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#14 幸運祈願の軌跡
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編入三日目にして、周囲から小馬鹿にされながら受ける授業。或いは、それだけで気が狂ってしまう者もいるのかもしれない。
だが一応、その日の授業を全て終えた俺はそんなことははっきり言ってどうでもよかった。「周囲からの評価を気にしていたらキリがない」過去、アインはそんな風に言っていた。評価なんて、所詮は人によって変わるもの。誰かが「良い」と言っても、別の誰かが「悪い」と言うことなんてよくあることで、それら全てに対して反応するのは、それこそ時間の無駄遣いだ。
俺はそんな事を考えながら、理事長室でセリカと対峙していた。
いつかのようにソファに座ってではない。執務机を挟んでの、いわば『理事長』と『生徒』が話す場だ。
「……言い訳はあるかしら?」
「いいえ、まったく。俺には攻撃系統の黒魔術──《黒》も、補助系統の白魔術──《白》も、どちらもロクに使えない。それが純然たる事実です」
あくまでこれは公の会話。そう受け取った俺は敬語を使って話す。今までのは、セリカ一個人に対する対応だが、今の彼女は理事長だ。いくらなんでもタメ口では話さない。
「昨日の授業でも殆どの生徒が成功させる中、貴方だけが失敗に終わった。それも大失敗」
セリカ──否、理事長は何らかの書類を見やりながらそんなことを言った。恐らく、昨日の授業に関する報告書の類だろう。
「はぁ……よくもこんな成績で、このフェイト魔術学園に在籍していられるわね。恥ずかしくないの?」
「……イエスかノーで答えるなら、ノーです。俺に『恥ずかしい』なんて感情があると思いますか?」
「余計な事は言わなくて結構。問題は、貴方の成績が過去最悪の記録出しかねないという事──要するに、貴方がこの学園の汚点となり得てしまうということよ」
やはり理事長としては、そんな不穏分子はさっさと消してしまいたいよな。そうなると退学か……さて、アインをどう抑えつけようなかな。
「私達、学園としての最善の行動──それは貴方の退学よ」
やっぱりそうなるか。うわ、たった三日しか経ってないのに、また荷造りするのか……さすがにめんどくさいな。
俺がそんなどうでもいい心配をしていると、理事長は突如立ち上がった。
「……と、理事長なら言うべきなんでしょうね」
「──?」
俺が疑問を抱いていたのを無視して、彼女はソファに座った。
「座ってちょうだい──レンさん」
柔らかく微笑む彼女の表情を見て、俺は察した。
「ああ、なら遠慮なく──セリカ」
どうやらそれで正解のようだ。セリカは小さく頷いた。
「って、そっちじゃなくてこっちよ」
そう言ってセリカは自らの横の空いているスペースを手でポンと叩いた。俺はその指示通りに、セリカの横に腰掛ける。
「……男の膝なんて、硬いだけだと思うけど」
「いいのよ。私がしたいだけなんだから」
俺がセリカの横に座ると、彼女は俺の膝に頭を乗せて寝そべった──いわゆる、膝枕の体勢になったのだ。
過去にアインにもされたが、本当に男の膝なんて気持ちいいのだろうか?
