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60 チキンのチッね。
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「久しぶり」
THE TIMEのライブ以来、久しぶりに会う曜ちゃんだが、相変わらず見目麗しい。もっとも毎日Threadでのやり取りは相変わらず続いているので、実際のところ久しぶりという感じはそこまでしないのだけど。
「久しぶりだね。会うのが楽しみだったよ」
なんて言われて、思わず照れて赤面する。
こんなにかわいい子からそんなことを言われるなんて、もしも僕が当事者でなかったなら嫉妬のあまり呪詛の言葉を呟いているに違いない。
「さてと。それじゃぁ、今日はどこか行きたいところとかある?」
そこはプロのDTである。堂々と言えることでもないが、ノープランだ。
「よかったらなんだけど……後でまたタクミ君とセッションしたいなぁ」
ほぉ。さすがはミュージシャン。この前のセッションは確かに楽しかったなぁ。それもよさそうだ。
「うん、いいよ。それじゃぁ、それはメインイベントにするとして、それまで他にも楽しもうか。その前に腹ごしらえかな」
昼前に待ち合わせして、昼食を一緒に取るという計画だ。
ファミレスも何度か一緒に行ってるし、協議の結果、今日は某フライドチキン屋さんでランチをすることになった。
「おじさん、今日もお変わりないようで何よりです」
少しおどけた様子で、店の入口に立っている創業者のカーネル・ヨンダース人形に挨拶して曜ちゃんはお辞儀している。
ふふ、くだらないが曜ちゃんがやるとかわいいな。
カウンターでランチセットを受け取って席に着く。
「うふふっ」
と笑顔が溢れる今日の曜ちゃんはごきげんな様子だ。最後に見た曜ちゃんは、羽深さんと侃々諤々やり合うような勝ち気で厳しい様子だったので、今日の様子にホッとする。
「どうしたの?」
「うぅん。タクミ君と会えて嬉しいなって思って」
くわっ。なんてエモいことを言ってくれるのだ。惚れてしまうでしょうが。そんなこと言ったら惚れてしまうでしょうが。勢い付いてもう一回言うけど、惚れてしまうでしょうがっ。
まぁ、プロだからギリギリで踏み留まるけど。
「え……あ、ありがとう……ぼ、僕も嬉しいよ……」
思わず言葉に詰まってしまったが、どうにか言葉を返すと曜ちゃんはもじもじと俯いてしまった。
それを見た僕もこみ上げる照れ臭さのあまり直視できなくなってしまい、顔を逸らして曜ちゃんから意識を外す。
「そ、そう言えば新しいバンドの準備は進んでる?」
「え、まぁそうだね。この前レコーディングもして、今六曲分は出来上がってるよ」
少しぎこちないやり取りだが、なんとなく恥ずかしい感じのこの空気を変えなくては。ということでナイスだよ、曜ちゃん。
「ふぅん。そうなんだ。あの羽深さんとかいう女の子がボーカルなんだよね」
「あぁ、まあ、そうだね、うん」
う、気のせいだろうか。曜ちゃん、急に声の調子が冷ややかになった気がするんだけど……?
「へぇ、順調そうで何よりだね。羽深さんとも順調なのかなぁ?」
「あ、え? ど、どういう意味かなぁ。なんかよく分かんないんだけど……はは」
やっぱ怖いって。曜ちゃん、羽深さんに曜ちゃんのこと話したときみたいになってるんですけど、何なの? やっぱ美女同士の確執なの? ひえぇっ、怖い怖い。目が怖いですよ。
「チッ」
「え?」
今舌打ちしなかった? 舌打ちしたよね? あの曜ちゃんが舌打ち? え? えぇ?
