【完結】ドクロ伯爵の優雅な夜の過ごし方

リオール

文字の大きさ
29 / 48
第三章 【吸血鬼伯爵の優雅ではない夜】

3、

しおりを挟む
 
 短い濃紺の髪をもつ声の主は、目にかかる前髪を乱暴にかき上げる。そこから覗く瞳には、夜の闇のような漆黒が広がっていた。
 色白な肌には整った顔立ちが乗る。一見すれば美少年。けれどそうでないことを、ドランケはよく知っている。

「なんだよ、ヘルシアラか」

 その名が、声の主が女性であることを物語る。
 ドランケが良く知る女性は、彼がパンパンと体のゴミを払う姿を前に、顔をしかめた。

「あなた、クサイわよ……」
「自分で突き飛ばしておきながら、それはひどくないか?」

 よし行くぞと気合いを入れようとしたドランケを、突き飛ばした張本人。その人にクサイと言われては凹むというもの。

「まさかあんな簡単に吹き飛ぶと思わなかったんだもの」
「まさかゴミ山に吹き飛ばされると思わなかった」

 なぜか非難めいたことを言われては、反論したくなるというもの。
 まさか、まさか、の応酬に、最初に溜め息をついたのはドランケだった。ヘルシアラという女性に何を言ったところで、結局は自分が悪いんだで終わることを知っているから。

(彼女は相も変わらず子供っぽい……)

 見た目年齢16、7といったところのヘルシアラの中身は、若いという印象を裏切らない。
 もうくせに。

(ディアナとは大違いだ)

 経緯は異なるが、目の前の少女もまたアルビエン伯爵の手によって、記憶をもったまま転生を繰り返している。
 そのことに関してはなんとも思わない。伯爵がやったことにドランケが異を唱えることはないから。
 ただ、めんどくさいなとは思う。

 伯爵もモンドーもそしてドランケも、ディアナとは異なりヘルシアラを積極的に探すことはしない。ディアナに対しては責任が……とか言ってるくせに、ヘルシアラには責任が生じないのか? とも思うが、余計なことを言って伯爵の怒りを買うのはよろしくないので黙っている。

 そもそも、ドランケはできればヘルシアラに関わりたくないと思っているのだ。それは彼女の職業に関係する。

 できれば出会いたくなかったなあ……と考えていたら、そんな彼の顔をジッと覗き込む少女。その視線の強さに、あ、嫌な予感がすると思った直後。

「ドランケ、あなた血の匂いがする」

 嫌な予感ほど当たるなと、星空を見上げるドランケであった。
 そんな彼の様子に、ますます目の光を強め、細める少女。

「吸血行為、したわね!」

 鼻に刺さりそうな勢いで、指を突き付けられて思わずドランケの目がより目になる。
 返答に窮していると、指がパッと離れ、彼女の手は腰にぶら下げられている剣へと向かった。グリップを握りしめ、ヘルシアラが睨む。

「答えなさい、ドランケ!」
「……あーまあ……ちょこっと吸った」

 言うが早いか、ドランケの眼前を風が横切る。目にも止まらぬ早さ、風のごとき抜刀とはこのことか。
 ヘルシアラの手によって抜き放たれた剣が、ヒュッという音と共にドランケの前髪を数本切り落とした。

「おい、危ないだろ」

 言葉とは裏腹に、上半身を少し逸らしただけで刃を避けたドランケが、余裕をもって言う。

「あたしはあたしの使命を果たすまでよ!」
「お前、相変わらずなのか?」
「そうよ!」

 言って、返す刀で今度は胴体めがけて剣が横一線に払われる。だがこれもドランケはひょいと軽くジャンプして避けた。

「なんで、転生するたびに同じ職業を選ぶかねえ……」
「これがあたしの天職だから!」

 文句あっか! と言われれば、文句しかないと言い返したいところだが、そんなことを言えば少女がますますムキになるのが分かる。
 だからドランケはボンと音を立てて、コウモリへと変身するのだ。

「ちょ、逃げるの!?」
「お前の相手をしてたら、夜があっという間に終わっちまう」
「待ちなさい、今夜こそその命に引導渡してやるんだから!」
「そりゃ困る」

 言って、バササ……と羽ばたき音を残して、ドランケはその場を後にするのだった。

「もー! また逃げられたあ!」

 何度も転生して、何度もドランケを追いかける。
 伯爵が彼女を探そうとしないのは、ディアナと違って想い人ではないというのも理由の一つ。だがそれ以上に、探す必要がないから探さないのだ。

 伯爵の気まぐれで転生を繰り返す少女の仕事は、吸血鬼ハンター。
 そしてヘルシアラはドランケに恋してる。

 恋する少女のパワーは計り知れず、何度生まれ変わっても彼女はハンターになった。そうすることでドランケの情報を手に入れやすくするためだ。
 結果、どの生でも彼女は現れる。伯爵……というより、ドランケの前に必ず現れるのだ。

 永遠の時を生きるアルビエン伯爵は、退屈が大嫌い。
 ドラ男に恋する珍しい少女の存在も、また伯爵の人生を面白おかしくするスパイス。

 伯爵の気まぐれで転生し続ける少女は、今夜もまた愛する男に逃げられるのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

精霊に愛される(呪いにもにた愛)少女~全属性の加護を貰う~

如月花恋
ファンタジー
今この世界にはたくさんの精霊がいる その精霊達から生まれた瞬間に加護を貰う 稀に2つ以上の属性の2体の精霊から加護を貰うことがある まぁ大体は親の属性を受け継ぐのだが… だが…全属性の加護を貰うなど不可能とされてきた… そんな時に生まれたシャルロッテ 全属性の加護を持つ少女 いったいこれからどうなるのか…

【完結】婚約者なんて眼中にありません

らんか
恋愛
 あー、気が抜ける。  婚約者とのお茶会なのにときめかない……  私は若いお子様には興味ないんだってば。  やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?    大人の哀愁が滲み出ているわぁ。  それに強くて守ってもらえそう。  男はやっぱり包容力よね!  私も守ってもらいたいわぁ!    これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語…… 短めのお話です。 サクッと、読み終えてしまえます。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...