【6/5完結】バンドマンと学園クイーンはいつまでもジレジレしてないでさっさとくっつけばいいと思うよ

星加のん

文字の大きさ
52 / 83

52 ねぇ、拓実君

しおりを挟む
 帰宅すると、僕はすぐに部屋にこもってキーボードに向かい、曲作りを始めた。
 ブラックミュージックっぽく、IIツーファイブと呼ばれるコード進行を多用しつつ、当時のモータウンサウンドでよく使われていたオンコード(分数コードとも言われる)も適度に入れつつ仕上げていく。
 メロディーとコード進行が決まったらアレンジを考える。楽器編成やリフ、フレーズを考えてどんどん演奏しながら録音していく。僕はギターもベースもある程度は弾けるので、こういう作業は捗る。ドラムは取り敢えず打ち込みで済ませておく。

「よし、できたっと」

 伸びをして方をほぐしてから、2ミックスをファイルに書き出してスマホに取り込む。
 この段階では単にデモ音源に過ぎないが、一応メグにメールして音源を送っておいた。

 寝る前になって、曜ちゃんからThreadに着信があった。それも珍しく通話の方で。

『あ、タクミ君? 今いいかな』

 と、遠慮がちに始まった通話だった。
 曜ちゃんは羽深さんとのバンドの件をやけに気にしていた。結局それが気になって電話してきたような感じだった。
 羽深さんもやたらと曜ちゃんのことを意識していたもんな。特に曜ちゃんのバンドを手伝ってることとか。その辺のことって、そんなに気になるものなのかなぁ。

 最終的にバンドをやることになりそうだと話したら、とても羨ましがられた。
 機能は結構険悪な雰囲気かと思ったんだけど、曜ちゃんも羽深さんとバンドやりたかったわけ? 不思議に思ってそう訊いてみたら、僕とバンドをやることになった羽深さんのことが羨ましいのだと言われた。
 そんなことを言われると僕もまんざらじゃない気持ちになるってもんだ。

「THE TIMEで一緒に演れて、すごく楽しかったよ、僕としても」

 正直にそう伝えたら泣かれてしまってうろたえた。女子を泣かしたなんて人生で経験のないことだったのだ。

『またTHE TIMEの方も手伝ってね』

「ぜひぜひ」

 という話で通話は終わった。
 その後、いつもみたいにメッセージの応酬が少しだけあって、僕も寝たのだが、翌朝も今まで通り曜ちゃんからのメッセージが届いたので、ちょっと安心した。何だろうか。せっかく仲良くなったのに、このままフェイドアウトしてしまうのは何だかすごく寂しい気がしていたのだ。付き合うとか付き合わないとかいう話とは別にね。

 そして登校時、今度は羽深さんと一緒になる。
 羽深さんは羽深さんで、曜ちゃんから連絡が来たかどうかをめっちゃ確認してくる。もう僕も特に隠すことなく連絡が来たことを話すのだが、すると今度は羽深さんが悲しそうな顔をする。
 僕は彼女たちが考えていることがさっぱり分からないのでどう応じていいのか分からない。これが僕を取り合っているなんていう話なら僕だってどうにかしようと思うところなんだけど、そんなわけないもんなぁ。

「あ、そうだ。バンド用に一曲作ってみたんだよね。まだ歌詞はついてないんだけど、聴いてみる?」

 ガラガラの電車の中、またぴったり隣り合わせて座る羽深さんに話を振ってみる。

「えっ、ホント!? 聴く聴くっ」

 ま、そうだよね。
 僕は音源を用意して羽深さんにAirdropする。またイヤホンをシェアして聞こうなんて言われたら心臓に悪いからな。
 羽深さんは音源を熱心に聞き入っている様子だ。最後まで聴いてから、また最初に戻って聴き始めた。
 聴き終わると、イヤホンを耳から抜いてくるくるまとめてケースに戻した。

「どうだった?」

 待ちきれない僕は質問する。

「うん……気に入っちゃった。えへへ」

 と、にっこり微笑んでみせた。

「そっかぁ。よかった。キーはどうかな。歌えそう?」

 キーの確認をしないまま作ったので、本格的な録音物にするためには羽深さんのキーに合わせて場合によっては取り直さないといけない。この間のセッションで大体の音域は把握していたから大丈夫だろうとは思うけど。

「うん、実際に歌ってみないと分かんないけど、多分大丈夫そう」

 それはよかった。ていうか羽深さんとバンドやるのか、本当に。今更になって実感が湧いてきた。
 僕の高校生活、大丈夫かなぁ。羽深さんとバンドをやるなんてみんなに知れたら、一体僕はどうなってしまうんだろうか。
 これまで、朝のひととき一緒に教室にいただけでひどい目に遭った。下校時、帰り道が同じだっただけでもこれまたひどい目に遭った。それが今度は一緒にバンドだぞ? 終わったな。正直終わった。僕のハイスクールライフ終わりました。
 果たして残りのハイスクールライフを犠牲にしてまでやる意義がこのバンドにはあるのだろうか。それだけの意義があったと思えるものにしたいなぁ。

「ねぇ、拓実君」

「ん?」

「どうもありがとう」

 そう言われた後、頬に触れる柔らかな感触と羽深さんの甘い香りが鼻をくすぐった。
 え? 今のって何だ? あれ? まさかの?
 横を向くと、俯いた羽深さんが耳まで真っ赤にして顔を両手で覆っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

秘密のキス

廣瀬純七
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...