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第三話 女子高生とクラスメート
8、
しおりを挟む慌てて立ち上がった私は、机にガッ!としたたかに足を打ち付けて、痛みで顔を歪めた。
だが上がる悲鳴にバッと顔を上げる。
上げた私の視界で──鮮血が舞うのだった。
「ぎゃあああああ!!」
誰の悲鳴か分からない。悲鳴と共に床に倒れ込んでしまったから。
倒れ込み、そのまま動かなくなってしまった。そして床に広がる赤い液体──
「ひ、ひいいいい……!」
男子生徒が腰を抜かして床にへたり込む。その股からはだらしない失禁の跡。
それを無表情で見ながら、明美はその男子に近付いた。どこにそんな力が、と思うくらいに軽々と大鎌を振り上げる
「やめ……!」
静止の言葉は最後まで紡がれることは無かった。無表情で明美が大鎌を振り下ろす!
ドンッ!!
鎌の先は床に突き刺さった。──男子の体を突き抜けて。
それが限界だった。
体は大きくなってきたとは言えまだ高校一年生。
子供の精神で耐えれるレベルは振り切っていたのだ。
「いやあああ!!」
誰かが叫んで教室を飛び出す!
一人二人とそれに続き、最後は雪崩のように扉へと全員が走り出した。
「ま、待ってよ!」
私も慌ててそれに倣って走り出す。窓際の席で有る事が悔やまれるくらいに、廊下が遠く感じられた。
その時だった。
「結衣!ま、待って……置いてかないで!」
ガシッと足を掴まれてたたらを踏んだ。
何よ!邪魔するんじゃないわよ!
おそらく私は鬼の形相だったに違いない。私の顔を見て一瞬怯んだのは……私と仲の良い女友達だった。
ビクッと怯えるも、彼女は私の足を掴む手を離そうとはしなかった。
「結衣、待って、助けて!腰が抜けて……あ、足が動かないのよう!」
涙を浮かべガクガク震える友達。
だがその背後には──
「ひ!」
大鎌を持った死神然とした明美が迫っていたのだ!
「いや、いやあ!結衣、助けて、助けてよ!!」
「──ち!」
だが私がしたことは、舌打ち。それだけして、私は思い切り彼女の顔を蹴ったのだ!片足が掴まれてるのであまり力が入らないものの、それでも渾身の蹴りは──
「ぎゃ!!」
彼女が手を離すには十分なものだったのだ!
足が解放されると同時に私は走り出す。
「結衣!?結衣!」
「ざけんな!どうして私があんたなんかを助けなきゃいけないんだよ!」
そう叫んで私はひた走る!後ろを振り返る事のないままようやく廊下に出たところで。
悲鳴とグシャリという音が背後で聞こえた気がした。
──だが私は止まる事はしなかった。
ひたすら走る!
誰かが隣の教室を開けようとしていたが……
「あ、開かない!なんで!?なんで開かないの!?ねえ誰か!誰か助けてよ!!」
ガタガタと扉を動かそうとするも、扉はビクともしない。
そうこうしてるうちに背後で嫌な気配がした。
扉を開けようとしていた生徒の顔が真っ青になり、目が見開かれる。それだけで背後に何が居るのか分かった。
だから私は走る。
生徒の横を走り去る際に──ちゃんとその子を突き飛ばしておくのを忘れなかった私は賢いと思うの。
「きゃあ!袴田さん、何を──」
「私の為に囮になってね~」
ヒラヒラと手を振る私は勿論背後を振り返らなかった。
悲鳴とまたも嫌な音だけが背後で聞こえた。
そうよ、あんた達も同罪なんだから。
明美を虐めたやつ。いつだって誰もが笑っていた。泣いてる明美を見て、ゲラゲラ笑っていたのだから。
クラス全体のいじめでも、何もしない傍観者や止める者が一人くらいは居るものだ。だがこのクラスは違った。
不思議な連帯感が生まれたと言うべきだろうか。
誰もが虐めに加担したのだ。
もし加わらなければ、次の獲物は自分かもしれない。そんな不安を持つ者も居たのかもしれない。
だが理由はどうあれ、虐めに加担した事実になんら変わりはないのだ。
私は確かに首謀者かもしれない。
最初に始めたのは私だったかもしれない。
でも誰にも強要した事なんてなかったんだ。ちょっとつついて誘導しただけなんだから。
私は悪くない。
悪いのはあいつらだ。
私は悪くない。
死ぬべきなのは私以外の人間──!!
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