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27 待ち合わせ場所まで一緒に歩く
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アラームを早朝通学用の時間に設定して予定通り起きる。
羽深さんとまた登校か。おまけに弁当を作ってくれると言う。
これは一体何を目的としたものなんだ。
さっぱり分からん。
今だになんらかの陰謀が水面下で進行しているのではないかという一抹の不安が捨てきれない。
プロのDTとはいつも見えない敵と闘っているものなのだ。
そして結局負けるんだけどね。とほほ。
例の交差点に差し掛かると頃合いを見計らったかのように羽深さんと鉢合わせする。
一応駅で待ち合わせなんだけども待ち合わせ場所まで一緒に歩くという奇妙なことになる。
「いつあるの? ライブ」
「えっと来週の日曜日に」
「ねぇ、わたしも行きたい!」
「あぁ……チケットの招待枠貰ってるので……」
「いるっ!」
と僕が言い切らないうちに羽深さんは食いついてきた。
まあ他に招待しようと思ってた人もいないし構わないか。
「何人分いる?」
「一人で行くよ」
「へぇ……それはなんか意外……」
羽深さんといえばクラスでも常に取り巻きを侍らせているような人気者だ。
あ、そういえばあの中にいるの本当は好きじゃないんだったっけ。
カースト最上位もそれなりの大変さがあるんだなぁ。
「だって、他の子に——君の一番————ところ見られたらやだもん」
羽深さんが何か言ったが、はっきり聞き取れないくらいの小声でボソボソ言ってたので肝心のところでなんと言ってるのか分からなかった。なぜか口を尖らせているしあえてわざわざ聞き返すようなことはしなかった。
「ジンピカちゃんは歌上手い?」
また曜ちゃんの話か。
羽深さんって曜ちゃんの話になるとなぜか不機嫌な雰囲気出すくせに自分から曜ちゃんの話を振ってくるんだよな。どんだけ曜ちゃんに興味津々だよ。
あ、やっぱりあれか。
美人は美人のことが気になるもんなのかね。
「ねぇ、聞いてた?」
「あ、うん。まあ上手いんじゃないかな。でも歌い上げるってタイプじゃなくて、ナチュラルな感じ?」
駅に入って電車を待つ間、話題はずっとTHE TIMEのことだ。彼女も音楽好きだなぁ。
「ふぅん」
少しの間お互い言葉もなく、沈黙がそろそろ気まずいかなと思い始めたところで電車が到着した。
今日もこの時間だと車両内はガラガラに空いている。
羽深さんが座るのを待っていたら先に座るよう促された。
そうかなと思ってはいたが、僕が座るとそんなにしなくてもと思うくらい羽深さんは僕の隣にぴったり付けて座る。
そしてそうなるんじゃないかとこれまた予想した通り、二人して耳まで真っ赤になる。
だからそれならよせばいいのにと何度言えば……。
まあ言ってるのは僕の脳内でだけなので伝わってはいないのだけども。
「ねぇ、ジンピカちゃんの歌聴いてみたい」
「大丈夫。チケットはちゃんと渡せるはずだから聴けるよ」
「そうじゃなくて今聴けないかなって意味。つまり録音がそこに入ってないのかなと思って」
そう言って僕のスマホが入っているポケットをツンツン指先で突っつく。
「……あぁ……なるほど」
僕がポケットからスマホを出すと羽深さんは何か悪戯を思いついた子供みたいな顔をした。
「そうだっ。ねえねえ拓実君。この前みたいに二人で一緒に聴こ。ほらほら、イヤホン繋いで」
音楽としてはせっかくステレオ録音されたものなんだから両耳で聞いて欲しかったりするんだけど、ここでそんな講釈を垂れるのはさすがに不粋だ。
イヤホンをスマホに差し込んでTHE TIMEのアルバムを聴けるようにすると、イヤホンを片方渡すようにと羽深さんに急かされた。
イヤホンは左右に分岐しているが、すぐに一本のケーブルに収束するので二人でシェアするには本当にくっついてないといけない。
この密着感がプロのDTの心臓に大きく負担をかけるんだよな。
この通学をずっと続けたらそのうちマラソン大会でいい線まで行けるようになるんじゃなろうか。
その前に心臓が破裂しなければ。
しばらく聴いてると降りなければならない駅にきたのでそこで再生をストップしてイヤホンを外した。
イヤホンを外す羽深さんの耳を間近でまじまじと見てしまい、やっぱり美しい耳だと見惚れてしまった。
はむっとやりたい衝動に駆られてしまうが、それをやったらいろんな意味で終わるのでもちろん我慢する。こんな気持ちになるなんて、僕は変態だろうか……。
「どうだった?」
現実世界に戻らねばと羽深さんに感想を求めた。
「うーん。ドラムばっかりに集中しちゃって結局ジンピカちゃんの歌聴くの忘れてた。あはっ」
と羽深さんはかわいく笑った。
「聴こうよ、そこは」
「うん、そのつもりだったんだけどねぇ~。でもドラムがかっこいいんだもんっ」
くっ……またプロのDTのハートを弄ぶようなことをっ!?
