【完結】ドクロ伯爵の優雅な夜の過ごし方

リオール

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第三章 【吸血鬼伯爵の優雅ではない夜】

13、

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 剣呑な空気が流れ、ピリとした緊張が走ったその時。
 パンと空気を破る音が打ち鳴らされた。ブルーノリアが手を打ったのだ。

「再会を懐かしんでいるところ申し訳ないですが。私としては早く用件を済ませて、街へと繰り出したいと思います。人の居ない道での旅路だったもので、空腹なんですよ」
「デイサムの……いや、アルの領土内での吸血行為は俺が許さん」
「あなたに許可を貰う必要はありません」

 ドランケと付き合いのある三人は、アルビエン伯爵を知っている。
 だが初対面のブルーノリアは彼を知らない。だからこそ、このような暴挙に出れるのだろう。

「なに、あなたあの男を知らないの?」

 驚いた様子で聞くのはエルマシリア。伯爵を知っている彼女は、むしろライバルのような存在であるディアナのほうが気になるところ。彼女のことをドランケが気に入っているからだ。ヘルシアラのように仲良くする気はサラサラない。

「知らないけれど、なんとなく察しました。人ではないのでしょう? おそらくは……先ほどの謎の視線の正体かな?」

 確認のようにドランケを見るが、肩をすくめて無言のままという反応しか得られなかった。

「え、そうなの? さっきの、アルビエンなの?」
「さあな」

 エルマシリアの問いには声を出して返すも、つれない返事にかわりない。
 次に信じられない、という目でブルーノリアを見たのは少年吸血鬼アーベルン。

「うわあ、ここが伯爵の領地? 知らなかった、よくこんなとこで吸血行為しようと思うね」

 その言葉には少しばかり驚くブルーノリア。

「そのアルビエン伯爵とやらは、そんなにも強いのか?」

 少年吸血鬼はけして弱くない。いや、むしろ強いほうだろう。
 その彼が嫌がるような存在に、ブルーノリアの興味がわいてくる。

「僕なら彼の領地内で吸血行為をしようとは思わないね。そもそも駄目って言われてるんじゃないの? ねえドランケ」

 確認のようにドランケに目を向ければ、「そうだ」と簡潔な答え。

「あいつ、怒ると恐いからなあ……」

 一体何があったんだと聞きたくなるような目で、遠くを見つめるのはダンタス。この巨漢のマッチョ吸血鬼ですら嫌がる相手とは一体どのような存在なのだ?
 人ではない、吸血鬼でもない。そして吸血鬼が恐れるほどの存在。

「そのアルビエン伯爵とやら、興味がありますね」

 いよいよ嬉しそうに、顎を撫でながら言うブルーノリア。その肩にポン、ポン、と手が複数置かれたのは直後のこと。

「悪いことは言わないわ、知らないまま帰った方が身のためよ」とはエルマシリア。
「僕は知らない方が良かったと、幾度も後悔したよ。悪いことは言わない、帰りな」同情するようにアーベルン。
「ま、俺様のように鍛えてから出直すんだな。それでも伯爵に勝てるかは微妙だけどよ」そう言って力こぶを見せるのはダンタス。

 三者三様に言い方は異なるが、共通して「帰れ」と言われては、反論できないのが普通。
 だがブルーノリアは普通ではなかった。可哀想なことに彼は好奇心が強い。そして世の中には、『恐いもの見たさ』というものがある。今の彼の心境はそれ。

「ますます興味がわきました」

 ニコリと笑顔で言う彼に、三人が向けた目はなんとも言えない複雑のものだった。

「同情するわ……」

 エルマシリアの声が彼に届いたかどうか。

「ま、いいさ。俺も久々にあいつに会いたいし。今から行くか?」
「え?」

 ダンタスの提案に、戸惑う声を上げるのはブルーノリア。興味はあれど、会うのは今ではないと思ってた彼はちと焦る。

「いや、今は……」
「あらいいわねえ。今世のディアナとはもう出会ってるのかしら? もうお婆ちゃんになってたりして? 是非会いたいわ!」
「いやエルマシリア、今はそれよりドランケの……」
「いいんじゃない? 僕は伯爵のお話、好きだしね」
「アーベルン、お前まで……。そもそもキミらを呼んだのは、ドランケのだね……」

 吸血行為をしない吸血鬼への裁きをしたかったんだけど。
 ブルーノリアの声を聞く者はいない。もう三人ともに、脳内にはドランケやらディアナやら、おまけのヘルシアラが占めている。

 困った顔で三人を見つめるブルーノリアの肩に、また手が一つポンと置かれた。振り向く彼の視線の先には、無表情のドランケが立っている。

「お前、結構な阿呆だろ」

 その言葉にいたく傷つくブルーノリアであった。

(アルビエン伯爵って何者なんだ?)
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