「うぅん、何でもない。美味しいね、チキン」
「え、あぁ……うん。美味しい美味しい、うん。何だ、チキンね。チキンのチッね。なぁんだぁ、はは」
一瞬背筋を悪寒が走ったが、曜ちゃんの舌打ちは気のせいだったのか。まさか曜ちゃんがね。舌打ちなんてするわけないか、うん。気のせいだよね、気のせい。
「さて、このあとどうしよっか?」
「うーん、どうする? タクミ君はどこか行きたいところない?」
「あ、いやぁ……あ、そうだ。ぶらぶらとウィンドウショッピングとかしたくない?」
羽深さんに買い物と言い訳した手前、一応買い物だったという既成事実は欲しかったりする。姑息ではあるが。
「まあそれもいいけど、よかったらその前にプラネタリウムとかはどうかな? 夜星が見えるところまで遠出するとなると高校生じゃハードルが高いけど、プラネタリウムだったらわたしたちでも大丈夫だし」
「あ、あぁ、プラネタリウム! うん、いいねぇ。いいと思うよ」
プラネタリウムっていうのもなかなかロマンティックでよろしいんじゃなかろうか。デートっぽいし。
完全に曜ちゃんにリードしてもらってる感は情けないけど、どうにか失態を取り戻すべく、僕はスマホでプラネタリウムをやってる場所と上映時間を調べる。
「あ、ここなんてどうかな?」
と、スマホで調べたウェブサイトを曜ちゃんに見せる。
「あ、ここここ。わたし、行ってみたいなって思ってたんだ」
「お、マジで!? じゃあここにしよっか。えぇっと、移動も考えると次の上映時間は十四時からのになるかな。これでいい?」
再度確認すると、曜ちゃんも賛成してくれた。この時間なら移動を含めても十分まだ時間があるし慌てる必要もなさそうだ。
電車での移動だ。
羽深さんと違って曜ちゃんが執拗にくっついてくることはないけど、やっぱり隣に座られたら結局ドキドキするものだ。
「あのね、タクミ君。一つ確認しておきたいんだけど、いいかな」
「え、うん。いいけど、何かな?」
何だろう。嫌な予感しかしないけど、答えられる質問でお願いします。
「もしかしてタクミ君ってさあ、羽深さんと付き合ってたりするのかなぁ?」
ゲゲッ。なんかおんなじ質問を最近された気がするなぁ……。
そうだったらいいのになぁ。
THE TIMEのライブ以来、久しぶりに会う曜ちゃんだが、相変わらず見目麗しい。もっとも毎日Threadでのやり取りは相変わらず続いているので、実際のところ久しぶりという感じはそこまでしないのだけど。
「久しぶりだね。会うのが楽しみだったよ」
なんて言われて、思わず照れて赤面する。
こんなにかわいい子からそんなことを言われるなんて、もしも僕が当事者でなかったなら嫉妬のあまり呪詛の言葉を呟いているに違いない。
「さてと。それじゃぁ、今日はどこか行きたいところとかある?」
そこはプロのDTである。堂々と言えることでもないが、ノープランだ。
「よかったらなんだけど……後でまたタクミ君とセッションしたいなぁ」
ほぉ。さすがはミュージシャン。この前のセッションは確かに楽しかったなぁ。それもよさそうだ。
「うん、いいよ。それじゃぁ、それはメインイベントにするとして、それまで他にも楽しもうか。その前に腹ごしらえかな」
昼前に待ち合わせして、昼食を一緒に取るという計画だ。
ファミレスも何度か一緒に行ってるし、協議の結果、今日は某フライドチキン屋さんでランチをすることになった。
「おじさん、今日もお変わりないようで何よりです」
少しおどけた様子で、店の入口に立っている創業者のカーネル・ヨンダース人形に挨拶して曜ちゃんはお辞儀している。
ふふ、くだらないが曜ちゃんがやるとかわいいな。
カウンターでランチセットを受け取って席に着く。
「うふふっ」
と笑顔が溢れる今日の曜ちゃんはごきげんな様子だ。最後に見た曜ちゃんは、羽深さんと侃々諤々やり合うような勝ち気で厳しい様子だったので、今日の様子にホッとする。
「どうしたの?」
「うぅん。タクミ君と会えて嬉しいなって思って」
くわっ。なんてエモいことを言ってくれるのだ。惚れてしまうでしょうが。そんなこと言ったら惚れてしまうでしょうが。勢い付いてもう一回言うけど、惚れてしまうでしょうがっ。
まぁ、プロだからギリギリで踏み留まるけど。
「え……あ、ありがとう……ぼ、僕も嬉しいよ……」
思わず言葉に詰まってしまったが、どうにか言葉を返すと曜ちゃんはもじもじと俯いてしまった。
それを見た僕もこみ上げる照れ臭さのあまり直視できなくなってしまい、顔を逸らして曜ちゃんから意識を外す。
「そ、そう言えば新しいバンドの準備は進んでる?」
「え、まぁそうだね。この前レコーディングもして、今六曲分は出来上がってるよ」
少しぎこちないやり取りだが、なんとなく恥ずかしい感じのこの空気を変えなくては。ということでナイスだよ、曜ちゃん。
「ふぅん。そうなんだ。あの羽深さんとかいう女の子がボーカルなんだよね」
「あぁ、まあ、そうだね、うん」
う、気のせいだろうか。曜ちゃん、急に声の調子が冷ややかになった気がするんだけど……?
