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「やあミーシャ、今帰りかい?」
授業が終わり、帰ろうとしたところでカルシスと出くわした。クラスは違えど学年は同じなのだから、こうやって帰宅が同じになるのは珍しくないことだ。
そしていつもなら……
「ええカルシス。それじゃあね」
「え、ミーシャ!?」
驚いた顔で私の名前をカルシスが呼ぶ。
「なあに?」
「え、いや……その……」
いつもなら。
私は自分の馬車に一緒に乗ろうと誘う。そしてカルシスの伯爵邸に寄ってから、私の──公爵邸に帰るのが当然の流れだった。
だから私が誘わない事に驚いたのだ。
本当は気持ちを押し殺して一緒に帰るべきなのだ。怪しまれない為にはそうすべきだと分かってる。
それでもどうにも我慢できないものだってあるのだ。
きっと今一緒に馬車に乗ろうものなら……カルシスと一緒に、狭い空間である馬車に乗ってしまったら。
吐く自信がある。
「ごめんなさい、今日は体調が悪くて。早く帰りたいの」
「あ、ああ、そうか、それは大変だ。早く帰ってゆっくり休むんだよ」
そう言うカルシスの表情は、心底心配してますというようで。昼の情事を見なければ、きっと私はとても嬉しかった事だろう。馬鹿みたいに、なんて優しい婚約者だとウットリしてたことだろう。
でももう違う。今の私は違う。
私は婚約者の裏切りを知ってしまった。もう、無条件に婚約者を愛した馬鹿な娘は、どこにも居ないのだ。
それでも今は耐えなければいけない。内心歯軋りをしていても、表面上はカルシスに申し訳なさそうな顔をしなければいけない。
その時がくるまで。
私は演じる事を決意する。
出来るだろうか?
一抹の不安がよぎるのは、このグツグツと煮えくり返るはらわたのせいか。
──出来るかどうかじゃない。やるんだ。
弱音が出そうになる己の心を叱咤しながら、私は決意を胸に馬車に乗り込むのだった。
音を立てて走り去る馬車。格上の公爵家が馬車は、流石に我が伯爵家のそれより数段大きく立派だ。乗り心地も最高の代物。
今日はそれに乗って帰りたい気分だったので、ミーシャを待っていた。会えば必ず彼女は同席を提案してくるから。
だからまさか、誘われないなんて思わず。驚いてしまった。
遠ざかる馬車を見送りながら、まあそんな事もあるよなと俺は思いながら。
「ふうん……?」
眉をしかめて小さく呟くのだった。
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