連撃のように飛び交う意味の無い戯言に俺は目眩がした。
とうとうセオ・アーノルドが帰ってきてしまったらしい。
セオ・アーノルド辺境伯、またの名をゾルディアの狂犬。
手にした栄光は数知れず。幾千の戦いにおいて圧倒的な勝利を国に捧げたまさに知将。貴族の階級にありながら前線を駆け巡り敵将の首を持って帰った様から狂犬と呼ばれた男。
俺がエレイナの兵器なら彼はゾルディアの誇りだろう。剣を交えたのは一度だけだったがその腕前は体感済みだ。
そんな狂犬様は何故か敵である死神にご熱心で命を救われ屋敷に匿われている。笑えない冗談きしか聞こえなかった。
「ノア、元気にしてたか? 部屋まで行くつもりだったがまさかお前さんから出迎えてくれるなんて.......」
「違う」
昨日ようやくゾルディア国に監獄される以前の体重に戻った俺は邸内なら自由に歩いていい許可を得た。玄関先に居たのは決してアーノルドを出迎えようとしたわけではなく単に久方ぶりの外の空気を吸おうとしただけである。
「相変わらず細っこいなぁ~ケイトこいつの具合はどうだ?」
「ノアくんなら概ね健康ですよ。戦時中に負ったであろう生傷の方がまだ残っていますが」
「生傷? あぁこれか」
アーノルドが不用意に俺の頬へ触れようとしてきたので咄嗟に払い除けた。乾いた音が場を包む。
「っ、すみません不快だったので」
「ちょっとは包み隠せよな!?」
アーノルドが触ろうとしてきた傷は他でもない彼につけられた傷だ。あの場で俺は下手すれば斬られていた、そんな緊張感が今でも胸につかえている。
「セクハラですよ旦那様。ノアくんが嫌がっています」
「ちぇっ.......ん? ノアくん? お前らいつの間にそんな名前で呼ぶような関係に」
「ケイトさんにはお世話になったので」
「ノアくん見てるとうちの弟達思い出すんですよ~」
アーノルドは何故か俺たち二人を交互に見てから口を尖らせてケイトさんに耳打ちした。
「おい何でお前まで名前呼びしてんだよ」
「旦那様冷静にお考え下さい、この先ノアくんが旦那様と同じ苗字なった時の為に今から慣れる必要があるでしょう?」
「そうか!! 流石だなケイト、お前さんはよく分かってる」
詳しくは聞き取れないけれどどうやらケイトさんが褒められているらしい。急に上機嫌になったアーノルドが俺を見返しいつもの尊大な態度で口を開く。
「ノア後で俺の部屋に来い。家主命令だ!!」
「ちっ、承知しました」
「あれ今舌打ちしなかったか?」
「気のせいですよ。ノアくんとってもいい子ですし」
いい子、では残念ながらないが置いてもらっている身としては不本意ながらもアーノルドの命に従わなければならない。
仕方なく俺は簡単なティーセットを手にアーノルドの部屋を訪れることになった。
「アーノルド、俺だ」
「よぉ早く入れよ」
返事があったのを確認してから戸を開ける。だだっ広い造りの部屋には必要最低限の家具と散らばった買い物袋。服や靴等の衣装が呆れる程豊富な種類を揃えられている。
「ノアに似合うと思って王都で豪遊してきた、好きな物を選べ」
「馬鹿なのか、貴方は」
どうして俺に物を買い与えるんだ。
「悪いがそんな高価なものを理由もなく頂けない」
「ノアの為に買ってきたんだぜ? お前さんがこれからここで生活するのに必要だと思って」
「俺はやはりここで暮らすことになるのか?」
怪我も治ったことだし売り飛ばされるならそろそろだと思う。
「まだ信じてなかったのかよ」
少ししょげた様な物言いになるアーノルド。子供かこいつ。
「悪いが俺にはお前の言動が何ひとつ理解出来ない、俺を攫ったと思えば領地を留守にして随分呑気だな」
俺がその気になればこの屋敷にいる人間に危害を加えることだって出来たのだ。怪我をしていた、捕虜生活で弱っていたとはいえ一般人に負ける程腕は鈍っていない。それをこいつは信用の一言で済まし俺から目を離した。逃げられる可能性も背後を狙われる可能性も危惧せずだ。
ふざけるな、考えれば考える程怒りが湧いてくる。
「それは仕方なかったんだよ。うるせぇ貴族連中にお前引き取るの認めさせんのは結構骨が折れてなぁ」
そうだ、その手品みたいな話も聞いておかなくては。
「アーノルドお前はどうやって俺の死刑を取り止めさせたんだ?」
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