「ふふ、アインも良い教育するじゃない」
膝枕をしている時は頭を撫でる──アインに教わった通りにやると、セリカはご満悦のようで表情こそ見えないものの、声は弾んでいた。
「今回は体質、発動しないんだな?」
「何よ、レンさんにはこれがそういう空気に感じられるの?」
言われてみれば、今はそういった空気ではない。もっと和やかな雰囲気だ。
「──まさか。発動しないのにも納得だよ」
「ならよろしい」
それっきり、数分の間理事長室に声が聞こえる事はなく、ひたすらに静謐だけが続いていた。
だがそれが気まずくない。心地の良い空間なのだ。この時間が永遠に続けばいい──そう思うほどに。
とはいえ、そんな事があるわけもなく、躊躇いながらも徐にセリカは口を開いた。
「……理事長として、私は貴方を退学にすべきだと思う」
それに対して俺は怒ったり、嘆いたりせず、あくまで彼女の頭を撫でながら続きを聴く。
「でも、セリカ=フォネアスはそれを望んでいないの……ねえ、教えてよ……私はどうすればいいの……?」
その声が震え、掠れていたが、俺は敢えてそれを指摘せずに逡巡する。
立場と思いに挟まれ、苛まれる。そういった経験は、誰しもがあるはずだ。そして俺は、よくある熱血少年漫画みたいに「立場なんて知らない! 大切なのは、お前がどう思っているかだ!」なんて、無責任な発言はできない。
一時の感情に駆られて立場を捨てれば、この先の輝かしい未来をわざわざドブに投げる事になる。そんな人生の大事な場面であんなろくでなし極まりない言葉を言えるわけがない。
だから俺にできる事といえば、せいぜい妥協案を出す事くらいだ。
「今度、聖アスタライト女学院との交流会があるって聞いた。そしてそこでは、魔術の腕以外にも、知識やコミニュケーション能力が試されるとも。だから、そこで俺を見極めてくれないか? 俺が、この学園に相応しいかどうかをさ」
聖アスタライト女学院は歴史的にもかなり長く続いており、その伝統は今なお引き継がれいる。ゆえに貴族の中では娘を入学させるならとりあえずここだとすら言われている──いわば、乙女の箱庭なのだ。そんな学院と交流会ができるのは、フェイトの実績あってのものだろうが。
そんな男子に免疫の無い女子達から、信頼を掴む。それができれば、或いは学園で必要と見做されるかもしれない。そういったテストだ。
「……分かったわ。ただし、やるからには私は理事長として贔屓目無しに判断する。だから、温情なんて期待しないでね」
「ああ、勿論だ。そうじゃないと意味がないからな」
「ならいいわ。そろそろ私も仕事に戻るわね」
そう言ってセリカを体を起こして、立ち上がった。
すぐに執務机に戻るかと思いきや、彼女は俺の前に立つと、
──チュッ
「ん……これは、幸運のおまじないよ。だから、今だけはこうする事も許してよね」
彼女は座っている俺の額に口づけをしたかと思うと、そのまま抱きついてきた。俺と彼女の身長差だと、丁度俺の顔の位置に胸がきて中々呼吸がしづらいのだが、そんなことを気にせずに俺はセリカの背中を優しくさすってやる。きっとこうすれば、俺達に『幸運』が訪れるだろうから──。
だが一応、その日の授業を全て終えた俺はそんなことははっきり言ってどうでもよかった。「周囲からの評価を気にしていたらキリがない」過去、アインはそんな風に言っていた。評価なんて、所詮は人によって変わるもの。誰かが「良い」と言っても、別の誰かが「悪い」と言うことなんてよくあることで、それら全てに対して反応するのは、それこそ時間の無駄遣いだ。
俺はそんな事を考えながら、理事長室でセリカと対峙していた。
いつかのようにソファに座ってではない。執務机を挟んでの、いわば『理事長』と『生徒』が話す場だ。
「……言い訳はあるかしら?」
「いいえ、まったく。俺には攻撃系統の黒魔術──《黒》も、補助系統の白魔術──《白》も、どちらもロクに使えない。それが純然たる事実です」
あくまでこれは公の会話。そう受け取った俺は敬語を使って話す。今までのは、セリカ一個人に対する対応だが、今の彼女は理事長だ。いくらなんでもタメ口では話さない。
「昨日の授業でも殆どの生徒が成功させる中、貴方だけが失敗に終わった。それも大失敗」
セリカ──否、理事長は何らかの書類を見やりながらそんなことを言った。恐らく、昨日の授業に関する報告書の類だろう。
「はぁ……よくもこんな成績で、このフェイト魔術学園に在籍していられるわね。恥ずかしくないの?」
「……イエスかノーで答えるなら、ノーです。俺に『恥ずかしい』なんて感情があると思いますか?」
「余計な事は言わなくて結構。問題は、貴方の成績が過去最悪の記録出しかねないという事──要するに、貴方がこの学園の汚点となり得てしまうということよ」
やはり理事長としては、そんな不穏分子はさっさと消してしまいたいよな。そうなると退学か……さて、アインをどう抑えつけようなかな。
「私達、学園としての最善の行動──それは貴方の退学よ」
やっぱりそうなるか。うわ、たった三日しか経ってないのに、また荷造りするのか……さすがにめんどくさいな。
俺がそんなどうでもいい心配をしていると、理事長は突如立ち上がった。
「……と、理事長なら言うべきなんでしょうね」
「──?」
俺が疑問を抱いていたのを無視して、彼女はソファに座った。
「座ってちょうだい──レンさん」
柔らかく微笑む彼女の表情を見て、俺は察した。
「ああ、なら遠慮なく──セリカ」
どうやらそれで正解のようだ。セリカは小さく頷いた。
「って、そっちじゃなくてこっちよ」
そう言ってセリカは自らの横の空いているスペースを手でポンと叩いた。俺はその指示通りに、セリカの横に腰掛ける。
「……男の膝なんて、硬いだけだと思うけど」
「いいのよ。私がしたいだけなんだから」
俺がセリカの横に座ると、彼女は俺の膝に頭を乗せて寝そべった──いわゆる、膝枕の体勢になったのだ。
過去にアインにもされたが、本当に男の膝なんて気持ちいいのだろうか?
