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66 通ったじゃなくて通したのね
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あれからしばらく経つが、曜ちゃんとのThreadでのやり取りは通常のペースに戻った。
羽深さんとの登校や昼休みも同じだ。
なのに何かが違うと感じてしまうのはなぜなのだろう。
夏休みに入り、僕らのバンド、スタイル・ノットは演奏の完成度を上げるための練習を定期的に行なっている。
羽深さんはあれから一度も曜ちゃんとのことは口に出さないし、一方の曜ちゃんも、あの告白以来その返答について気にした風はない。と言うかむしろ告白なんてなかったことにでもしたいのか? と言うくらいに何も匂わせることさえない。
この何もない平穏が本当の平穏なのか。もしかして嵐の前の静けさというやつなのか。なんとなく後者ではないのかという胸騒ぎがしてならないのだが、杞憂だろうか。
そしてこれらのことこそが、僕の感じている何かが違うという違和感なのかもしれないなんて思ったり。
羅門の奴は相変わらずだ。羽深さんを執拗にデートに誘っているかと思えば、最近はかなでちゃんにまで声をかけたりと性懲りもない。
彼女たち二人が羅門の誘いに乗っているのかどうか、気にはなるがあれ以来そういう話題にはどことなく触れ難い。
誘いに乗っていないとしても、そのことを僕が気にしていること自体、資格もないくせに気にするのはおかしいと思われるだろうし、まかり間違ってデートしていたり付き合っていたりしたら、それはそれで僕にとってはショックが大きすぎる。
どちらにしてもいいことはないのだ。知らぬが仏でいるのが、正解とは言えずとも最適解なのじゃなかろうか。
曜ちゃんの方はどうだ。やり取りは相変わらず毎日あるとは言え、あれ以来会っていない。そもそも曜ちゃんとは、向こうから誘われた時にしか会っていないわけで、こちらからデートに誘うなんてことはない。
でも、よくよく考えてみると、メグに言われた僕のはっきりしない態度というやつが、こういうところなのかなという気もする。
誘われるまま、悪い気はしないのでそのままデートを楽しんでいたわけだけど、自分の気持ちははっきりさせないまま、ただ流されるままに曜ちゃんと会っていたんだもんな。それはやっぱり曜ちゃんに失礼な事だったんだろう。
僕が元々好きだったのは羽深さん。でも羽深さんとは仲良くなりそうでその実全然進展なしというか、僕からは手の届かない存在だ。
そこに突如現れて、僕なんかに好意を寄せてくれる奇特な美少女が曜ちゃんだ。当然僕だって悪い気はしないどころか心を惹かれるってもんだ。
元々好きなのにどう考えても僕には芽のない羽深さんと、こんな僕なんかに好意を寄せてくれる曜ちゃん。どちらを選ぶかはっきりさせるべきなのだろうけど、そこで一歩を踏み出せずにウジウジ悩んでいるのが現状だ。
結局、メグが言うとおり僕が腹を括るしかないのだろう。そう言うけど、それができれば悩まないんだけどなぁ。
「どうしたんだよ、拓実。いつもとは違う感じでボーッとして」
「あ? なんか微妙な言い方……」
バンド練習が一段落ついて一息ついているところにメグが寄ってきて小声で訊いてくる。
「いや、だってボーッとしてるのはいつものことだけどさぁ。そのいつものボーッとした感じとはちょっと違ってるから」
「んー。ちょっと考え事してただけだよ。お前に言われたことをな」
「ん、俺に? ……ふぅん」
一瞬怪訝そうな表情を浮かべたメグだが、すぐに思い当たった風ににやにやと嫌味な笑みでゆっくり頷きながら続けた。
「ま、そういうことなら思う存分悩めばいいさ。拓実には必要なことだ」
何となくメグが言ってることはそうなのだろうと自分でも納得したが、簡単に受け入れたと思われるのはちょっと癪に思えたので、メグにはしかめっ面を返してやった。
「あっ、そう言えば」
不意に思い出したという感じで声を上げたのは羽深さんだ。
「総入れ歯?」
くだらなすぎる茶々を入れたのが羅門。
「もぉ、茶化さないで聞いて。大事な発表です。えっとぉ……文化祭ライブで、わがスタイル・ノットのエントリーを通しましたぁっ」
「通ったじゃなくて通したのね」
小声でボソリと漏らしてくっくと笑いをこらえるかなでちゃんに釣られるように、メグも肩を震わしている。
確かに通したって言い回しが、羽深さんが生徒会役員としてのコネと権力を最大限発揮したことを暗に示していて、苦笑いのひとつも漏れようかってものだ。でもその辺りの強引さが羽深さんらしいっちゃらしくってさらに笑える。
そんなことしなくてもこのバンドの実力なら余裕で通るだろうと思うけど、それくらい羽深さんがこのバンドで文化祭ライブに出演することに意気込みをかけているってことなんだろう。
「ま、文化祭出演は絶対という前提で練習もしてきたわけだし、今更と言ったら今更だけど、いよいよ実感が湧いてきたわ」
そう言って羽深さんは自分を鼓舞するように言葉を噛み締めている。
右手でガッツポーツを作って口元を強く結ぶ羽深さんを眺めながら、やはりこの人はかわいいと改めて思う。そして同時に頭の中には曜ちゃんの顔が浮かんでしまう。