「へぇ、順調そうで何よりだね。羽深さんとも順調なのかなぁ?」
「あ、え? ど、どういう意味かなぁ。なんかよく分かんないんだけど……はは」
やっぱ怖いって。曜ちゃん、羽深さんに曜ちゃんのこと話したときみたいになってるんですけど、何なの? やっぱ美女同士の確執なの? ひえぇっ、怖い怖い。目が怖いですよ。
「チッ」
「え?」
今舌打ちしなかった? 舌打ちしたよね? あの曜ちゃんが舌打ち? え? えぇ?
「うぅん、何でもない。美味しいね、チキン」
「え、あぁ……うん。美味しい美味しい、うん。何だ、チキンね。チキンのチッね。なぁんだぁ、はは」
一瞬背筋を悪寒が走ったが、曜ちゃんの舌打ちは気のせいだったのか。まさか曜ちゃんがね。舌打ちなんてするわけないか、うん。気のせいだよね、気のせい。
「さて、このあとどうしよっか?」
「うーん、どうする? タクミ君はどこか行きたいところない?」
「あ、いやぁ……あ、そうだ。ぶらぶらとウィンドウショッピングとかしたくない?」
羽深さんに買い物と言い訳した手前、一応買い物だったという既成事実は欲しかったりする。姑息ではあるが。
「まあそれもいいけど、よかったらその前にプラネタリウムとかはどうかな? 夜星が見えるところまで遠出するとなると高校生じゃハードルが高いけど、プラネタリウムだったらわたしたちでも大丈夫だし」
「あ、あぁ、プラネタリウム! うん、いいねぇ。いいと思うよ」
プラネタリウムっていうのもなかなかロマンティックでよろしいんじゃなかろうか。デートっぽいし。
完全に曜ちゃんにリードしてもらってる感は情けないけど、どうにか失態を取り戻すべく、僕はスマホでプラネタリウムをやってる場所と上映時間を調べる。
「あ、ここなんてどうかな?」
と、スマホで調べたウェブサイトを曜ちゃんに見せる。
「あ、ここここ。わたし、行ってみたいなって思ってたんだ」
「お、マジで!? じゃあここにしよっか。えぇっと、移動も考えると次の上映時間は十四時からのになるかな。これでいい?」
再度確認すると、曜ちゃんも賛成してくれた。この時間なら移動を含めても十分まだ時間があるし慌てる必要もなさそうだ。
電車での移動だ。
羽深さんと違って曜ちゃんが執拗にくっついてくることはないけど、やっぱり隣に座られたら結局ドキドキするものだ。
「あのね、タクミ君。一つ確認しておきたいんだけど、いいかな」
「え、うん。いいけど、何かな?」
何だろう。嫌な予感しかしないけど、答えられる質問でお願いします。
「もしかしてタクミ君ってさあ、羽深さんと付き合ってたりするのかなぁ?」
ゲゲッ。なんかおんなじ質問を最近された気がするなぁ……。
そうだったらいいのになぁ。
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