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この国には王太子というか、王子は一人しか居ない。彼は国王の第一子で唯一の男なのだ。他には妹王女が三人おられるのみ。国王は側室をもたなかったので、直系の子供四人だけ。
だからなのかなあ。
周囲から大切に大切にされすぎた結果。
とんでもない馬鹿が誕生したのだ。
学園で遠くから見かけた王太子の側には、いつも女性が居た。
それは一年生の時からで、相手は上級生・同級生・下級生……節操ないくらいに、毎回違っていた。
イチャラブシーンも目が腐る程に見てきた。ほんと目が腐るかと思ったよ。目薬必須ね。
目薬といえば、点眼した直後に王太子とバッタリ会った時、
『なんだ俺が他の女といちゃついてるのが悲しくて泣いてたのか』
とか言ってたな。アホか、お前はアホか、いやアホだよな。どう見たら私がお前に惚れてると思うんだ、目薬貸してやろうか?目薬の貸し借りは駄目ってか?そうか、なら眼科行け!
そう心の中で毒づいた事もあったっけ。声に出さなかっただけ、私も成長したというものだ。
婚約者が居るのに、よくまあそんなに女をとっかえひっかえ出来るな。
ということを、やんわり言ったこともあるのだが。
『なんのことだ?そんな女は知らん、忘れた!』
と言って別の女のとこに行くやつを……クズと呼ばずして、何をクズと呼べばいいのか。
そうして今、目の前に佇むクズに、私の機嫌はいよいよもって最悪となるのだった。
父と二人して挨拶をした後、父は王に近付いて何やら話している。
ポツンと残された私をチラリと見て、フンッと鼻息荒くする王太子。──あ~嫌だ嫌だ。
私の渾身のウンザリ顔を見ようともしないで(見ろよ!渾身の白目顔してやったのに!)王太子は、大きな椅子に腰かける王を見やるのだった。
「父上、お願いがあります」
いやちょっと待て、今お前の父親である王と、公爵家当主であり宰相でもある私の父が話してるんだ。割り込むなや。
なんて常識が通用する相手なら、そう思う。
だが私は思わない、この馬鹿相手に思わない!
そして期待する。
次なる言葉に!
さあ言え、婚約解消をお願いしろ!
「こいつと結婚したとして、側室は何人までオッケーですか?出来れば十人くらいは許可を頂きたいのですが……」
──ちょおっと待てやあああぁっ!!
それ!?お願いってそれ!?
んなこと結婚前から聞いちゃう!?ねえ聞いちゃうの!?でもって十人って凄くね!?お前実は絶倫か!?
そして私が期待したのはそこではない!
もっとあるだろうがぁっ!ほら、ほら!
私としては、王太子から婚約解消を言って欲しかったのに!私からは立場上言いにくいから!
つまり何か、面倒な王妃は私に押し付けて、側室には自分好みの女をはべらせて、そいつらとくんずほぐれつ、イチャムチャアハ~ン(…)しようってか!?
ふざけんなよ!!
流石に額に青筋浮かぶのを抑えられなかった私は、視線だけで殺せちゃうかもしれない目で王太子を睨みつけるのだった。なぜか父の手の平が目の前に現れて視線遮られちゃったけどね。やめてよ私の殺人光線を阻まないで。
どうにか目を戻した私を確認して手がどかされる。
視界に入ったのは、同じく額に青筋立てて眉間に皺寄せてる国王様。あ、殺人光線出せそうな人がここにも居たわ。
「ボンシュよ……そなた、何を言ってるのか分かってるのか?」
「勿論です、父上!立場上このカタリーナと結婚しなければならないのは分かってます!ですが!自由恋愛も認めていただきたいのです!」
うん、言ってることは、まあ分からなくもない。
貴族の世界で政略結婚なんて当然。だから皆、愛人だの側室だのつくるのも、これまた当然。
でもなあ。
十人って!!
むしろ、『愛する人が居るんです!』って一人とかならまだ分かるんだけどなあ……十人て!何度でも言うわ、十人て!!
そしてやっと名前出たわ!
ボンシュ(ボンクラではないのか?)王太子は、しかし私達の『うわあ、こいつやべえ』という視線をものともせず、すっごいドヤ顔で王に進言するのだった。
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