44 / 44
第四章〜戦士の村
20、
しおりを挟む「アリーに手を出したらタダじゃおかねえ」
いきなり不穏な言葉で始まったなおい。
今の言葉は、アリーの父の言葉、ガジマルドからのありがた……くないお言葉である。
「出さねえよ。相手16歳だぞ」
「信用できん。あんなに可愛い子を、お前が放っておくとは思えん」
「出さねえっつってんだろ。そもそも俺の好みと真逆で……まて、斧は駄目だと思う」
冗談が通じない父親だな!
全てが終わり、ガジマルドの村へと戻った俺達。
「迷惑かけてごめんなさい」とサティが頭を下げたところで一件落着となったわけだが(いいのかそれで? いいんだよそれで)、その後の後日談がよろしくない。
色々と散らかった村の掃除も終わり、さてそろそろ旅を再開させようかなという段階で、ガジマルドの娘アリーが言ってきた。
「私も一緒に行くからよろしく~!」
と。
まあ当然のように、ガジマルド……父ちゃんが荒れる荒れる。
「あんなクズで下劣で最低野郎と一緒に行くなんて、パパは許しません!」
とか言ってるし。
そのクズで下劣で最低野郎って俺のことじゃないだろうな。俺のことだったら、そのケツを二つにぶった切るぞ、とお互いに剣を握って睨み合ったのは少し前のこと。
そのまま放置しといたら三日三晩は睨み合いが続いたと思われるが、ガジマルドの妻でアリーの母親であるササラが割って入って、難を逃れた。
「父親なら、娘の独り立ちを見守ってやんな!」
ツルの一声である。
嫁さん溺愛のガジマルドが、その言葉に異論を唱えれるわけもない。
そんなわけで、アリーが俺らの旅に同行することが決定した。あれ、俺の意見は? 聞く必要ない? さいで。
シャティアは当然のように喜んでいるし、エリンやビータンが反対する様子もない。
戦士見習いのアリ―は、さすがガジマルド直伝とばかりに、なかなかの腕っぷしがある。旅の荷物にはならんだろうし、彼女にとっても修行となる。
こうなったら、今更俺やガジマルドがなに言ったところで、意見が通るはずもない。
魔王倒した伝説のパーティー二人の意見が、一番ないがしろにされてるってどうなの。
なんてぼやいても、出立の日はやって来るわけで。
そうして、目やら鼻やら口から、色々と水分出して汚いガジマルドが出来上がるわけだ。
「アリー、危なくなったら、レオンを囮にして逃げろよ」
「まかせて!」
「レオンが襲ってきたら、斧で頭カチ割れよ!」
「おっけー!」
なにこの親子の会話。
「シャティア、パパはちょっと泣いてもいいかなあ」
「パパじゃなくてレオンでしょ」
「今それ言う!?」
娘の塩対応に、泣けるわ。
「にしてもレオン、本気でそいつも連れて行くのか?」
さっきまで娘とバカ話してたガジマルドが、不意に聞いてきた。一転してマジ顔である。
それ、とは俺の肩を指差している。
そこにはれいの、小さくなった黒龍が乗っていた。
「なんかすっかり仲良くなってな。なつかれたってとこか」
「大丈夫かあ?」
「まあ大丈夫だろ」
「軽いな」
言いながらも、ガジマルドも心配はしてない様子。人間性は信用していないが、勇者の実力は信用してるってか。喜んでいいのか?
「ねえパパ」
「パパって言うんかい」
いったん娘にツッコミ入れておく。
「その子の名前、シータンでどう」
「なんで」
「こっちがビータンだから」
「いや意味分からん。つーか安直だな」
「ぶー。じゃあパパならなんて名前つけるの?」
「じゃあサータンで」
言った瞬間、ゴンッと頭が鈍い音を響かせた。
ガジマルドが殴って来たのだ。
「ぅおいっ! お前それ、伸ばし棒なかったら、魔王の名前じゃねえか!」
「んじゃサタン」
「伸ばし棒をなくすな!!!! 不吉きわまりないわい!」
「ちっ、じゃあザタン」
「それならいい」
いいんだ!? 濁点つけただけでそんなに変わる!?
ガジマルドの感覚が分からん!
そうこうしているうちに、別れの時がやって来る。というか早く出発せんと、次の村だか町だかに着くのが遅くなってしまう。せっかく日の出と共に起きたのに、意味ねえ。
「じゃあな」
「おう、またな」
10年ぶりに会ったってのに、またっていつだって話だが、俺達はそんなことを気にしない。会う時は会うし、会わない時は会わない。それでも再会すれば、俺達はいつだって昔の関係に戻れるんだ。
「お前との久々の冒険、楽しかったぜ」ガジマルドが二ッと笑う。
「そうだな」かつてのそれとは大違いの、可愛い冒険。それでも俺も楽しかったと笑う。
ポンと互いの肩を叩いて、俺達は別れた。
「行ってきまーす」
「気をつけてな、アリィィィッ!!!!」
手を振るアリーに向かって、また涙と鼻水でベトベトになるガジマルド。さっきのクールな別れが台無しじゃねえか。
そうして俺達は戦士の村を後にした。
しばらく歩けば、どこにいたのやら姿を消していたサティが現れる。
「なにやってたんだよ」
「私やっぱり行かない」
「はあ?」
魔族ってのは気まぐれだ。気分がコロッと変わるのはよくある話だ。
「じゃあ最後にこいつの名前を聞いていけ」
言って俺はおもむろに、黒龍を指差した。自分の城にいた黒龍に名前がついたことに、少し目を開くサティ。
「名前?」
「そ。こいつの名前は今日からザタンだ」
「なにそれ、だっさ!」
「サタンからとったんだが」
「なにそれ最高。一緒に行くわ」
チョロい魔族がここに!
「いやあ、女性が多いって素晴らしいなあ。そう思わんか、ザタン、ビータン」
言って、俺は黒龍と黒狼を見る。
だが直後、シャティアが「ビータンは女の子だよ」という言葉に卒倒しかけた。
「マジ!?」
「うん」
それは予想外。なにこれ、ハーレム? 喜ぶべきなのか……。
「ザタン、男同士仲良くしような」
「がう」
ザタンがなんて言ったのか分からない。だがなんとなく俺を慰めてくれているようで、嬉しくなった。
「はあ……まあいいや。次の町を目指すかあ……」
見上げた空は青かった。
~第四章 完~
※次は新章です!
12
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる