【6/5完結】バンドマンと学園クイーンはいつまでもジレジレしてないでさっさとくっつけばいいと思うよ

星加のん

文字の大きさ
55 / 83

55 うん、爆発しよう

しおりを挟む
 羽深さんはこの頃、授業の合間合間にもちょいちょい僕のところへやってくる。
 そのせいで佐坂の歯軋りが聞こえてきそうな場面がしばしばあるのだが、知ってか知らずか、メグが大抵一緒なお陰でどうにか絡まれずに済んでいる。こういう時、カースト上位者が二人にモブ一人という構成だと何故だか変に絡まれずに済むようだ。佐坂みたいに絡んでくる輩の生態は理解し難いものだ。

「土曜日はついにバンドで初合わせだね。楽しみだなぁ。わたしバンドって初めてだし」

 羽深さんはよほど嬉しいのだろう。こぼれ落ちるような笑顔が眩しい。うっかり見惚れてしまわないようにこっちは必死だ。

「キーボード、いい奴いないかねぇ」

「キーボードなぁ……あんま情報ないよなぁ、キーボードやる奴」

 メグの伝手を駆使しても、まだキーボードプレイヤーが見つかっていないのだ。ピアノ経験者は多いので、キーボードをやれるという人はかなり多いのだが、実はバンドでキーボーディストをやるとなると、それだけでは不足を感じてしまう。

 音楽はそのジャンルによって典型的な演奏スタイルというものがある。
 ◯◯マナーなんて呼ばれるのがそれにあたる。例えばソウル・マナーとか、ゴスペル・マナーといった具合だ。要は音楽の慣用句とか様式美みたいなものだ。
 他の楽器にも言えることだが、そういったマナーに精通していて、適所でそういうフレージングやパターンをビシッと決められなくてはならない。それに一口にキーボードと言ってもいろんな楽器があり、それぞれに特徴的なボイシングやフレーズ、奏法があるわけだ。
 僕らのバンドの場合はコード譜だけで、バンドのアレンジを聴きながらそれを自分で判断してやってもらう必要がある。バンドスコアがあって、楽譜を見てパートを覚えるといったタイプのコピーバンドではないからだ。

 コードの繋げ方にもコツがあって、ピアノ経験者だからといって、コードのことなんかはまず知らないし、況してコード譜だけで最適なフレーズを弾くなんてことは普通無理なのだ。

 まぁ今回の音源では、僕がキーボードを弾いているので、耳コピーできる人ならそのまんまコピーして弾けばいいんだけど、それも普通の人にはなかなか難しいだろう。

 そんなわけで、僕らとやれるレベルのキーボードプレイヤーとなると意外に見つからない。

「まあ当面はオケでいいんじゃね?」

 どうせパソコンとの同期演奏だ。僕が弾いたトラックを流せば音としては足りる。

「あ、そういえばかなでちゃんはどうよ? アレンジは固まってるんだし、楠木が譜面書いて渡せばそれで良くね?」

 かなでちゃんというのは幼馴染で一年上の先輩だ。まあバンドでキーボードやってるし、そのバンドを僕とメグが手伝ったこともあるし、悪くはないと思うけど、譜面作るのめんどくさいなぁ。

「うーん……まあ悪くはないと思うけど……」

「何だよ。大方譜面作るの面倒くさいとか思ってんだろ?」

「バレたか」

 メグには完全に見透かされていたようだ。今回作った六曲はキーボード類に関しては全部僕が弾いたのだ。だからそれを譜面化してかなでちゃんに渡せということだ。

「どんだけ付き合い長いと思ってんの? 分かるっつうの」

「うーん、そんならかなでちゃんに頼んでみるか」

「ちょっとちょっとっ! かなでちゃんですと!? ここに来ていきなり知らないキャラが出てきたんですけど、そのかなでちゃんとやらは拓実君の何なの?!」

 出た。久々に出たなぁ、この羽深さん。

「僕の? まぁ、僕とは幼馴染?」

「お、幼馴染ですとぉっ!? ここに来て更なるライバル出現とは……まったくのノーマークだったわ……」

「ライバル? いや、メインボーカルの座はららちゃんで決まってるから心配いらないよ。あくまでキーボードだから。まあかなでちゃんにもバックコーラスくらいはお願いするかもだけど」

「むぅ……」

 一応フォローしたつもりだけど、羽深さんは黙りこくっている。大丈夫だって言うのに……。まさかバックコーラスですらさせたくないのか?
 メグの奴はそんな僕らを見てニヤニヤしている。何がおかしいんだよ、まったく。お前も何かフォロー入れろや。

「楠木ぃ」

「あ?」

「取り敢えずお前は爆発しとけな」

「はぁ?」

 何言ってんだ、メグは? 意味が分からん。

「いいんだよ、取り敢えず爆発な。お前の鈍さは国宝級だな」

「いやマジで何言ってんの? 国宝爆発させるんじゃねーよ」

「ん、それもそうか。国宝じゃないから爆発しとけ」

「そこは譲らねーのな」

「ダメーッ。拓実君爆発断固反対っ!」

「あー、はいはい。もう好きにしてくれや、お二人さんは。付き合いきれん」

 いやいや。爆発しろとか言う方が付き合いきれんわ。大体そういうのはリア充に対して言う言葉なんだよ。そんなことも知らんのかこいつは。これだからリア充って奴は。

「拓実君」

「ん、何?」

「ライブ本番では、むしろ爆発しようねっ!」

 そう言って拳を強く握りしめる羽深さん。結局爆発するのか。ま、でもそういう意味ならいいか。

「うん、爆発しよう」

「あー、やっぱりお前ら二人とも爆発してろ、チキショーめ」

 ん? つまり最終的には、爆発するって方向でまとまった……のか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

秘密のキス

廣瀬純七
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...