そっか、こういうところなんだろうな……。
羽深さんとの登校や昼休みも同じだ。
なのに何かが違うと感じてしまうのはなぜなのだろう。
夏休みに入り、僕らのバンド、スタイル・ノットは演奏の完成度を上げるための練習を定期的に行なっている。
羽深さんはあれから一度も曜ちゃんとのことは口に出さないし、一方の曜ちゃんも、あの告白以来その返答について気にした風はない。と言うかむしろ告白なんてなかったことにでもしたいのか? と言うくらいに何も匂わせることさえない。
この何もない平穏が本当の平穏なのか。もしかして嵐の前の静けさというやつなのか。なんとなく後者ではないのかという胸騒ぎがしてならないのだが、杞憂だろうか。
そしてこれらのことこそが、僕の感じている何かが違うという違和感なのかもしれないなんて思ったり。
羅門の奴は相変わらずだ。羽深さんを執拗にデートに誘っているかと思えば、最近はかなでちゃんにまで声をかけたりと性懲りもない。
彼女たち二人が羅門の誘いに乗っているのかどうか、気にはなるがあれ以来そういう話題にはどことなく触れ難い。
誘いに乗っていないとしても、そのことを僕が気にしていること自体、資格もないくせに気にするのはおかしいと思われるだろうし、まかり間違ってデートしていたり付き合っていたりしたら、それはそれで僕にとってはショックが大きすぎる。
どちらにしてもいいことはないのだ。知らぬが仏でいるのが、正解とは言えずとも最適解なのじゃなかろうか。
曜ちゃんの方はどうだ。やり取りは相変わらず毎日あるとは言え、あれ以来会っていない。そもそも曜ちゃんとは、向こうから誘われた時にしか会っていないわけで、こちらからデートに誘うなんてことはない。
でも、よくよく考えてみると、メグに言われた僕のはっきりしない態度というやつが、こういうところなのかなという気もする。
誘われるまま、悪い気はしないのでそのままデートを楽しんでいたわけだけど、自分の気持ちははっきりさせないまま、ただ流されるままに曜ちゃんと会っていたんだもんな。それはやっぱり曜ちゃんに失礼な事だったんだろう。
僕が元々好きだったのは羽深さん。でも羽深さんとは仲良くなりそうでその実全然進展なしというか、僕からは手の届かない存在だ。
そこに突如現れて、僕なんかに好意を寄せてくれる奇特な美少女が曜ちゃんだ。当然僕だって悪い気はしないどころか心を惹かれるってもんだ。
元々好きなのにどう考えても僕には芽のない羽深さんと、こんな僕なんかに好意を寄せてくれる曜ちゃん。どちらを選ぶかはっきりさせるべきなのだろうけど、そこで一歩を踏み出せずにウジウジ悩んでいるのが現状だ。
結局、メグが言うとおり僕が腹を括るしかないのだろう。そう言うけど、それができれば悩まないんだけどなぁ。
「どうしたんだよ、拓実。いつもとは違う感じでボーッとして」
「あ? なんか微妙な言い方……」
バンド練習が一段落ついて一息ついているところにメグが寄ってきて小声で訊いてくる。
「いや、だってボーッとしてるのはいつものことだけどさぁ。そのいつものボーッとした感じとはちょっと違ってるから」
「んー。ちょっと考え事してただけだよ。お前に言われたことをな」
「ん、俺に? ……ふぅん」
一瞬怪訝そうな表情を浮かべたメグだが、すぐに思い当たった風ににやにやと嫌味な笑みでゆっくり頷きながら続けた。
「ま、そういうことなら思う存分悩めばいいさ。拓実には必要なことだ」
何となくメグが言ってることはそうなのだろうと自分でも納得したが、簡単に受け入れたと思われるのはちょっと癪に思えたので、メグにはしかめっ面を返してやった。
「あっ、そう言えば」
不意に思い出したという感じで声を上げたのは羽深さんだ。
「総入れ歯?」
くだらなすぎる茶々を入れたのが羅門。
「もぉ、茶化さないで聞いて。大事な発表です。えっとぉ……文化祭ライブで、わがスタイル・ノットのエントリーを通しましたぁっ」
「通ったじゃなくて通したのね」
小声でボソリと漏らしてくっくと笑いをこらえるかなでちゃんに釣られるように、メグも肩を震わしている。
確かに通したって言い回しが、羽深さんが生徒会役員としてのコネと権力を最大限発揮したことを暗に示していて、苦笑いのひとつも漏れようかってものだ。でもその辺りの強引さが羽深さんらしいっちゃらしくってさらに笑える。
そんなことしなくてもこのバンドの実力なら余裕で通るだろうと思うけど、それくらい羽深さんがこのバンドで文化祭ライブに出演することに意気込みをかけているってことなんだろう。
「ま、文化祭出演は絶対という前提で練習もしてきたわけだし、今更と言ったら今更だけど、いよいよ実感が湧いてきたわ」
そう言って羽深さんは自分を鼓舞するように言葉を噛み締めている。
右手でガッツポーツを作って口元を強く結ぶ羽深さんを眺めながら、やはりこの人はかわいいと改めて思う。そして同時に頭の中には曜ちゃんの顔が浮かんでしまう。
そっか、こういうところなんだろうな……。
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