「ふふ、アインも良い教育するじゃない」
膝枕をしている時は頭を撫でる──アインに教わった通りにやると、セリカはご満悦のようで表情こそ見えないものの、声は弾んでいた。
「今回は体質、発動しないんだな?」
「何よ、レンさんにはこれがそういう空気に感じられるの?」
言われてみれば、今はそういった空気ではない。もっと和やかな雰囲気だ。
「──まさか。発動しないのにも納得だよ」
「ならよろしい」
それっきり、数分の間理事長室に声が聞こえる事はなく、ひたすらに静謐だけが続いていた。
だがそれが気まずくない。心地の良い空間なのだ。この時間が永遠に続けばいい──そう思うほどに。
とはいえ、そんな事があるわけもなく、躊躇いながらも徐にセリカは口を開いた。
「……理事長として、私は貴方を退学にすべきだと思う」
それに対して俺は怒ったり、嘆いたりせず、あくまで彼女の頭を撫でながら続きを聴く。
「でも、セリカ=フォネアスはそれを望んでいないの……ねえ、教えてよ……私はどうすればいいの……?」
その声が震え、掠れていたが、俺は敢えてそれを指摘せずに逡巡する。
立場と思いに挟まれ、苛まれる。そういった経験は、誰しもがあるはずだ。そして俺は、よくある熱血少年漫画みたいに「立場なんて知らない! 大切なのは、お前がどう思っているかだ!」なんて、無責任な発言はできない。
一時の感情に駆られて立場を捨てれば、この先の輝かしい未来をわざわざドブに投げる事になる。そんな人生の大事な場面であんなろくでなし極まりない言葉を言えるわけがない。
だから俺にできる事といえば、せいぜい妥協案を出す事くらいだ。
「今度、聖アスタライト女学院との交流会があるって聞いた。そしてそこでは、魔術の腕以外にも、知識やコミニュケーション能力が試されるとも。だから、そこで俺を見極めてくれないか? 俺が、この学園に相応しいかどうかをさ」
聖アスタライト女学院は歴史的にもかなり長く続いており、その伝統は今なお引き継がれいる。ゆえに貴族の中では娘を入学させるならとりあえずここだとすら言われている──いわば、乙女の箱庭なのだ。そんな学院と交流会ができるのは、フェイトの実績あってのものだろうが。
そんな男子に免疫の無い女子達から、信頼を掴む。それができれば、或いは学園で必要と見做されるかもしれない。そういったテストだ。
「……分かったわ。ただし、やるからには私は理事長として贔屓目無しに判断する。だから、温情なんて期待しないでね」
「ああ、勿論だ。そうじゃないと意味がないからな」
「ならいいわ。そろそろ私も仕事に戻るわね」
そう言ってセリカを体を起こして、立ち上がった。
すぐに執務机に戻るかと思いきや、彼女は俺の前に立つと、
──チュッ
「ん……これは、幸運のおまじないよ。だから、今だけはこうする事も許してよね」
彼女は座っている俺の額に口づけをしたかと思うと、そのまま抱きついてきた。俺と彼女の身長差だと、丁度俺の顔の位置に胸がきて中々呼吸がしづらいのだが、そんなことを気にせずに俺はセリカの背中を優しくさすってやる。きっとこうすれば、俺達に『幸運』が訪れるだろうから──。
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