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しおりを挟む「バルバラ、すまないが君との婚約は無かったことにして欲しい。僕は真に愛する人を見つけてしまったんだ」
はい、テンプレですね。
「バル、ごめんなさいね。貴女の婚約者だと分かってても、この気持ちは止められないの。でも安心して、この侯爵家は私が継いでちゃあんと統治してあげるから」
うん、またもテンプレですねえ。
「バルバラ、辛いだろうが諦めておくれ。この侯爵家は優秀な者に継いで欲しいんだ。そして、お前の姉ハリシアほど優秀な者は居ないと評判なのはお前も知ってるだろう?デッシュ様と共にこの侯爵家を二人が支えてくれる。お前は侯爵家を出て好きに生きなさい」
ほらきたテンプレ~。
──ちょっと待ってください。
馬鹿なことを言って簡単に婚約破棄しちゃおうとする元婚約者とか。
ごめんねと言いながらニヤニヤ気持ちの悪い笑みを浮かべてる姉とか。
正直どうでもいいんですけどね。何言ってんだろこの馬鹿二人ってくらいしか考えないのだけど。
父親である現侯爵家当主の言葉は聞き捨てならなかった。
「侯爵家を出る?」
「そうだ。これからこの家はハリシアとデッシュ様のものとなる。新婚の二人にお前の存在は邪魔だろう。ここを出て好きにしなさい」
「出るってどこへ?」
「何処へなりとも」
何言ってるんだろうか、この父親は。
「それはいつですか?」
「今日にでも、と言いたいところだが私も鬼じゃない。明日には出て行きなさい」
実の父の正気を疑いたいくらいなのだけど。悲しいかな、真剣に言ってるんだからどうしようもない。
私は「分かりました」とだけ言って立ち上がり、自室へと向かうのだった。
「ごめんね、バル。結婚式には呼ぶから、どこに住むか決まったら教えてね」
いきなり婚約破棄をつきつけられ。
いきなり家を追い出されて。
一体どこへ行けというのだろう。
とりあえず脳内でこの三人をフルボッコにした私は、すぐさま部屋に戻って荷物をまとめるのだった。
「明日出ていけですって!?一体どういうことですか、バルバラお嬢様!」
当然のように怒り狂うは私の専属メイド、リラだ。どういうことかって私が聞きたい。
でもまあいいんじゃなかろうか。
実は私は内心ウキウキなんである。
なぜって。
「せっかく出て行って良いって言ってるんだから、この際その言葉に甘えて出ましょ。どうやらお父様は重要な事を忘れてるみたいだから」
「え?」
「リラ、忘れたの?この家から、私が出たらどうなるか。侯爵家がどうなるか、分かってるでしょ?」
「あ~……なるほど」
そこでようやく合点がいったのか、ポンと手を叩いて、怒りを収めたニッコニコの笑顔を向けてくるのだった。
「そうですね、やっとお嬢様も休息が出来るってもんです!」
「そうそう、そういうことよ」
「では急ぎ支度しますね!」
「うんお願い」
いそいそと荷物をまとめ始めたリラを見やり、私も必要な物をまとめるべく動くのだった。
傾きかけた公爵家令息のデッシュ。
妹から婚約者を奪い取った姉ハリシア。
私より亡き母に似た姉を溺愛する父。
みなさんお忘れのようですが、この侯爵家──うまく立ち回ってるのは私のお陰であること、お忘れでしょうか?
『お前の姉ハリシアほど優秀な者は居ないと評判なのはお前も知ってるだろう?』
ええそうですね。
頑張っても頑張っても、手柄は全て姉のものとして吹聴してくださった父。
なぜか私があくせく働いてるのを見てるはずなのに。
遊び呆けてる姉を見てるはずなのに。
そんな父の言葉を信じる元婚約者デッシュ。
私が家を出たらどうなるか。
さて、見ものですねえ。
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