どんなキラーチューンを聴くよりメロメロにされてしまった。
羽深さんとまた登校か。おまけに弁当を作ってくれると言う。
これは一体何を目的としたものなんだ。
さっぱり分からん。
今だになんらかの陰謀が水面下で進行しているのではないかという一抹の不安が捨てきれない。
プロのDTとはいつも見えない敵と闘っているものなのだ。
そして結局負けるんだけどね。とほほ。
例の交差点に差し掛かると頃合いを見計らったかのように羽深さんと鉢合わせする。
一応駅で待ち合わせなんだけども待ち合わせ場所まで一緒に歩くという奇妙なことになる。
「いつあるの? ライブ」
「えっと来週の日曜日に」
「ねぇ、わたしも行きたい!」
「あぁ……チケットの招待枠貰ってるので……」
「いるっ!」
と僕が言い切らないうちに羽深さんは食いついてきた。
まあ他に招待しようと思ってた人もいないし構わないか。
「何人分いる?」
「一人で行くよ」
「へぇ……それはなんか意外……」
羽深さんといえばクラスでも常に取り巻きを侍らせているような人気者だ。
あ、そういえばあの中にいるの本当は好きじゃないんだったっけ。
カースト最上位もそれなりの大変さがあるんだなぁ。
「だって、他の子に——君の一番————ところ見られたらやだもん」
羽深さんが何か言ったが、はっきり聞き取れないくらいの小声でボソボソ言ってたので肝心のところでなんと言ってるのか分からなかった。なぜか口を尖らせているしあえてわざわざ聞き返すようなことはしなかった。
「ジンピカちゃんは歌上手い?」
また曜ちゃんの話か。
羽深さんって曜ちゃんの話になるとなぜか不機嫌な雰囲気出すくせに自分から曜ちゃんの話を振ってくるんだよな。どんだけ曜ちゃんに興味津々だよ。
あ、やっぱりあれか。
美人は美人のことが気になるもんなのかね。
「ねぇ、聞いてた?」
「あ、うん。まあ上手いんじゃないかな。でも歌い上げるってタイプじゃなくて、ナチュラルな感じ?」
駅に入って電車を待つ間、話題はずっとTHE TIMEのことだ。彼女も音楽好きだなぁ。
「ふぅん」
少しの間お互い言葉もなく、沈黙がそろそろ気まずいかなと思い始めたところで電車が到着した。
今日もこの時間だと車両内はガラガラに空いている。
羽深さんが座るのを待っていたら先に座るよう促された。
そうかなと思ってはいたが、僕が座るとそんなにしなくてもと思うくらい羽深さんは僕の隣にぴったり付けて座る。
そしてそうなるんじゃないかとこれまた予想した通り、二人して耳まで真っ赤になる。
だからそれならよせばいいのにと何度言えば……。
まあ言ってるのは僕の脳内でだけなので伝わってはいないのだけども。
「ねぇ、ジンピカちゃんの歌聴いてみたい」
「大丈夫。チケットはちゃんと渡せるはずだから聴けるよ」
「そうじゃなくて今聴けないかなって意味。つまり録音がそこに入ってないのかなと思って」
そう言って僕のスマホが入っているポケットをツンツン指先で突っつく。
「……あぁ……なるほど」
僕がポケットからスマホを出すと羽深さんは何か悪戯を思いついた子供みたいな顔をした。
「そうだっ。ねえねえ拓実君。この前みたいに二人で一緒に聴こ。ほらほら、イヤホン繋いで」
音楽としてはせっかくステレオ録音されたものなんだから両耳で聞いて欲しかったりするんだけど、ここでそんな講釈を垂れるのはさすがに不粋だ。
イヤホンをスマホに差し込んでTHE TIMEのアルバムを聴けるようにすると、イヤホンを片方渡すようにと羽深さんに急かされた。
イヤホンは左右に分岐しているが、すぐに一本のケーブルに収束するので二人でシェアするには本当にくっついてないといけない。
この密着感がプロのDTの心臓に大きく負担をかけるんだよな。
この通学をずっと続けたらそのうちマラソン大会でいい線まで行けるようになるんじゃなろうか。
その前に心臓が破裂しなければ。
しばらく聴いてると降りなければならない駅にきたのでそこで再生をストップしてイヤホンを外した。
イヤホンを外す羽深さんの耳を間近でまじまじと見てしまい、やっぱり美しい耳だと見惚れてしまった。
はむっとやりたい衝動に駆られてしまうが、それをやったらいろんな意味で終わるのでもちろん我慢する。こんな気持ちになるなんて、僕は変態だろうか……。
「どうだった?」
現実世界に戻らねばと羽深さんに感想を求めた。
「うーん。ドラムばっかりに集中しちゃって結局ジンピカちゃんの歌聴くの忘れてた。あはっ」
と羽深さんはかわいく笑った。
「聴こうよ、そこは」
「うん、そのつもりだったんだけどねぇ~。でもドラムがかっこいいんだもんっ」
くっ……またプロのDTのハートを弄ぶようなことをっ!?
どんなキラーチューンを聴くよりメロメロにされてしまった。
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