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しおりを挟むある天気の良い日に婚約者が珍しく学園で話しかけてきた。
「ラリーラ、きみとの婚約を破棄することにした」
「うーわマジですか?やった嬉しい最高!メッサル様、たまにはいい事しますねえ!」
女好きで浮気ばかりの婚約者からの、まさかの婚約破棄宣言。これが喜ばないでいられようか。
なにせこちらは立場の弱い伯爵家。侯爵家との婚約破棄なんて恐れ多くて言えない立場だったのだ。それがまさかの相手から言って来たとなれば、これを受けないわけがない!お断りするなんて恐れ多いわあ(棒読み)。
飛び上がりそうな勢いで喜んでる私を見て呆気にとられるメッサル様。話は終わりですよね、と立ち去ろうとしたら腕を掴まれた。スキップしようとしてたから、いきなり止められて転びそうになったじゃないか。
「ま、待て!いいのか婚約破棄で!?悲しくないのか?寂しくないのか!?」
「なんで?」
違った今のなし、不敬だとか言わないでね私達の仲じゃないか。どんな仲だって言われたら困るんだけど。もう、婚約者だから、とも言えないしな。
「どうしてですか?」
言い直しの聞き返しをしてから、ああでも待てよと考えた。こういう時は演技でも悲しむフリをすべきなんだろうか。ひょっとしてそんな私の姿を見て高笑いしたいからメッサル様はそんなこと聞くんじゃないだろうか。
なるほど、女好きなだけあって女を軽視する糞野郎だったわけだ。まあそうだよね、婚約者の私をほったらかしにして、毎日いろんな令嬢とデートなんだもの。……毎日相手が違うの分かってながらメッサル様とデートする令嬢達もすごいよね。
「うっぐすっひっく、うわーん悲しいよー寂しいよー、婚約破棄なんて嫌だよー。でも仕方ないかー、だってメッサル様が言ってきたんだものー、侯爵家から言われたんだものー、仕方ないか―だって私伯爵令嬢だものー」
以上、棒読みである。
「凄い棒読みだな」
仕方ないでしょうが、だって私女優じゃないものアクトレスじゃないもの!大根だもの!人参嫌いだもの!
「人参くらい食べろ」
「やだ声に出てました?」
「むしろ声に出してないと思えるのが凄いくらいの大声が出てたぞ」
あらやだ。まあでもメッサル様のご希望通りに悲しみましたよ、寂しがりましたよ。なのでもう行っていいですかね。あ、よくない。腕離してくれない。さようで。
一体何なのだと睨むように見れば、困ったような顔で私を見つめるメッサル様。
「メッサル様、もう行って宜しいでしょうか?」
私としましては、残り少ない休み時間中にお花摘みに行きたいのですよ。が、さすがにそんなことを殿方には言いずらい。そして何か言いたげなメッサル様なので、私も困って彼の顔を見るしかない。
そんな私達を──廊下のど真ん中で私の腕を掴むメッサル様。そして見つめ合う二人──を見て、同級生たちが冷やかしの声をかけて去って行った。待て、待ってくれ、その冷やかしちょっと待った。私達はたった今婚約破棄したんだよ。ラブラブどころかライクでもないんだよ。誤解すな。
これ以上の誤解は避けたいと、私はちょっと力を入れて自分の腕を振った。意外にあっさりとメッサル様の手は離れ、私は解放された。なんだ最初から振りほどけば良かったのか。
「それではメッサル様、ごきげんよう」
もう二度とお会いすることもないでしょう。てのは違うか、同じ学園に通ってるのだから会わないのは難しいか。しかも夜会とか、卒業しても会う機会は山のようにあるだろう。
まあでもいい。
メッサル様が誰とデートしようが。
誰とダンスしようが。
婚約関係がなくなった私には関係のないことだ。
私は頭を下げてメッサル様から離れ……ちょっと進んでからスキップを始めたのだった。
ひゃっほー!私は自由だ!自由サイコー!!
そんな私の下手糞なスキップを、メッサル様がただただ見つめてるとも知らずに。
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