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第五章 パラレル
第121話 あたらしい友だち
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「楓、夏葉ちゃんがさ、新学期早々益々きれいになったと思わない?」
「思う。あれはきっと男ね。男がらみに違いないわ」
「そうね。男だわ。男に違いないわ」
はぁ~、なんか見当違いなこと言われてますけど何のことやら。
もちろん、友紀ちゃんと楓ちゃんのヒソヒソ話だ。わたしの隣でヒソヒソ話されても丸聞こえだっつーの。まぁ聞かせるつもり満々なわけだけど、反応すると面倒なので敢えて聞こえないフリをする。
「Jね」
「Jだね」
「そう、Jよ。ついにJなのよ」
「紆余曲折あってのJなのね」
「紆余曲折あったわぁー。遠い目で振り返っちゃうくらいにあったわー」
「しっ、見て。Jだわ」
「Jね」
「あ、おはよう。十一夜君」
「おはよう、華名咲さん」
「おはよう。十一夜君」
「古田さんと栗原さん、おはよう」
「おぉ、Jから名前付きで挨拶っ」
「おぉ、まるでお頭付きみたいにめでたいわね。友紀、今夜は赤飯よ」
「赤飯ね」
友紀ちゃんと楓ちゃんのわけの分からない会話に首を傾げたが、すぐに十一夜君はいつも通り机に伏して寝てしまった。
友紀ちゃんたちが言わんとするところは、大方邪魔者が消えて十一夜君とわたしがその、くっつくみたいなことだろう。
だけど、わたしと十一夜君の関係っていうのは、実際のところそういうのじゃないと思う。桐島さんに対する後ろめたさを共有する仲と言ったらいいのか……言わば共犯者。それが桐島さんの死後のわたしたちの関係だ。
この前のあれは、確かに他人が見たら恋人同士の甘い関係に見えたかもしれないし、わたしもなんかとてつもなくホッとしたのは確かだ。でもそれは多分、お互い後ろ暗い罪の意識を持つ者同士だという確認。言わば咎を共に背負っていくための儀式のようなもの。暗く甘やかな儀式だったのだ。
誰にもいうことのできない二人だけが共有している桐島さんに対する罪悪感。それがわたしと十一夜君の連帯感みたいなものを取り戻したのだと思う。
いや、取り戻したというとちょっと違うか。以前の連帯感とは少し違う。お互いが同じ謎を追っていることに加え、同じ後ろめたさで繋がっているこの意識は、以前とは明らかに違う居心地の良さと悪さが同居した不思議な連帯感を生んでいる。
「見て楓、夏葉ちゃんがまたニヤニヤしてるわ」
「ニヤニヤしてるわね。このリア充が」
「はぁ……」
わたしは大きく溜息を吐いてから二人を見据えた。
「ニヤニヤしてないし、Jとやらとも何もない。勝手に捏造しないで」
「またまたぁ。何もないことはないでしょうよ。夏休みまではなんかイライラピリピリしてる時あったし」
友紀ちゃんが少し棘のある言い方でわたしに抗議する。それはこの人たちがいろいろと変なことを言ってくるからでしょうが。
「あら、久しぶりに出たわよ。ほっぺた膨らませちゃって、かわいいんだ」
「かわいくないっ!」
しつこい友紀ちゃんに反論したところで細野先生が教室に入ってきた。朝礼が始まるのでひとまずここまでだ。
「なんだ、黛の奴は休みか。また体調悪いのかなぁ……」
出欠を取った先生がポツリと呟く。
黛くんの席に目をやると確かに空席だ。黛君かぁ、そういえば彼のことはいつも利用する本屋さん付近で目にするよなぁ。
あ、そういえばいつもそばにいるおじさんて、もしや警護の人とか? あり得るなぁ。確かお父様が国家機密に関わるお仕事だとかで、わたしが放課後たまたま接触しただけで見張られたことがあった。
それにしても彼、時々体調悪そうなんだよね。転向してきた当初は時差ぼけみたいだったけど、あれからずいぶん経つけど今でも時々調子が悪そうだ。体が弱いのかなぁ。
「えぇっと、それと唐突ですが転入生を紹介します。あ、入って」
と先生に手招きされて入ってきたのはディディエだった。おんなじクラスか~。
「あー、転入生のディディエ・デュシャン君です。はい拍手~」
「ハイ、ドーモー。ディディエデース。パリカラキタンジャネ? カヨートオバーチャンシマイデース。ヨロチクビー」
あっちゃー。早速残念感出してるよ、ディディエ。この残念イケメンか。
ってあれ? クラスの女子がなんかぽわ~んってなってるぞ? マジか。こんな残念イケメンでもいいんかいっ。はぁ~、まだまだ女子のこと分かってなかったかも……。
その日はディディエフィーバーとでも言ったらいいのか他のクラスからの見学と、その後あっという間に噂が広まったのか他学年からも生徒が集まってきて大騒ぎになった。帰りは入学式の時のように質問責めになったが、ディディエは呑気に応対していた。
話を聞きつけた秋菜が来てくれてようやく抜け出すことができたのだった。いやぁ、こういう時秋菜って頼りになるんだよなー。
その帰り、秋菜が久しぶりに甘味処うさぎ屋に寄って行こうということになって、ついにディディエ抹茶エスプーマ善哉デビューとなったのだった。
和食好きのディディエはかなり喜んでくれた。
またうさぎ屋ファンを増やしてしまった。
「思う。あれはきっと男ね。男がらみに違いないわ」
「そうね。男だわ。男に違いないわ」
はぁ~、なんか見当違いなこと言われてますけど何のことやら。
もちろん、友紀ちゃんと楓ちゃんのヒソヒソ話だ。わたしの隣でヒソヒソ話されても丸聞こえだっつーの。まぁ聞かせるつもり満々なわけだけど、反応すると面倒なので敢えて聞こえないフリをする。
「Jね」
「Jだね」
「そう、Jよ。ついにJなのよ」
「紆余曲折あってのJなのね」
「紆余曲折あったわぁー。遠い目で振り返っちゃうくらいにあったわー」
「しっ、見て。Jだわ」
「Jね」
「あ、おはよう。十一夜君」
「おはよう、華名咲さん」
「おはよう。十一夜君」
「古田さんと栗原さん、おはよう」
「おぉ、Jから名前付きで挨拶っ」
「おぉ、まるでお頭付きみたいにめでたいわね。友紀、今夜は赤飯よ」
「赤飯ね」
友紀ちゃんと楓ちゃんのわけの分からない会話に首を傾げたが、すぐに十一夜君はいつも通り机に伏して寝てしまった。
友紀ちゃんたちが言わんとするところは、大方邪魔者が消えて十一夜君とわたしがその、くっつくみたいなことだろう。
だけど、わたしと十一夜君の関係っていうのは、実際のところそういうのじゃないと思う。桐島さんに対する後ろめたさを共有する仲と言ったらいいのか……言わば共犯者。それが桐島さんの死後のわたしたちの関係だ。
この前のあれは、確かに他人が見たら恋人同士の甘い関係に見えたかもしれないし、わたしもなんかとてつもなくホッとしたのは確かだ。でもそれは多分、お互い後ろ暗い罪の意識を持つ者同士だという確認。言わば咎を共に背負っていくための儀式のようなもの。暗く甘やかな儀式だったのだ。
誰にもいうことのできない二人だけが共有している桐島さんに対する罪悪感。それがわたしと十一夜君の連帯感みたいなものを取り戻したのだと思う。
いや、取り戻したというとちょっと違うか。以前の連帯感とは少し違う。お互いが同じ謎を追っていることに加え、同じ後ろめたさで繋がっているこの意識は、以前とは明らかに違う居心地の良さと悪さが同居した不思議な連帯感を生んでいる。
「見て楓、夏葉ちゃんがまたニヤニヤしてるわ」
「ニヤニヤしてるわね。このリア充が」
「はぁ……」
わたしは大きく溜息を吐いてから二人を見据えた。
「ニヤニヤしてないし、Jとやらとも何もない。勝手に捏造しないで」
「またまたぁ。何もないことはないでしょうよ。夏休みまではなんかイライラピリピリしてる時あったし」
友紀ちゃんが少し棘のある言い方でわたしに抗議する。それはこの人たちがいろいろと変なことを言ってくるからでしょうが。
「あら、久しぶりに出たわよ。ほっぺた膨らませちゃって、かわいいんだ」
「かわいくないっ!」
しつこい友紀ちゃんに反論したところで細野先生が教室に入ってきた。朝礼が始まるのでひとまずここまでだ。
「なんだ、黛の奴は休みか。また体調悪いのかなぁ……」
出欠を取った先生がポツリと呟く。
黛くんの席に目をやると確かに空席だ。黛君かぁ、そういえば彼のことはいつも利用する本屋さん付近で目にするよなぁ。
あ、そういえばいつもそばにいるおじさんて、もしや警護の人とか? あり得るなぁ。確かお父様が国家機密に関わるお仕事だとかで、わたしが放課後たまたま接触しただけで見張られたことがあった。
それにしても彼、時々体調悪そうなんだよね。転向してきた当初は時差ぼけみたいだったけど、あれからずいぶん経つけど今でも時々調子が悪そうだ。体が弱いのかなぁ。
「えぇっと、それと唐突ですが転入生を紹介します。あ、入って」
と先生に手招きされて入ってきたのはディディエだった。おんなじクラスか~。
「あー、転入生のディディエ・デュシャン君です。はい拍手~」
「ハイ、ドーモー。ディディエデース。パリカラキタンジャネ? カヨートオバーチャンシマイデース。ヨロチクビー」
あっちゃー。早速残念感出してるよ、ディディエ。この残念イケメンか。
ってあれ? クラスの女子がなんかぽわ~んってなってるぞ? マジか。こんな残念イケメンでもいいんかいっ。はぁ~、まだまだ女子のこと分かってなかったかも……。
その日はディディエフィーバーとでも言ったらいいのか他のクラスからの見学と、その後あっという間に噂が広まったのか他学年からも生徒が集まってきて大騒ぎになった。帰りは入学式の時のように質問責めになったが、ディディエは呑気に応対していた。
話を聞きつけた秋菜が来てくれてようやく抜け出すことができたのだった。いやぁ、こういう時秋菜って頼りになるんだよなー。
その帰り、秋菜が久しぶりに甘味処うさぎ屋に寄って行こうということになって、ついにディディエ抹茶エスプーマ善哉デビューとなったのだった。
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